「人に喜んで頂くことは自分も嬉しいこと」くるみの木主宰 石村由起子の大切にしているデザインや、「くるみの木」立ち上げのきっかけ
1983年、奈良の郊外の小さな建物でカフェと雑貨の店「くるみの木」をオープン。その後、奈良市の複合施設「鹿の舟」や滋賀県の商業文化施設「湖(うみ)のスコーレ」などの空間プロデュースも手掛ける「くるみの木」主宰・空間コーディネーター 石村由起子さん。今回は石村さんに、日常で大切にされているデザインや「くるみの木」を始められたきっかけについて伺いました。
「くるみの木」主宰・空間コーディネーター 石村由起子
香川県高松市生まれ。暮らしを楽しむ祖母の知恵にくるまれて育つ。学生時代には染織を学び、民芸に親しむ。1983年、奈良の郊外で出会った小さな小屋でカフェと雑貨の店「くるみの木」をオープン。現在は「くるみの木」を主宰しながら、2010年に香川県高松市に、讃岐らしい衣食住を提案する新しい空間「まちのシューレ963」を、2021年には滋賀県長浜市に発酵をテーマにした商業文化施設「湖(うみ)のスコーレ」をプロデュースするなど、時には企業や地域の夢をかたちにする手伝いも。自身の暮らしから生まれた心地よい空間は、年齢を問わず多くのファンに愛されている。
手触りとか、用を足しているのかといったことを大切に
まずは日常生活の中で大切にされているデザインについて伺いました。
「デザインというと形に注目されがちですが、私としてはその手触りとか、そのものが用を足しているのかといったことを大切にしています。」
そうした視点で選ばれたアイテムは、なかなか捨てられないのではないでしょうか。
「ものというのは人生と共に増え続け、生活に寄り添うように日々使いますよね。となると、捨てるというより片付けていく、整理整頓を常に行なっている人生だなと感じています。何百という数のものを持っていますが、どなたが作ったものか、いつ買ったのか、どこに惹かれたのかなど、どんなことを聞かれても全て答えられるくらいそれぞれが大切なものなんです。」
デザインにおいて、質感や機能面にこだわっているという石村さん。それぞれにこだわって選んだものだからこそ手放すことなく、でも空間的にはすっきりと過ごせるように、整理整頓は欠かせないポイントと言えそうですね。
やはり家が1番好きです。中でもキッチンが気に入っています。
様々な空間を手掛ける石村さんですが、お好きな空間はどういったものなのでしょうか。
「やはり家が1番好きです。中でもキッチンが気に入っています。仕事もあるので、家にいる時間は少ないものの、外から戻ったら大体キッチンにいることが多いですね。朝はキッチンからスタートして、夜もキッチンで終わる。季節の移ろいは待ってくれませんので、どんなに忙しくても果物や旬の食材を使った保存食を作ったりと作業しています。」
日本ならではの四季の味わいはそれぞれ楽しみたいですもんね。石村さんのご自宅のお写真を拝見すると、植物がたくさんあるのが印象的です。
「家で食べたマンゴーやアボカドの種を植えてみたら育っていったものがあったり、段々と増えてきました。ただ捨てるのではなく、生かしてやりたいという気持ちで植木に育ててみたんです。」
食材の一部だった種に対しても、石村さんらしい優しい視点がわかるエピソードですね。
「くるみの木」を始めたきっかけ
1983年、カフェと雑貨の店「くるみの木」をオープンされましたが、カフェを始めるきっかけはどういったものでしょうか。
「実は全くカフェをやろうという気持ちはなかったんです。子どもの頃に母親と交換日記をしていて、ある日のページに、大人になったら子供もおじいさんもおばあさんたちも喜べるようなお店をやりたいと描いていたんです。そんな思い出が、現在のカフェとなる建物を偶然目の前にした時にふっと蘇ったんです。その話を建物のオーナーの方にしたら、これまた偶然にも貸して頂けることになったのが始まりでした。物事は計画通りにならないこともあるものですね(笑)。」
意外なことがきっかけなんですね。ご自身でも想像していなかったことが今に至るまで続くカフェという形になったのは、面白い偶然です。
常にお客様の目と心を喜ばせたい
「くるみの木」から始まり、観光案内所、食堂とグローサリー、喫茶室からなる複合施設「鹿の舟」やカフェやギャラリーを併設するショップ「まちのシューレ963」など多くの人に注目されるスポットを手掛けられてきましたが、居心地の良い空間を作るにあたって最も大切にしているポイントは何でしょうか。
「まずは空間は目に飛び込んでくるので、視覚的に印象に残ること、そして、お客さまをワクワクさせられることを大切にしています。常にお客様の目と心を喜ばせたいと思いながら作っています。」
これまでのお話を伺っていると、様々な視点で人を喜ばせることがお好きな方なんだなと感じます。
「人に喜んで頂くことは自分も嬉しいことですから。また、そうした考えは祖母の影響も大きいかもしれません。大きな心で人と向き合う、丁寧に生きる人でした。」
相手が喜ぶことは自分も嬉しいこと
意外にも偶然に始まったカフェと雑貨の店「くるみの木」。思いもかけないスタートから現在に至るまで多くの人に愛され続けるのは、石村さんの他者に対するおもてなしの心がポイントのようです。そんな石村さんに伺った、もの選びの基準や手仕事の魅力に気づいたきっかけについては「『心地よい人生を過ごしたい』くるみの木主宰 石村由起子が考える、もの選びの視点と手仕事の魅力」からどうぞ。