
素材の固定概念を覆し、その巧妙な造りで国内外で高い評価を受ける家具・空間デザイナー尾形欣一さん
尾形欣一さんは、仙台を拠点にオリジナルファニチャーをはじめ、全国各地で店舗や住宅・商業施設などのデザイン・設計・建築施工を手がけている有限会社オガタの代表兼デザイナーです。作品に添えられたストーリーと併せ、人々の感性に新たな気づきを与えるデザインが魅力です。独自性と実用性を両立させた、細部まで妥協のない仕上がりは高く評価され、国内外で注目を集めています。
今回は、尾形欣一さんの暮らしの中で大切にされているデザインやお好きな空間などさまざまな角度からお話を伺いました。
有限会社オガタ代表、家具・空間デザイナーの尾形欣一さん

1970年宮城県仙台市生まれ。建築業の現場を経験し、フリーデザイナーとして様々なアートワークを経て独立し、1998年にOGATAInc.(有限会社オガタ)を実弟尾形寿と設立。2009年には、株式会社尾形欣一デザイン事務所設立。2016年OGATA YAMA (尾形欣一自邸及びギャラリー)着工、2019竣工。
仙台市郊外、泉ヶ岳山麓の森の中にアトリエを構え、オリジナル家具のデザイン・製作、店舗設計、病院やビルの内外装デザイン、大型店舗などのデザイン監修や住宅設計・施工など多岐にわたり活動を行う。自然に還り、自然と融合する素材の木・鉄・革を主な素材としているオリジナル家具はすべて自社製作。
暮らしの中で大切にされているデザインは?

はじめに、尾形さんが暮らしの中で大切にされているデザインについて伺いました。
「自分の家づくりでは、あえて少しの不便さを大切にしています。普段はお客様の家を設計することが多いのですが、自分の住まいとなると一つしかない特別な空間です。だからこそ、ただ快適さを追求するのではなく、少しの不便さの中に美しさや豊かさを感じられる暮らしを意識しました。
電気など何でも揃う時代だからこそ、自然の中で工夫しながら心地よく暮らすことに、本当の幸福があると感じています。」
お好きな場所・空間は?
「特に『ここが一番好き』という場所はありませんが、刺激を受ける場所には惹かれます。例えば、仕事で東京や大阪・京都・福岡などを訪れると、街の中にあるクリエイティブな雰囲気やデザインからエネルギーをもらうことが多いですね。
一方で、自然も好きで、山や海に行くと心が解放される感覚があります。そうした都市の刺激と自然の静けさ、そのギャップを感じながら、自宅では芝の香りや自然のエネルギーに包まれて過ごす時間を心地よく感じています。」
設計から施工まで手がける理由は「思いを形にするため」
尾形さんは、インテリアを設計するだけではなく、施工まで行っています。このような形態を取られている理由について伺いました。
「デザイナーとして作り上げて考えたものが、実際に作るときに職人さんの手に渡り、 出来上がりまでの温度差、自分の考えていることと人が理解していることは違うため、 基本的に作れるものは自分で作りたいというのが最初の考えです。」
インテリアを作る際に木や鉄などの素材にこだわる理由

尾形さんが手がけたインテリアは、他にはないクラフト作品のようなデザインです。 どんな作品も木や鉄をふんだんに使用している印象があります。木や鉄、革などの素材を多く使用している理由について伺いました。
「特に理由は、ありません。日頃手に入りやすいものや皆さんが理解しやすいものの組み合わせを工夫して、 今までにないものを作り出すのが好きです。
変な例ですが『冷蔵庫の中にある材料でおいしいチャーハンを作ってしまった』みたいな感覚が好きなんです。 材料が素晴らしいからいいものができるという可能性もないですし、 質素なもので工夫したら面白いものができるというのが根底にあります。」
オリジナル家具「BEAN STOOL」「BOX STOOL」が海外で評価された理由とは?

尾形さんのオリジナル家具は、パリのメゾンエオブジェでも選考展示されています。どんなところが評価されているのかを伺いました。
「最初は5万人ものデザイナーが集まる展示会であるため、言葉が通じなくても人の心に残るような『一瞬で印象に残る作品』を作りたいと考えていました。
その際に思いついたのが、誰もが知っている『段ボール』の形をした椅子です。実際には革で精巧に作られていて、使い古したように見えますが、近くで見ると細部まで丁寧に作り込まれています。ヨーロッパの方々からはその発想と技術力が高く評価され『日本人らしい技術』と思ってもらえました。」
OGATA YAMA (尾形欣一自邸及びギャラリー)を建築したきっかけ

「僕は、あまり家に興味がなかったのですが、妻が家を欲しいということから建築に至りました。
最初は『あやこ邸』と名付けて始まったのですが、妻の動線を聞きながら使いやすさを求めて作っているうちに、四角四面のちょっとしたかっこいいものができそうになりました。そこに動物がガラスに突っ込んできても変な話で、動物の動線を優先してしまった結果、あのような形になりました。
動物の動線を考えるって斬新ですね。
「僕らが勝手に山に入ってきて、小さな破壊を行って住まわさせてもらっているので、 流れをこっち側に認識しながら生存はできませんが、住めたらいいなと思いました。」
住まわせてもらっているという気持ちで設計した結果、あのような形になったのですね。
「仕事であれば、お客様の希望などの約束事で仕事がまとまります。しかし、自分の家は、その必要性がなくなるため、邪気の流れや気の流れ・風の流れ・傾斜など自然に負荷をかけない状態で作ったらそうなりました。」
OGATA YAMAの設計・施工で苦労された点は?
「この建物は『シェル構造』と呼ばれる鉄筋コンクリート造で、柱を一切使わずに構造体そのもので強度を保つ設計になっています。構造計算上は問題ないとわかっていても、実際に型枠を組み、コンクリートを打設し、最後にその型枠を外すまでは正直かなり緊張しました。
完成するとドーム状、ドーナツ状の美しい形になるのですが、これまでにない構造だったので『本当にこの形で自立するのか』という不安もあり、施工中は事故がないことを祈るような気持ちでした。」
OGATA YAMAに住んで気づいたことは?

「実際に住んでみて感じたのは『住む』というより『住まわせてもらっている』という感覚が強いことです。印象的だったのは、ある満月の夜のことです。建物の天井には、約8メートルの高さに丸い開口部があり、そこから月明かりが差し込みました。
その光が床のコンクリートに反射し、さらに天井へと跳ね返ることで、空間全体がモノクロームのような幻想的な光に包まれたんです。月の光の美しさに感動しました。」
LIFE IS「生き甲斐」
インタビューの最後、尾形さんに「Life is ◯◯」空欄に当てはまる言葉を尋ねると、「Life is 生き甲斐」と答えてくれました。
「作る側として生涯かけてそれを自分の納得いくように、イマジネーションをクリエイションにずっとしていく作業を飽きなくしていきたいということです。 」
有限会社オガタ代表、家具・空間デザイナーの尾形欣一さん
仙台の自然豊かな森の中にアトリエを構え、建築から家具、空間デザインまで幅広く手がける尾形欣一さん。
素材の魅力を最大限に生かしながら、人の感性に触れる作品を生み出すその姿勢は、まさに『生き甲斐』という言葉に重なります。
今後も尾形さんの手によって、暮らしや空間に新たな価値をもたらすデザインが生まれていくことでしょう。国内外でのさらなる活躍に、これからも注目です。