「ワクワクする建築が日常生活や人生をクリエイティブにする」建築家・迫慶一郎が考える日本と中国の建築への価値観や設計で大切にしているポイントについて

前編:「優れたランドマークは地域全体の価値を高める」建築家・迫慶一郎のデザインで大切にしているポイントと好きな空間について

東京と福岡、北京を拠点に世界各国で数多くの建築設計を手掛ける「SAKO建築設計工社」代表、建築家・迫慶一郎さん。個人住宅から商業施設、公共空間など活動の範囲も限定することなく幅広く活躍されています。今回は迫さんに日本と中国での建築に対する価値観や日々の設計で大切にされているポイントについて伺いました。

「北京建外SOHO」が独立のきっかけに

迫さんは現在、北京、東京と福岡に拠点を置いて、店舗の内装から大規模開発まで幅広く手掛けていらっしゃいます。先週のお話では山本理顕さんの事務所に在籍されていた頃から世界を舞台に活躍したいと考えていらっしゃったということでした。その後独立され、中国で初の日本人建築家による設計事務所「SAKO建築設計工社」を設立。現在に至るまで多くの建築を手掛けていらっしゃいますが、なぜ日本ではなく中国で活動を始められたのでしょうか。

Via : https://www.sako.co.jp

「もともと山本理顕設計工場在籍中の最後のプロジェクト『北京建外SOHO』がひと段落したところで事務所を退所して、ニューヨークのコロンビア大学で客員研究員をすることが決まっていたんです。なぜ中国を離れてアメリカに行こうとしたかというと、中国の建築が今日のレベルまで飛躍するとはその時には想像できなかったことと、中国だけを拠点にして建築をいくら頑張って作っても誰も見てくれないかもしれないと思っていたところがあるんです。しかし、中国の美術評論家である方振寧(ファン・ジェンニン)さんが『北京建外SOHO』での僕の仕事ぶりを見て、金華市の交通局ビルの設計者として僕をクライアントに推薦してくれたことで僕の運命が大きく変わったんです。

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まだ事務所も立ち上げていなかったのに、いきなり10,000平米の公共施設のプロジェクトの設計が舞い込んできました。それでこの仕事を受けるために事務所を立ち上げなければならなくなり、結果として中国初の日本人建築家による建築設計事務所を設立することになりました。」

初ということで、手続きなど大変なことも多かったのではないでしょうか。

「誰にも聞くことができなかったので、役所の窓口をたらい回しにされるような状況でした(笑)。その後、コロンビア大学での客員研究員も、北京事務所の仕事と並行して行うことにしました。」

中国は建築への期待値が高い

迫さんは2013年に、中国で最も影響力のある建築家10人のうちの一人に選ばれていらっしゃいますが、日本と中国とで建築に対する考え方の違いはどういったところでしょうか。

「違いを言い始めるとたくさんあるのですが、一つ挙げるとすれば、中国では建築デザインに対する期待値が日本よりもはるかに高いと感じています。

例えば僕の中国のプロジェクトでは、その地域のランドマークとなることが求められている場合がほとんどなんです。建築がそのエリアの優れたランドマークとなることで、社会の資産となって周辺の価値までも上げてしまうことを何度も経験してきました。

クライアントがオリジナリティとクリエイティビティの両方を求めるからこそ、僕のような外国人建築家が中国で大きな仕事を任されてきたのだと思っています。」

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期待値が高いのは嬉しいことですが、それはそれでプレッシャーにもなるでしょうし、それを跳ね除けて素晴らしい建築ができた時の喜びはすごいでしょうね。

「覚悟を決めて、これがいいんだ、ということをクライアントと共有して、一緒に作っていく段階を経て、結果として地域の役に立っているということが実感できた時の達成感は本当に大きいですね。」

ランドマークを期待されているということですが、その辺りは先週伺った“ワクワクするデザイン”を心掛けているというところに繋がっているのかもしれませんね。

「そうですね。デザインってこんなに自由なんだ、という風に感じてもらいたいです。刺激的でワクワクするような建築が身の回りにあったら、日常生活や人生までもがクリエイティブになるんじゃないかと考えながら、日々活動しています。」

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先入観に捉われずにゼロベースでスタートする

迫さんは日本や中国だけでなく、韓国やモンゴル、スペイン、インド、バングラデシュ、ブラジルなど、世界中で作品を作り続けていらっしゃいますが、設計にあたって大切にされていることはどういったところでしょうか。

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「シンプルですが、自分の作風を最初から押し付けないように常に意識しています。僕の建築はカラフルなデザインや有機的な造形が特徴の一つなのですが、そういったところを決定打にして声をかけてくれたクライアントであったとしても、最初から『これでいいですよね』というような感じで先入観を持つのではなく、最初の打合せではフラットな感覚で臨むように心掛けています。

ゼロベースでクライアントの話を注意深く聞くうちに、その会社やブランドのヒストリー、今後描こうとしているストーリーを通して自然とアイディアが浮かんでくるんです。そして現場を訪れた時にはもうデザインは決まります。ですので僕にとって最初の打ち合わせはとても大切ですね。」

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なるほど。現地の博物館に行かれたり車窓から眺める景色を見たりしながらその地域の文化を知り、その国々でどういうふうに自分がデザインするべきなのかといった客観的な視点を大切にされているのですね。

希望は自分でつくるもの

日本と中国を拠点に、世界各国で活躍されている迫さん。そんな迫さんにとってライフイズ〇〇の〇〇に入るものは何でしょうか?

「ライフイズ“Something You Build”とお答えしたいと思います。僕は以前『希望はつくる』というタイトルの本を出版したことがあるのですが、その時の英語のタイトルは『Hope is something you build』にしました。人生も、希望も、自分でつくるものだと思って日々取り組んでいます。」

ワクワクする建築が人生をより良くする

中国ではそのエリアの価値を上げるような影響力を建築が持つこともあると語る迫さん。先入観に捉われることなく、クライアントが求めることをそれ以上のクリエイティビティで表現することで、建築に関わる全ての人がワクワクするような、ポジティブな空間が生み出されるようです。