自然と人が調和する暮らしを設計する──建築家・堤庸策が選んだ、オフグリッドという生き方

持続可能性や自然との関係性が改めて問い直される現代。「自然と人が調和する」ことをテーマに建築設計に取り組む建築家・堤庸策さんは、家を持たず、2リットルのバッグひとつで世界を移動しながら設計活動を続けています。今回は、堤さんが建築家として大切にしている考え方や、「オフグリッド」というテーマにたどり着いた背景、そして日常の空間との向き合い方について伺います。

建築家・堤庸策

1979年東京都生まれ。徳島県で育つ。専門学校アートカレッジ神戸にてインテリアデザインを学び、卒業後は田頭健司建築研究所に勤務し、設計実務に携わる。その後、ヨーロッパやアメリカを放浪し、各地の建築や文化、風土に触れながら視野を広げたのち、2006年よりフリーランスとして活動を開始。2009年に設計事務所「arbol(アルボル)」を設立。「自然と人が調和する」ことをテーマに、オフグリッドというキーワードのもと建築の可能性を探求。固定の住居や事務所を持たず、最小限の持ち物で生活するミニマリスト建築家としても知られ、デジタルノマドワーカーとして国内外で活動している。

ソフトとハード、二つの視点から考える「暮らしのデザイン」

Via : @yousakutsutsumi

まずは、堤さんが日々の暮らしの中で重視しているデザインは何でしょうか。

「大きく二つあります。ソフト的な面のデザインと、ハード的な面のデザインですね。ソフトのデザインは、かなり抽象的な話になりますが、人が今後、新しい暮らし方ができるフェーズに入ってきているのではないかと考えています。まだ誰も経験したことのないライフデザインとは何か、ということが僕の日々の問いです」

続いてハード面についても教えていただきました。

「僕自身、家もなく、事務所もなく活動しています。かなりモノが少ない状態で日々暮らしていますので、機能美や軽さ、コンパクトさは大切にしている要素です。必要最小限で成立していること、その中にある美しさを重視しています」

暮らし方そのものが、設計思想を体現しているようです。

風景だけではない、空間の本質的な魅力

Via : @yousakutsutsumi

建築家として、お好きな場所や空間を教えてください。

「まず、心から声が漏れるような絶景ですね。ただ、絶景だけでは意味がなくて、それを共感できる人と分かち合えることが大切です。さらに、自分のフィーリングに合う人や出来事があり、そこに洗練された空間がある。建築家としては、その『洗練』も重要な要素です。自然の力強さと、人の繊細な感性。その両方が重なる場所に惹かれます」

最小限の持ち物が生む最大限の自由

Via : @yousakutsutsumi

ミニマリスト、建築家、デジタルノマドワーカーというキーワードがありますが、具体的にはどのような生活をされているのでしょうか。

「デジタルノマドとは、場所に囚われずに生活する人のことだと思います。僕もデジタルツールを使って仕事をしています。持ち物は2リットルのバッグひとつです。少し大きめのペットボトルを想像してもらえると分かりやすいですが、そのサイズの中に普段必要なものをすべて入れて生活しています」

化粧ポーチほどの荷物で暮らしていると伝えると、皆さん驚かれるのではないでしょうか。

「これで生活していると言うと、ほとんどの方が驚かれます。でも、自分にとって本当に必要なものは、それほど多くないのではないかと思っています」

海外放浪がもたらした視点の変化

Via : @yousakutsutsumi

海外を放浪された経験から、得たものを教えてください。

「建築家として、建物の構造や作り方を学ぶことももちろんありますが、それ以上に大きいのは、その場所の空気感です。光や影の出方、素材の質感、そこにいる人々の雰囲気。それらが空間を考える上でのヒントになっています」

日本と海外の違いについてもそう語ります。

「環境にかなり依存しますし、文化や慣習の影響も大きいので、建築の仕方はまったく違うと感じます」

「自然と調和する暮らし」を問い続ける建築家

「自然と人が調和する」というテーマを一貫して掲げ、その思想をオフグリッド建築という実践へと展開する堤さん。家を持たず、最小限の持ち物で移動する暮らし方もまた、その思想の延長線上にあります。ソフトとハードの両面から暮らしを捉え直し、環境や文化の違いを体感しながら設計に向き合う姿勢は、建築を単なる構造物としてではなく、自然との関係性の中で再定義しようとする試みといえるでしょう。

後編:変化球の最適解──建築家・堤庸策が語る建築と人生の本質(3月23日 公開予定)