ヘルツォーク&ド・ムーロン初期の代表作「ゲッツ・コレクション (Sammlung Goetz)」
スイス、バーゼルに拠点を置く建築家デュオ「ヘルツォーク&ド・ムーロン」。
北京オリンピックのメインスタジアムやヴィトラハウスの設計で知られ、2017年には、北ドイツの港町、ハンブルクの川の中に浮かぶガラス張りの波のようなエルプフィルハーモニーを完成させ、大きな話題となった彼ら。
その彼らが初めてスイス国外で手がけたミュージアム建築が、南ドイツ、ミュンヘンにある。
1960年代からギャラリストとして活躍し、現在も精力的に若手の現代アート作品を発掘し続けるアートコレクター / キュレーター、イングヴィルト・ゲッツさんの「ゲッツ・コレクション (Sammlung Goetz)」だ。
風景の中に溶け込む、静謐で端正なヘルツォーク&ド・ムーロン初期の代表作。
1989年、ゲッツさんはアーティストの推薦を受けて2人に出会ったという。
「プライベートミュージアムを作りたいと考えていた時、面白い建築家がいるからと紹介されたんです。声をかけるとすぐ立地を見に来てくれました」。
ゲッツさんの自宅の庭の一角に立てるということもあって、その庭の風景を壊さないことが第一条件。
また住宅街なので高さや敷地の広さまで、厳しい建築基準が決められていた。
その限られた条件の中で、できる限りゆったりと作品を展示したいというゲッツさんの意見を取り入れてできたのが、地下室をメインの広い展示空間にするという案だった。
半地下とは思えない明るさの秘密は、窓と壁の素材感。
ミュージアム建築といえば、自然光の取り入れ方が重要になる。
そのため地下室はビデオやドローイング作品などの展示室に使われることが多いが、ヘルツォーク&ド・ムーロンはあえてメイン展示室とし、建物の中央に設置した。
実は、この建物は外から見ると一見3階建てのようだが、展示室の部分が半地下になっている。高さ5,5mの部屋の上部にある窓はすりガラスになっており、光が均等に差し込む。あえて白く塗装せず、漆喰を塗ったままにした壁が柔らかに光を反射し、地下室とは思えない自然な明るさに満たされるのだ。
「ここにいると、本当に落ち着いた気持ちになります。空間が自己主張することなく、アートに集中することができる。光のせいか不思議と自然に囲まれている実感もあって……よくあるホワイトキューブのようでいて、全く質が違うものですね」と、ゲッツさんは誇らしげだ。
U字型のコンクリ壁を組み合わせて、支えに。
メイン展示室の左右の部屋は、天井を低めにとって地盤面と同じ高さにしてある。その上にはオフィスとミュージアムのレセプションを。天井が低いのはここだけ3階建てになっているからだ。
座って仕事をすることが多いので、天井の低さはそれほど気にならないという。
このオフィスの壁と床部分が、上階の展示空間を支える役目を果たしている。
白い箱が宙に浮かんでいるような、モダンだが自然に馴染む建築。
上階の展示室と地下を繋ぐ階段部分を見ると、構造がよくわかる。漆喰と木材、すりガラスの素材感の対比も美しい。外から見ると、葉陰を映すガラスの淡い緑色が庭の緑に吸い込まれ、白い木箱が宙に浮かんでいるようにも見える。
周りの風景を、建築の素材にも取り込む。
ヘルツォーク&ド・ムーロンは、毎週のように建築現場に来て、ゲッツさんや建築業者と話し合って作業を進めていったと言う。
すでに庭に植えられていた白樺や針葉樹の木のコンポジションを生かすため、ファサードには白樺材を採用。時を重ね、風合いが変化していく様子も楽しんでもらいたいと考えた。
形も素材感も多彩な作品を次々と世に送り出し、時には、独自のスタイルがないーと言われることもあるヘルツォーク&ド・ムーロン。
しかし、彼らにとって最も重要なのは、立地や、またどうやってその場所を使うのか?という根本的な問題だ。
オフィスで考えるのではなく、実際にその場所に足を運び、周囲の環境に考慮しつつ、ニーズに答える最適の案を考えるー その姿勢はほんの初期の時代から変わっていないということが、このゲッツ・コレクションの建築を見ると実感できる。
Sammlung Goetz – ゲッツ・コレクション
住所:Oberföhringer Straße 103, D – 81925 München
URL : www.sammlung-goetz.de
TEL : 089−95939690
木・金曜 14:00〜18:00(土曜 14:00〜18:00)
日曜・祝日休み
開館時間内も見学は要予約。
E-mail : [email protected]