静岡茶産業の再生へ「緑茶と睡眠」をテーマに活動している起業家の矢田裕香さん
静岡県で睡眠サポート食品や寝具の販売、茶畑で眠るスリープツーリズムの企画運営をしている株式会社kobachi代表取締役の矢田裕香さん。
今回は、矢田裕香さんのお茶への想いや暮らしの中で大切にされているデザインなどについてお話を伺いました。
株式会社kobachi代表取締役の矢田裕香さん
静岡県でスタートアップの起業家として活動している。以前は、京都で料理の方からキャリアをスタートした。その後、料理研究家として東京で色々活動したが現在は、自分の地元である静岡県のお茶産業をなんとかしたいと思い、現在は静岡県で起業家として新たな1歩を踏み出した。
暮らしの中で大切にしているデザイン
はじめに、矢田さんが暮らしの中で大切にしているデザインについて伺いました。
「今の自分に合っているかを大切にしています。過去のデータや未来の予想や口コミなど選ぶ際に、さまざまな基準があります。しかし、このデザインを取る自分は今の私であるため『今の私』に心地良いかどうかその心の揺らぎを大切にしています。以前は、いつも選び切れなくてずっと口コミを見ていたりしていました。お茶をテーマに起業したことで、茶道に触れる機会を持ち、人生をデザインする上で『今』の自分に集中する大切さを学びました。」
茶道から得られる精神性は?
続いて、茶道から得られる精神性はどのようなものでしょうか?
「茶道は、マニュアルに従って後で振り返るようなものではなく、『今その空間』一期一会でできた、その瞬間にしか存在しない空間を感じとることを教えられます。そのため、自然とお茶を立てる『今この瞬間』に集中せざるを得ません。茶道を通じて、今自分がしていることを丁寧に大切にしようと思えるようになりました。」
好きな場所や空間は?
矢田さんがお好きな場所や空間はどこでしょうか?
「茶畑です。」
茶畑は、さまざまな加工をして紅茶や緑茶になりますが、茶畑に立つとお茶の香りはするのでしょうか?
「お茶の香りがします。季節によっても茶畑由来だけでなくお茶工場と言われるお茶を作っているところから感じられる焙煎した、いい香りも感じられる場所です。」
地元で起業することになったきっかけは?
矢田さんは、現在故郷である静岡県で緑茶と睡眠をテーマに起業されていますが、京都と東京を経て起業に至ったきっかけを教えてください。
「コロナ禍影響で、3年間東京から地元に帰省ができませんでした。コロナがやっと落ち着いて帰る日がきた際に、茶畑の耕作放棄地が増え、私にとって大好きな場所である、地元の茶畑がどんどん衰退してしまったことがきっかけです。また、私たちの日常生活では、お茶を飲む習慣が少なくなり、お茶の楽しみ方も変わってきています。ですが、そうした変化に地元の茶産業が追いついていない現状もありました。これまで料理研究家として活動してきた経験を生かし『料理の力でお茶の産地と消費者をつなぎたい』と思い、起業を決意しました。」
起業する際に最初に取りかかったことは?
矢田さんが起業するにあたって、最初に取り掛かったことを教えてください。
「私は、お茶産業について全くの初心者でした。しかし、これまで新しい食品を扱う際に必ず行ってきたことがあります。それは、その対象について徹底的に歴史を調べることです。お茶には、江戸時代に急須が広まり、庶民も楽しめるようになったように、さまざまなイノベーションがありました。今の令和の時代にも新しいイノベーションが必要だと感じています。歴史を学ぶことは、新しいアイデアを考える上で大きなヒントになります。そのため、起業に向けた最初の一歩として、お茶の歴史を詳しく調べることから始めました。」
1歩踏み出すと周りにもいい影響を及ぼす
静岡に戻ってきてよかったことや気づいたことはありますか?
