建築家・前田圭作による蜘蛛の巣状の木架構のもとで家族が緩やかに繋がる住まい「巣-pider」

広島県福山市を拠点に活動する建築設計事務所「UID」代表、建築家・前田圭介は、敷地や自然環境を活かした、独創的な空間構成と素材の魅力を引き出したデザインを得意としています。2021年に完成した、「巣-pider」は、蜘蛛の巣をモチーフとしたユニークな形態を持つ、4人家族のための住まい。採光やプライバシーの確保といった住宅街ならではの課題を自由な視点でクリアした一軒です。

住宅街における「巣」の戦略的配置

Photo : Kazunori Fujimoto

「巣-pider」は丘陵地を開発した郊外の住宅街に建つ家族4人の住まい。周辺は分譲住宅に囲まれ、画一的な風景を作っていました。敷地は北面道路に接道し、東西は坂道に沿った状態で隣地とは僅かな段差を伴っています。南面に対しては大きな高低差が作る雛壇状が特徴的な場所でした。

そこで計画にあたり、南西面の崖地が空地ということもあり建築全体を敷地に対して45度振った配置にすることで眺望・通風・採光・プライバシーを確保したおおらかな環境を与えました。

「蜘蛛の巣」を象徴する構造的アプローチ

Photo : Kazunori Fujimoto

当初の計画から、八角形の蜘蛛の巣状の架構を頂部から脚部へ向けて覆い被せることで求心的な一空間としています。脚部は4点で支え、支点間の頂点を結んだ三角形の開口によって内外を繋ぐ。

Photo : Kazunori Fujimoto

立ち上がりの角4点で屋根架構を支えており、深い軒によって周辺隣家からプライバシーを確保しています。建築周囲には軒のシルエットを生かすためグラス系の低木を中心に植栽しています。

箱が織りなす個々の時間と家族の時間

Photo : Kazunori Fujimoto

内部は床、壁、天井それぞれが針葉樹の合板で構成された、木の温かみを感じる空間となっています。

Photo : Kazunori Fujimoto

延床77㎡の内部には4つの箱を配置することで家族それぞれのスペースを確保。

Photo : Kazunori Fujimoto

それらの周囲に生まれる生まれる余白部分が、家族共有の場として機能する構成となっています。ボックスの角は一部を曲面にすることで余白の空間の拡張に繋がります。

Photo : Kazunori Fujimoto

さらに各々の箱もアルコーブのような居場所として開かれており、家族それぞれの時間を楽しむことができるようになっています。

Photo : Kazunori Fujimoto

室内はスペースごとに床やボックスの高さに差をつけることで、立体的な奥行きを設けています。

Photo : Kazunori Fujimoto

また、建築の端部にはそれぞれデスクスペースを用意。程よい篭り感で集中できる、落ち着いた空間です。

多様な距離感で家族それぞれの暮らしを豊かに

敷地の制限をクリアしながら、家族の時間と個々の時間を緩やかに繋ぐ構成に導いた「巣-pider」八角形の蜘蛛の巣状の木架構を覆い被せることで、眺望や採光、通風やプライバシーの確保に至るまで、住宅街のなかでも快適に過ごせる空間となりました。ユニークな外観からは想像できないような、家族それぞれの心地良い暮らしを可能にした一軒です。