「建築を生き物として捉える」建築家・大西麻貴が語る転機となった作品やヴェネチアビエンナーレの展示について

前編:「記憶に残るような、あたたかい雰囲気があるといい」建築家・大西麻貴の日常で大切にしているデザインや好きな空間について

個人宅や公共施設などの建築設計を中心に、インスタレーションやまちづくりまで国内外を問わず様々な活動に取り組む建築設計事務所「o+h」(オープラスエイチ)。今回は共同主宰を務める建築家・大西麻貴さんに、転機となった作品やキュレーターを務める18回ヴェネチア・ビエンナーレ国際建築展の日本館について伺いました。

建築を通して、建築家の想いが引き継がれていく

現在では幅広いジャンルの建築設計を手掛けられている大西さんですが、建築家を目指したきっかけはどういったものでしょうか。

「中学生の時に初めてスペインを訪れたのですが、その時にバルセロナでアントニ・ガウディのサグラダ・ファミリアという有名なカテドラルを見たのがきっかけです。その建築を構想した建築家はこの世にはもういないにも関わらず、多くの人が想いを引き継いで作っている。建築家とは面白い仕事だなと思って興味を持ち始めました。

現在も建設途中の教会ですが、建築を作っている段階から街の歴史の一部になっていくというのもすごい迫力だと思いました。

一方で、サグラダ・ファミリアのようにたった一つの建築がその街のアイデンティティになるようなことが、今の時代でもできるのかと不安に思ったこともありました。そこで、大学に講義にいらしていた建築家の伊東豊雄さんにその問いを投げかけたら、

『建てられる』と答えて頂いたんです。同じように想いをかけて建築を作るということは今の時代においてもできるとおっしゃっていて、すごく勇気を頂いたことも覚えています。」

多様性という言葉が実感を持って感じられた

グッドジョブセンター香芝 / Good Job ! Center KASHIBA
photo : Yoshiro MASUDA

これまでにも多くの建築を手掛けられていますが、特に思い入れのあるもの、印象深いものについて教えてください。

「一つひとつ想い入れがありますが、『グッドジョブ!センター香芝』という奈良市にある、障がいのある人と共に社会に新しい仕事を作っていくという場所を設計した際に、のちに繋がるような大きな影響を受けました。

グッドジョブセンター香芝 / Good Job ! Center KASHIBA
photo : Yoshiro MASUDA

クライアントは奈良で50年以上障がいがある方のモノづくり、想像力をアートや仕事に繋げるという活動をされている『たんぽぽの家』という方たちなのですが、建物を作る際に『違いを認めて違いを大切にする』ということをテーマに、その想いをいくつかの言葉で構成したコンセプトを頂きました。

グッドジョブセンター香芝 / Good Job ! Center KASHIBA
photo : Yoshiro MASUDA

このプロジェクトを通じて多様性という言葉が実感を持って感じられて、私たちの社会が今後こうなればいいな、と感じて心に残っています。」

先日ご紹介した山形の「シェルターインクルーシブプレイス コパル」もそういった点を大切にされていましたよね。

「『たんぽぽの家』と出会って仕事をしたことが、それ以降の仕事の価値のつくり方や思想にも繋がっています。」

建築を生き物として捉えることで新しい関係性が生まれる

©o+h

2023年開催の第18回ヴェネチア・ビエンナーレ国際建築展の日本館のキュレーターを務められる大西さん。テーマに「愛される建築を目指して」とありますが、このテーマについて教えて頂きたいのと、どういった展示になるのか教えてください。

ヴェネチア・ビエンナーレ国際建築展・日本館
photo : Yuma Harada / 提供:国際交流基金

「『愛される建築を目指して』というのは、それこそガウディの建築に出会って、建築の仕事を目指したいなと思ってからずっと考えているテーマの一つではあるのですが、別の言葉で言い換えると、『建築を生き物として捉える』ということではないかなと考えています。

ヴェネチア・ビエンナーレ国際建築展・日本館
photo : Yuma Harada / 提供:国際交流基金

通常建築は人工物と思われていますが、例えば、建築も生きものだと思うと、その場所を育てていこうという気持ちが生まれたり、欠点や老朽化に対しても、それらを一つの個性として認められたり、味わいとして認めていくことができたり、これまでとは異なる建築と人ととの関係が築いていけるのではないか、ということがテーマになっています。」

五感が触発されるような空間を目指したい

2025年の大阪関西万博でも大西さんは休憩所の設計を手掛けられますが、こちらはどういったものになる予定でしょうか。

「大きな屋根が特徴的な休憩所を作ろうとしています。『愛される建築』を考えたときに、見た目が面白い建築より、触覚や嗅覚など五感が触発されるような建築を目指したいと考えました。今回の休憩所も、ふかふかの床に寝そべられるようなスペースがあったり、屋根には廃棄されてしまうテキスタイルを使った毛深いテクスチャーを採用したり、五感が触発される空間を目指したいと考えています。」

未来に向けてより良い社会を建築を通して作りたい

グッドジョブセンター香芝 / Good Job ! Center KASHIBA
photo : Yoshiro MASUDA

ユーザー、建築それぞれに異なる点を個性ととらえ、多様性を生かした空間づくりを目指している大西さん。そんな大西さんにとってライフイズ〇〇の〇〇に入るものは何でしょうか?

「“フューチャー”です。未来に向けて歩んでいくということを常に感じながら、毎日を生きて行けたらいいなと思っています。」

違いを一つの個性、味わいとして捉える

「建築を生き物として捉える」ことを提案したいと語る大西さん。その新たな提案は、わたしたちと建築のみならず、他者とのかかり方にも新しい気づきを与えてくれるかもしれません。