解体された中銀カプセルタワーのゆくえ。移動可能な「YODOKO+トレーラーカプセル」として再生。
世界で初めて実用化されたカプセル型の集合住宅、中銀カプセルタワービル。1972年に竣工され「メタボリズム」の代表的作品として注目を集めましたが、老朽化および人体に有害なアスベストが使われているとして、2022年に解体。全140個のカプセルのうち23個のカプセルは、美術館での展示保存や宿泊施設としての再利用するため、そのまま取り外しが行われました。この保存・再生プロジェクトとの1つが、YODOKO+によるトレーラーカプセルです。
黒川紀章によるメタボリズム建築の代表作・中銀カプセルタワービル
「中銀」とは「東京都中央区銀座」に由来して名付けられた管理会社の「中銀(なかぎん)グループ」のこと。黒川紀章が建築設計、松井源吾が構造設計し、メタボリズム(建築や都市の新陳代謝)の設計思想を明確に表現したデザイン性は高く評価されました。2006年には、DOCOMOMO JAPAN選定 日本におけるモダン・ムーブメントの建築にも選ばれています。
1つのカプセル(1部屋)の面積は 10㎡ で、内装はビジネスマンのセカンドハウスまたはオフィスとして想定され、オフィスとホテルの機能が備わっています。上述の理由で解体され、取り外された23個のカプセルは、いくつかの企業により、それぞれの方法で活用・再生・保存が進んでいます。また、建物全体を3Dデータで保存する「3Dデジタルアーカイブプロジェクト」も始動するなど、建築的価値を残すための活動も行われています。
中銀カプセルを移動可能にするための道のり
その中でも株式会社淀川製鋼所のブランド「YODOKO+」(ヨドコウプラス)は、中銀カプセルタワービルから取り外したカプセルを移動可能なトレーラーカプセルとして再生し、2023年4月から展示を始めました。デザインコンサルティングを手がけているのは株式会社ATELIER OPA、中でもデザイン監修を務めたのは、黒川紀章建築都市設計事務所に勤務していた経験もある、同企業の鈴木敏彦です。
再生にあたり、不動の建築から移動する車両への移行には積載量という大きな壁がありました。トレーラーの車台の最大積載量は2.7t。カプセルの内壁に使われていたアスベストは全て除去し、構造材の間引きとスケルトンと内装の軽量化により重量2.67tを見事達成しました。
YODOKO+ のシンボル的役割を担うトレーラーカプセル
1935 年に鉄鋼メーカーとして大阪に誕生した淀川製鋼所は、家庭や社会で不足した収納の空間を補うため1970年にヨド物置の製造と販売を始め、エクステリア商品の事業を幅広く展開してきました。
空間の移動可能性を目指すという点は、黒川紀章の定義している「ホモ・モーベンス(移動する人)のための動く住まい」と共通するものがあり、日本の戦後の建築の歴史的アイコンとして中銀カプセルを継承。このカプセルを再生し公開することは、同時代を担う企業としての責務であり、世界に向けた持続可能性のメッセージであると考え、2023年には東京、名古屋、大阪で展示し、拡張可能なコンパクトな空間の機能性・耐久性・デザイン性を伝えてきました。
「新しい個性を持った価値の創造」を目指す淀川製鋼所
淀川製鋼所は創立90 周年にあたる2025 年に向けて、安全・安心・環境・景観に配慮した建材商品とエクステリア商品を通じ、「新しい個性を持った価値の創造」を目指しています。2022年には、「ニューノーマルの暮らしをデザインする」をコンセプトに、ホモ・モーベンスのための書斎として、YODOKO+からスーツケース型の開閉式のオフィスHOME OFFICEを発表。今後もホモ・モーベンスのための新しい道具や環境を提案し、空間の移動可能性、拡張性、デザイン性を追求していきます。
日本の高度経済成長期の需要に応えた「メタボリズム」(建築や都市の新陳代謝)。コロナショックを受け今までの生活様式や生き方に再び変化が求められている現在において、「メタボリズム」がどう再解釈され、現在の需要に適応していくのか、今後の動きも期待されます。
YODOKO+ トレーラーカプセル
プロデュース:株式会社淀川製鋼所+株式会社ATELIER OPA
協力:中銀カプセルタワービル保存・再生プロジェクト
内外装再生:株式会社三越伊勢丹プロパティ・デザイン
再生デザイン:鈴木敏彦