「静岡まで一緒についてきてくれた旦那が、晴れやかに毎日楽しそうに過ごしてくれるのが嬉しいですね。人生というのは、自分だけではどうしてもできないこともあります。しかし1歩踏み出してみると、周りにもいい影響を及ぼすんだなと気づけたのが移住・起業してよかったと思った点です。」
テーマが「茶と睡眠」である理由
矢田さんが運営するブランド「テリープ」では「茶と睡眠」をテーマに掲げています。その理由について伺いました。
「緑茶にはカフェインが含まれており、飲むと目が覚めるイメージがあります。そのため、朝に飲むことでスッキリ目覚めるイメージを持つ方もいます。一方で、緑茶にはリラックス効果をもたらす『テアニン』という成分も含まれています。このテアニンが心を落ち着かせ、結果として質の良い睡眠をサポートしてくれるのです。現代では、忙しい朝にコーヒーやプロテインを飲む人が多く、緑茶を飲む習慣が減少しつつあります。その結果、緑茶産業は衰退の一途をたどっています。そこで私たちは、緑茶を『睡眠をサポートする飲み物』として新しい切り口で提案し、夜の時間に楽しんでもらえるようなきっかけを作りたいと考えました。このアイデアが、ブランド『テリープ』の軸となっています。」
「茶と睡眠」のテーマに至った経緯
このテーマに至った経緯について伺いました。
「1つ目は、地元にあるお茶のミュージアムという博物館に『お茶と睡眠がいい』とひっそりと書いてありました。2つ目は、茶畑は真っ暗で街灯もあまりありません。そのため、星が綺麗に見えるこの瞬間はよく眠れそうだなと思いました。都会に住んでいる人たちにとって、これほど素敵な場所はないと思った時に、お茶と睡眠をきっかけにして最終的に茶畑にくる人を増やしたいと思ったのがテーマの経緯です。」
茶と睡眠のブランド「テリープ」の商品ラインナップ
矢田さんが展開するブランド「テリープ」には、夜のリラックスタイムにぴったりの商品が揃っていますがその特徴について教えてください。
「最初に開発したのはお茶を使ったアイスクリームです。まだ『夜にお茶を飲む』という習慣がない方々にも気軽に試していただけるよう、お茶を飲むのではなく食べる形で提案しました。このお茶アイスには、睡眠をサポートする成分を含む機能性表示食品としての特長があります。また、夜に安心して飲んでいただけるお茶も商品ラインナップに加えています。アイスという形で、お風呂上がりや寝る前に手軽に楽しめるので、夜にアイスを食べても罪悪感なく召し上がれます。」
スリープツーリズムの取り組みについて
先ほど、茶畑が真っ暗で星が綺麗な場所で眠れたらよく眠れるという話をされていました。スリープツーリズムの茶畑の中で睡眠体験や茶畑で坐禅体験などのサービスを提供されていますが、実際に寝てみるとどのような心地よさがあるのでしょうか?
「カサカサという音がします。また、ほんのり匂いもします。日常では、普通に歩いていると茶畑の景色しか見えませんが、そこにいると茶畑の香りや独特な音があることにフォーカスでき、リラックスにつながり楽しんでいただけます。」
今後手掛けてみたいことやゴールイメージは?
スタートアップ経営者として、今後手掛けてみたいことやゴールイメージについて伺いました。
「私たちが大切にしているのは、朝をもっと好きになる世界を創りたいという思いです。十分に眠ることは、気持ちよく目覚めることにもつながります。朝が楽しくなると1日がとても充実したものになります。私たちの目指すゴールは『スパーク・ユア・モーニング』という、あなたの朝を輝かせる事業者でありたいと考えています。」
Life is モーニング
インタビューの最後、矢田さんに「Life is ◯◯」空欄に当てはまる言葉を尋ねると、「Life is モーニング」と答えてくれました。
「朝の時間こそ大切な意味があるでしょう。ぐっすり眠った後には、幸せな瞬間が待っており、さまざまな『キラキラ』とした瞬間が集まっています。」
静岡茶産業の再生へ「緑茶と睡眠」がテーマ
矢田さんは「皆さんが朝をもっと好きになれるような世界を、お茶を通じて一緒に作りたいと考えています。この思いを私の生きがいにし、人生のテーマとして大切にしていきたいと思っています。」と最後に語りました。
矢田さんの情熱は、静岡茶産業の再生だけでなく、より良いライフスタイルを提案することにもつながっています。また、矢田さんの取り組みが、多くの人々に新たな朝の楽しみをもたらし、地域の茶文化を再活性化することに期待が寄せられています。今後、未来へとつながる新しい可能性が広がることでしょう。