グッドデザイン金賞を受賞した須藤剛建築設計事務所による東京・西池袋の複合住宅群 「ニシイケバレイ」
須藤剛建築設計事務所による東京・西池袋の複合住宅群「ニシイケバレイ」が、2025年度グッドデザイン金賞を受賞しました。既存の建物を活かし、段階的な再編を通じてまちの関係性を“編み直す”という革新的なアプローチが評価され、全応募5,225件の頂点の一つに輝きました。
都市の再開発に新たな価値を生み出す「ニシイケバレイ」がグッドデザイン金賞を受賞

須藤剛建築設計事務所が手がけた東京都豊島区西池袋の複合住宅群「ニシイケバレイ」が、2025年度グッドデザイン賞において最高位の一つであるグッドデザイン金賞を受賞しました。全応募総数5,225件の中から選ばれた金賞20件の一つとして、そのデザインとプロジェクトの革新性が高く評価されました。

「ニシイケバレイ」は、池袋駅西口から徒歩圏内の小さな街区で、かつては高層ビルの裏側として人の往来が少なく、商業地の「しわ寄せ」を受けていたエリアを舞台にしています。

本プロジェクトは、既存の建物や環境を単に壊して新しくする従来の再開発手法とは一線を画し、既存建物を活かしながら、段階的な再編を通じてまちを“編み直す”という新しい都市再生のあり方を提示しています。

須藤剛建築設計事務所が企画から設計までを一体的に行い、平屋の住宅や風呂なしアパート、月極駐車場などが混在していた敷地を、カフェや飲食店、シェアスペース、店舗、運動施設といった多様な機能を持つ複合建築群へと変貌させました。

この再開発は、単なる建物の更新に留まらず、人と人、建物と地域の関係性を紡ぎ直す、都市居住のコミュニティの新たなモデルとして注目を集めています。特に、審査ユニットにおける最高賞という位置づけは、「ニシイケバレイ」が日本のデザイン界、ひいては都市開発の未来において極めて重要な価値を持つことを証明しています。
須藤剛建築設計事務所
代表:須藤剛
URL:http://tsudou.jp/
既存を活かし、関係性を編み直す

ニシイケバレイのデザインの根幹にあるのは、「既存のものを活かしながら、小さな操作で場を再構成すること」で、都市に顔の見える関係性を生み出すという思想です。このアプローチは、隣接する既存建物を活かしながら数年かけて段階的に開発を進めてきた経緯に象徴されており、特に三つのデザインポイントがその成功を支えています。

第一に、街区全体を対象とした段階的な再編により、既存建物の活用と継承、そして更新を両立させた点です。2020年の1棟目リノベーションを皮切りに、木賃棟、集住棟、新築棟と数年をかけて開発を重ねてきました。第二に、地域に顔が見える関係性を生むための、あらゆる境界の再編集です。敷地境界、建物の輪郭、用途の区分といった境界を緩やかにほどくことで、既存の住居を中心に、店舗や飲食店、多様な外部空間が重層的に配置され、人と人の交流を促しています。

新築棟では、玄関に大きな土間空間を設けたり、事務所や店舗を併設した住戸を設けるなど、建物の内外、敷地の内外をつなぐ設計がなされています。第三に、多様なスケールを横断した既存と新築が共存する風景の創出です。

建築と一体となった外部空間や内装デザインを通じて、古いものと新しいものが違和感なく共存し、街区全体に多層的な関係性が生まれることに成功しています。これにより、かつて商業地のしわ寄せを受けていたこの場所は、地域のプレイヤーや新たな住民が集い、交流や活動が生まれる、賑わいの場へと変貌を遂げました。この緻密かつ段階的なデザイン戦略こそが、都市の余白に潜む可能性を見事に引き出し、グッドデザイン金賞という栄誉につながったのです。
地域社会の基盤となるエリア再生モデル

グッドデザイン金賞の審査委員は、「ニシイケバレイ」のプロジェクトを「池袋駅西口商業エリアの裏にひっそりと佇む住宅街区のエリアリノベーションである」と評価し、その成果を高く称賛しています。特に、「緩やかな関係性を育むための、境界のほどき方が秀逸であり、住まいを中心に多様で豊かな空間が展開している」点、そして「時間をかけて人と人との関係を紡ぎ、一つ一つの空間を順次作り上げていったプロセス」が、従来の不動産開発手法に頼りがちな都市更新の課題に対する明確な解決策を示していると指摘されました。

本プロジェクトの革新性は、単なる建築の美しさや機能性にとどまらず、地域社会に与えた計り知れない影響力にあります。須藤剛建築設計事務所と事業者である株式会社深野商事が協働し、地域のプレイヤーと連携しながらテナント誘致や企画を進めた結果、現在では地域に新たな事業者や住民が集まり、住民主体の活動や交流が活発化しています。町会の活動も促進されるなど、民間の一拠点としての枠を超え、地域社会の活動の基盤として機能し始めているのです。

審査委員の羽鳥達也も「都市更新は従来、再開発などに頼りがちで、街の記憶や人間関係が失われてきたが、このプロジェクトは時間をかけて街の可能性を丁寧に組み替えることで、これまで培われた財産を活かしながら新たな魅力を生み出している」と推薦コメントを寄せています。

東京、豊島区という大都市の複雑な文脈の中で、地域のポテンシャルを丁寧に読み解き、小さな操作により場を再生するこの手法は、他の地域でも十分に実践可能であり、今後のエリア再生におけるモデルケースとして、広く周知されることが期待されています。西池袋の小さな街区から生まれたこの新しい都市のあり方は、日本の未来のまちづくりに大きな希望をもたらすものです。
顔の見える交流を生む「ニシイケバレイ」
「ニシイケバレイ」は、従来の都市再開発とは異なり、境界を緩やかにほどくデザインと、時間をかけた関係性の再構築により、都市居住のコミュニティのあり方を提示しました。グッドデザイン金賞の受賞は、須藤剛らによるこの手法が、西池袋という場所を超え、他の地域でも実践可能なエリア再生のモデルであることを証明しています。地域のポテンシャルを活かし、顔の見える交流を生むこのプロジェクトは、今後の日本のまちづくりに大きな期待を寄せさせる成果です。
ニシイケバレイ
URL:https://nishiikevalley.jp/
住所:東京都豊島区西池袋5-11-6、5-12-3、5-13-18