ヴェネチアにある伝統的な建築に安藤忠雄によるコンクリート造形が調和する空間「プンタ・デラ・ドガーナ(Punta della Dogana)」
「光の教会」や「地中美術館」をはじめ、幾何学的な造形のコンクリート打ち放しの斬新な建築スタイルが特徴的な安藤忠雄。1995年には建築界のノーベル賞と言われる「プリツカー賞」を受賞するなど、その人気は国内にとどまりません。そんな安藤がリノベーションを手掛けた建築が、イタリアのヴェネチアにあります。オリジナルの造形と安藤ならではの感性が織り交ぜられた「プンタ・デラ・ドガーナ」は、唯一無二の存在感を放ちます。
ヴェネチアの運河を望む現代美術館
「プンタ・デラ・ドガーナ」は、ヴェネツィアの商業活動の中心地として島南部に位置するドルソドゥロ地区の島の先端に建設された税関関連の施設です。1682年にジュゼッペ・ベノーニの設計で建設。
建築の特徴となる三角屋根の先端に設置された風向計はスイス&イタリアの彫刻家 バーナード・ファルコーネの作品。ギリシャ神話に登場する天空を支える神アトラースの彫刻が風向きと運勢を示します。
その後、プンタ・デラ・ドガーナは2009年にフランスの実業家フランソワ・ピノーのコレクションを展示&保管する美術館としてリニューアルオープン。それに際して、パリ郊外に計画した「ピノー現代美術館」からピノー氏と交流がある安藤忠雄がリノベーションを担当しました。安藤はヴェネチアではピノー現代美術館のほか、2006年に運河中流に「グラッシ パレス」を完成させています。建物は基本的に元の状態に戻すことが原則とされています。館内では20世紀から21世紀にかけて制作された3,000点以上の作品を収録しています。
安藤はまず、その木造トラス小屋組みとレンガ壁を建設当初の姿に復元し、安藤らしい滑らかなコンクリートとステンレス鋼のアンカーボルトで補強。建築中央にコンクリートボックスを挿入して吹き抜けのセントラルコートを持つ建築として再構成しました。
経年変化も生かしたレンガとコンクリートが混じり合う空間
エントランスから入ると、16000mm角のセントラルコートを中心に各展示スペースが展開する構成に。
内部の壁面もレンガを積み上げて仕上げており、改修に伴いオリジナルの風合いを損なわないた目に古びたレンガを仕入れました。
安藤忠雄による伝統的な建築に再び命を吹き込む建築的な操作
スケルトン天井となった空間は、ところどころに設けられた天窓から差し込む光によって荘厳で開放感のある雰囲気となっています。
安藤による改修で取り入れられたコンクリートは、イタリアの古くから付き合いのある職人に頼み、絹のようにきめ細やかなコンクリートを採用。
サラサラとした質感で、レンガと木のナチュラルな風合いに馴染みます。
運河の景色が見えるアーチ型の窓は動くキャンパスとして機能しています。
広々としたセントラルコートはオリジナルのベースとうまく調和し、モダンな雰囲気にまとまっています。
オリジナルのレンガと滑らかなコンクリートが混ざり合う唯一無二の空間
中世の美しい建築様式に彩られたレンガを基調とした建築に並べられた力強い彫刻作品。そこに安藤ならではのコンクリートによる光と影を生かした空間が加わることで、表情豊かな建築として生まれ変わったプンタ・デラ・ドガーナ。いつか元の姿に戻されてしまう期限付きの空間は、ぜひ現地で訪れたい貴重な建築です。
プンタ・デラ・ドガーナ
所在地 : Dorsoduro, 2, 30123 Venezia VE
開館日 : 水-月曜日 10:00~18:00
休館日 : 火曜日
入館料 : 15€