建築家・村野藤吾の晩年の傑作の一つ「八ヶ岳美術館」で美しい建築と彫刻に触れる

都会の喧騒とは無縁の美しい山野が続く長野県諏訪郡原村。八ヶ岳の麓にあるこの場所に、かつての名建築家である村田藤吾が手掛けた「八ヶ岳美術館」があります。美しい自然の中にあるこの美術館は私たちに多くのことを教えてくれます。

標高1,350mにある村立美術館

「八ヶ岳美術館」外観。自然の中で美術館と共生できるように周りの木は美術館のギリギリの位置まで伐採しませんでした

元々は原村出身の彫刻家、清水多嘉示から自身の作品を寄贈されたことにより「八ヶ岳美術館」が開館されました。1980年開館当時は全国的にも珍しい村立の美術館でした。

村田藤吾が設計した当時の年齢はすでに88歳。数多くの日本の建築物設計を手掛け、生涯で主に5つ美術館・博物館・展示施設の設計に携わった村田藤吾にとって、この「八ヶ岳美術館」は晩年の傑作の一つとして数えられています。

ドーム状屋根と珍しいカーテンの天井

エントランスからすでに建物の柔らかさがあり、まるで小人の家のようです

村田藤吾が「八ヶ岳美術館」設計時に、朝倉文夫から「…彫刻を陳列する場所に建物の線が出るのは困る…」と聞いた話を元にデザインしたドーム状の屋根。建築ではなく、あくまでも美術品が主役であることを意識して設計した美術館だと言えます。

外壁はセメントブロックを素地のまま使用しています。また、ドーム状の屋根は東京の工場で先に作成されたプレキャスト・コンクリートの屋根をそのまま載せることで工期を短縮しました。

本心は全て話す訳ではなく、肝心なところで黙ってしまうという村田藤吾。何を考え天井をカーテンにしたのでしょうか

内装の天井はカーテンで覆われ柔らかな雰囲気を館内に醸し出しています。落ち着いた気持ちで彫刻やほかの作品を鑑賞することができるでしょう。

美術館と自然との共生

美術館・自然・彫刻が見事に融合しています

景観に配慮されて美術館の高さも低めに作られました。正に自然のことも考えられた共生の美術館です。

村野藤吾の孫の話によると、村野藤吾は「人間が人間らしく居られる場所」を心がけていたと言います。自然との距離を近くすることで、人間が人間らしく居られることを彼は知っていたのではないのでしょうか。

館内には彫刻、書をはじめ縄文時代の出土品まで常時展示

周辺で出土された縄文土器の常設展示

文化功労者であり、芸術家である清水多嘉示により寄贈された自身の彫刻・絵画作品をはじめ、原村出身の書家・津金寉仙の書が常時展示されています。

また、原村村内各遺跡で発掘された縄文時代の土器なども展示されており、当時の生活も知ることができるユニークな美術館となっています。

昭和を代表する建築家の傑作に足を運ぶ

現在の日本では、建造物の老朽化や都市化計画により村野藤吾の作品の一部は残っていません

「八ヶ岳美術館」を訪問し、豊かな自然とともに村野藤吾の晩年の傑作を心から味わうのも良いのではないでしょうか。

八ヶ岳美術館(原村歴史民俗資料館)
住所:長野県諏訪郡原村17217-1611
営業時間:9:00~17:00(最終入館は16:30)
電話番号:0266-74-2701
URL:https://yatsubi.com/index.php