建築家・手嶋保が手がける2つのボリュームが立体的に居室空間と庭をつなぐ「井の頭の家」
建築家・手嶋保が手がける「井の頭の家」は、井の頭恩賜公園からほど近い場所に位置する住宅。南北に細長く伸びる土地を活かし、敷地の東西に主な居住スペースを設け、その2つのブロックをつなぐコートハウス式となっている。立体的に居室空間と庭をつなぐ、その住宅を詳しく見ていこう。
豊かな住まいの手がかりとなる3か所の庭
この住宅は、奥に進むにつれてパブリックな空間から徐々にプライベートな空間へを変化していくのが特徴だ。そして、その重要な役割を果たしているのが3つの庭。1つ目は街路から住宅の引きを取るために、前庭として設置。
2つ目の庭は、プライベートとパブリックをつなぐ2つのブロックの間に主庭として位置付けている。ここに接する3面からの見え方や日射条件などから植栽を選び、ヤブニッケイやナツハゼ、サツキツツジなどが植えられている。3つ目の庭は、隣の家との距離を取るため、またダイニングルーム前のプライベートな庭として捉えているそうだ。
半地下を活かした空間の展開
寝室の下階である納屋と、リビングの下階の音楽室は、半地下に設けられている。これは、寝室はなるべく街路と距離を取り、落ち着いて過ごせるスペースにするためにと意図されたもの。
また音楽室の床を半階下げることで、ドライエリアを介して主庭とつなげている。そうすることで、それぞれの場所が他所からの景色になり、実際の面積以上の広がりを見せてくれるのだ。この家族の背が高かったことから、いつもより天井はやや高くデザインしたとのこと。
開放的な2階リビング
2階リビングの開口部からは、庭の緑と空が覗いており、大開口は内側に布障子を入れることで、風景により奥行きも感じられる。右手壁面には、階段と連続するように造り付けのベンチを設置。開口部下部までカラマツ縁甲板を貼ることで、重心を低く抑えているという。
壁には落ち着いた色合いの漆喰を採用し、窓から差し込む光を柔らかく反射させている。
さまざまな視点から見たシーン
キッチンから廊下を見渡すと、手前に階段、飛騨ありておくには庭とリビングルームが広がっている。敷地のもともとの高低差に合わせて段差を設けることで、奥にいくに従って広がって見えるよう、空間のボリュームを大きく見せている。スキップフロアによる高低差が、この住宅に動きを与えているようにも思う。
納屋前からは、左手に廊下、右手に犬走りが見える。
ちなみに1階とM2階はRC造、2階は木造の混構造。上下階の騒音を低減させ、2階部分は将来増改築も可能とさせた。
街路からの距離感と立体的な構成の豊かな住まい
限られた敷地の中で立体感を生み、街路からの距離を程よく取りながらプライベートな居住空間を成功させた住宅。長く暮らすうちに改築や手入れを行いながら、また新しい景色、表情を見せてくれることだろう。