「そこに住み着いている微生物も次の100年に引き継ぎたい」建築家・板坂諭の建築活動で大切にしているこだわりや万博パビリオンに込めた想いについて

前編:「命の短い生き物に囲まれていたから、永く残る建築に惹かれた」建築家・板坂諭が語るデザインで大切にしているポイントや建築家を目指したきっかけについて

建築をベースに、アートキュレーション、プロダクトデザインなど幅広いジャンルで創作活動を行う建築家・板坂諭さん。2025年大阪・関西万博のパビリオン設計、フランスのメゾンブランド、エルメス社とのデザインプロジェクトにも携わるなど、国内外で活躍されています。今回は板坂さんに建築活動において大切にされているこだわりや設計を担当した大阪・関西万博パビリオンへの想いについて伺いました。

震災、戦争、再開発の波を逃れて生き残った建物

Via : thedesignlabo.co.jp

板坂さんの近作である、東京の新富町に建てられた「井筒屋ギャラリー」についてお伺いできますか。

「もともとは大正3年に創業された『井筒屋』という和菓子屋さんの建物です。新富町という土地柄、周りはビルだらけなのですが、そういったビルの間で奇跡的に残った建物です。新富町の名前の由来は、もともと新富座という歌舞伎の舞台があったためにそういった名前になったのですが、井筒屋さんはそこにお汁粉を届けていらっしゃったようです。

Via : thedesignlabo.co.jp

その新富座が1923年の関東大震災で燃えて無くなってしまった一方、井筒屋さんも屋根の一部が燃えたようですが、無事残りました。また、新富町は外国人居留地のすぐ隣に位置しているため、その後の戦争での空襲の被害が少なかったんです。そんな条件もあって、関東大震災を乗り越えて、戦争を乗り越えました。さらにその後、経済がグッと持ち上がり、都市開発が盛んに行われたエリアでもあるのですが、そうした開発の波からも逃れて奇跡的に残った建物です。」

文化はもちろんそこに住み着く微生物も次世代に残したい

大正時代の古民家を再生してオフィスにされたり、井筒屋ギャラリーでも歴史ある建築を残したりと、そうした伝統を守ることを活動のなかで重要視されているのですか。

「そうですね。井筒屋ギャラリーは東京都の中央区にあるのですが、区の文化遺産だと僕は思っています。古くからの歴史があって、大正時代から住み続けている微生物もいると思うんです。そういったものも大事にしながら、古いものを維持していきたいというのが僕の強い思いです。文化はもちろん、そこに住み着いている微生物までも、次の100年に引き継ぎたいという思いで活動しています」

微生物視点で物事を捉えるきっかけに

板坂さんは来年の大阪・関西万博に出展するパビリオンの設計をされています。万博のテーマは「いのち輝く未来社会のデザイン」ですが、板坂さんが設計されたパビリオンには、どういったコンセプトがあるのでしょうか。

「パビリオンは2棟に分かれており、1棟は巻き貝の形、もう一棟はアンモナイトの形をしています。なぜ貝の形をしているのかというと、今回の万博のテーマから、『貝』を命の象徴にしようと思いまして、今回のデザインに至りました。貝は5億年ほど前からずっと形をほとんど変えていない生き物なんです。それほど古くから形を変えていない生き物の中で、みなさんがパッとイラストを描けるほど身近な生き物は貝ぐらいじゃないかと考えました。

これまでの5億年の間に色々な淘汰はありましたが、ほかの生物がたくさん淘汰された中でほとんど形を変えずに残っているということは、命の象徴と言ってもいいのではないかと考え、今回の形が出来ました。建築は幅40メートル、高さが16メートルもあるアンモナイトの形を模しています。そこに入る人間がまさに微生物サイズになります。都市を微生物サイズから見てみると普段とだいぶ異なる見え方になりますから、このパビリオンに入って微生物視点で物事を見て頂きたいという思いを込めています」

文化を遺す仕組みづくりに挑戦したい

建築からプロダクトデザイン、アートのキュレーションに至るまで多岐にわたって活躍されている板坂さんですが、今後挑戦したいことはございますでしょうか。

「先ほどのエルメスのお話の中でも触れさせて頂きましたが、やはり文化保護に興味がありますので、井筒屋の改修もまさにそう言った理由ですが、残すべき文化を守る仕組みづくりをできたらいいなと考えているのが一つ。もう一つは、今宇宙に関心が向いていまして、フロンティアの宇宙にプロダクトデザインとか建築とか都市デザインの分野で何か力添えできる機会があればいいなという思いを持っています」

目に見えないものを意識することが大切

微生物に至るまで、目に見えないものを大切にデザイン活動を行う板坂さん。そんな板坂さんにとってライフイズ〇〇の〇〇に入るものは何でしょうか?

「“微生物”です。我々の身体は37兆個くらいの細胞で構成されていて、まさに菌や微生物の塊なんです。それを意識できるかどうかが人生において結構重要だと感じており、その想いを『ライフイズ微生物』という言葉に込めました」

文化はもちろん目に見えない微生物までも次世代に引き継ぎたい

微生物も含め、文化や建築を次世代に遺す仕組みづくりに今後取り組みたいと語る板坂さん。過去の人々が生み出した文化やデザインを大切にすることで、よりよい暮らしをもたらす創作に繋がるのかもしれません。