宮城県石巻にある建築家・藤本壮介による小さな街のような文化複合施設「マルホンまきあーとテラス」
プライベートとパブリック、内と外、建築と自然といった相反する要素の関係性をテーマとしたユニークな建築で知られる建築家・藤本壮介。2025年に開催予定の大阪・関西万博の会場デザインプロデューサーをはじめ、海外からのオファーも後を絶ちません。そんな藤本壮介が手掛けた公共施設が2021年宮城県石巻市に完成しました。
復興のランドマークとなる建築
石巻は2011年の東日本大震災で被災、市街地の多くを失いました。市の文化ホールも同じく震災によって使用不能となり、解体されました。文化芸術活動の拠点を無くした市は震災から約5年半が経過した2016年に新しい複合施設の設計を公募し、藤本の手で約10年ぶりに再建を果たしたのです。総事業費は約130億円、延べ面積は約1万3200㎡と、藤本氏にとって金額と広さともに過去最大の公共建築になりました。施設名のマルホンは、施工を手掛けた地元の丸本組が取得した命名権によるもの。まきあーとは愛称の応募で選ばれた、石巻の「まき」と芸術の「アート」を組み合わせた造語です。
特徴的な”群れ”が作り出すキャッチーな外観
街の新たなランドマークになるべく建設された建築は地上4階建てで、特徴は真っ白な正面の外観。無機質になりすぎず、巨大な面の圧迫感が出ないよう外装には3色の異なるガルバニウム鋼板を使用しています。壁には雨水が流れやすいよう金属板を縦に張り、汚れがつきにくい工夫がされています。
家形や煙突形の建物が横一列に並び、まるで緑の中に佇む「白い街」のようなユニークな見た目となっており、家形ごとに機能が異なります。白く小さな建築が集まって大きな「群れ」をつくるスタイルは、まさに藤本の作品の特徴です。デザインのイメージは、石巻湾に注ぐ旧北上川に沿って建物が立ち並ぶ風景から着想されました。
親しみを感じる明るく開放感のある空間デザイン
館内に入ると、外観と同じく白を基調とした内部空間が広がります。
館内は施設を東西に貫く約170mのロビーがメインストリートのようになっており、ロビーに面して大小2つのホールをはじめ、展示スペース、市民ギャラリー、キッズスペース、創作室、研修室や楽屋などさまざまな機能を有する空間が直線的に配置されています。
ロビーの天井高はフライタワーに対応し、最も高い所で約26mあるうえ、点在する多くの窓からは日がたっぷりと注ぎ、開放感に満ちた印象となっています。
ロビー上部にはサイン(藤本壮介建築設計事務所)、照明、家具を設置し、機能面にも優れた空間となっています。ロビーから大ホールの舞台に繋がる扉は高さ10mにも及び、大ホール舞台とロビーを一体に使用することができます。大ホールは東西に長いまきあーとテラスの建物の東側に位置し、1階席と2階席を合わせて1254席を有します。
リズミカルな空間に散らばる居心地のよいスポット
施設の東端、大階段を経てぐるりとまわり込んだ、ホールに面する2階のホワイエには、開演を待ったり休憩したりするための長いベンチが通路に沿って配置されています。頭上には電球型の照明が配され、日が暮れてからの雰囲気も魅力的な空間。ホールでのイベントは夜の開催が多いため、「遠くから明るく照らされた姿が見えるのもいい」といった藤本の考えが反映されているようです。
館内にはホワイエの他にものんびりとくつろげるような、居心地のいいスポットが点在しています。
イベントがなくてもふらっと訪れたくなるような居場所があることで、まるで公園のように地域の人々にとってより身近な存在となりそうです。
また、内部では建物の屋根形状がそのままロビー天井の形状として現れています。外観同様内部でもリズミカルな建築の形状を楽しむことができます。
西側には小ホールが配置されており、ホワイエの仕上げに合わせて塗装を塗り替えています。
大ホール同様、小ホールホワイエは小ホールや隣接する市民ギャラリーと一体的に使用することが可能。大ホールのフライタワーの高さが約30mに対して、小ホールのフライタワーの高さは約20mとなっています。
ユニークな外観と開放感が魅力の、これからの石巻を照らすスポット
「文化活動に関心が低い人でも何度も訪れたくなる場所」という市からのオーダーに、文化施設とは思えないようなユニークな造形と、のびのびとした開放感に溢れる空間となった〈マルホンまきあーとテラス〉。地元文化に縛られることなく、様々な創作の発信地として今後ますます注目を浴びそうです。
マルホンまきあーとテラス
開館時間 : 9:00~22:00
閉館日 : 月曜日※月曜日が祝日の場合、翌日が休館日となります
電話 : 0225-98-5630
URL : https://makiart.jp/
アクセス : 三陸自動道石巻女川ICより車で約5分