建築家・五十嵐理人による、一本の柱が支えるしなやかで力強い住まい「一本足の家」
沖縄県・糸満市。遠くに海を望む高台に建つ住宅「一本足の家」は、建築家・五十嵐理人によって設計されました。中心に立つ一本の柱を支点に大屋根と垂れ壁を広げた姿は、一見大胆で印象的。しかしその背後には「風土に寄り添いながら、暮らしの要望や環境への応答を複合的に解決する」という五十嵐の理念が貫かれています。
一本の柱から広がる外観

この住宅の最大の特徴は、名の通り中心に据えられた一本の柱です。柱がまるで傘の骨のように大屋根と壁を支え、住まい全体を覆っています。

沖縄特有の強烈な日差しを和らげながら外からの視線を緩やかに遮り、窓を開ければ海からの風が心地よく通り抜ける設計。

真夏でも空調に頼らず快適に過ごせる環境をつくり出しています。

外壁にはガラスを取り入れ、過酷な気候条件に対応できる強さを持たせつつ、どこか軽やかな印象を与えています。

五十嵐は、この設計によって基礎や躯体のコストを最小限に抑えながら、浮遊感のある佇まいを実現したと説明しています。重力という制約を逆手に取り、素材やスケールを操作することで「重力そのものをデザインする」姿勢が表れているのです。
玄関から広がるワンルームの内部

室内は一本の柱を中心とした大きなワンルーム空間。玄関から入ると、柱が自然に視線を切り替え、内部を緩やかにゾーニングしています。

キッチンやベッドスペース、バスルームやトイレは明確に仕切られることなく、柱を媒介としてそれぞれの場所がつながっていきます。

柱があることで単なるワンルームに奥行きが生まれ、「その向こう側」を感じられる広がりが内部に生み出されています。

コンクリートと木という限られた素材を組み合わせ、柔軟に変化を受け入れながらも揺るがない強度を備えた空間が形づくられています。
屋上へと導くスケルトン階段

外部にはスケルトン階段が設けられ、そこを上ると広々とした屋上へとつながります。

仕切りのない開放的な屋上空間は、バーベキューやサンセットヨガなど多様なアクティビティに対応。日常と非日常を軽やかに行き来できる柔軟性を備えています。
五十嵐は、この屋上や住宅そのものを「住宅でありながら別の機能にも転用できる場」と位置づけ、暮らしの可能性を広げる仕掛けとして計画しました。
必然として導かれた建築のかたち
「一本足の家」は、決して奇抜さを狙ったデザインではありません。のびやかに暮らしたいというクライアントの要望、沖縄特有の強烈な日射や風という自然条件、さらにコストの制約。それら複数の要素に応答しながら導かれた必然のかたちです。
この住宅には、環境や生活の変化を柔軟に受け入れるしなやかさと、何を受け入れても揺るがない強度が同居しています。一本の柱から広がる大屋根の下で、住まい手の暮らしは自然と調和し、自由で豊かな時間を紡いでいきます。