大阪・関西万博でも「ポップアップステージ 東内」を手がけた建築家・桐圭佑さんに聞く日常から生まれる建築のかたち

桐圭佑さんは、東京を拠点に日本各地で住宅や歯科医院、宿泊施設など、用途や規模にとらわれず幅広い建築プロジェクトを手がけています。2025年開催の大阪・関西万博では、「ポップアップステージ 東内」の設計を担当し、注目を集めています。今回お話を伺う中で見えてきたのは、雲のように軽やかで、けれど深く、日常に根ざした桐さんの建築観でした。

今回は、桐圭佑さんの暮らしの中で大切にされているデザインやお好きな空間などさまざまな角度からお話を伺いました。

KIRI ARCHITECTS主宰、建築家・桐圭佑 (Keisuke Kiri)

1985年、北海道生まれ。
2009年から2017年まで藤本壮介建築設計事務所に勤務し、国内外の様々なプロジェクトで経験を積む。特に**「Serpentine Gallery Pavilion 2013」や「直島パヴィリオン」といった、世界的に注目されたプロジェクトを担当しました。
2017年に独立し、自身の建築設計事務所 KIRI ARCHITECTSを設立。
これまでの功績として、三栄建設住宅設計競技 最優秀賞、そして世界の優れた住宅建築を表彰する「AR HOUSE AWARDS 2021」に選出されています。

暮らしの中で大切にしているデザインは?

「椅子はすごく好きです。とにかくぼーっと考え事をしたり、建築のことを考えたり、座っている時間がとにかく多いので、デンマークのデザイナー、ポール・ケアホルムがデザインした『PK22』というローラウンジチェアが気に入っています。」

好きな場所や空間は?

Via: @kiriarchitects

「いま実際に過ごしている『事務所の窓際の席』が、落ち着く場所です。

事務所は路面店のようなつくりで、ブティックのような雰囲気です。大きな窓があり、手前には植物が並んでいます。通りに面しているため、街を行き交う人々や子どもたちが中をのぞいたり、模型に興味を持って立ち止まることもあります。開かれた空間として、街とのつながりが感じられる場所になっています。」

設計事務所でありながら、どこかブティックのような親しみを感じさせる。そんな場所が、日々の発想の源になっているようです。

建築家になったきっかけは?

「もともと建築家を目指していたわけではないのですが、子どもの頃からものを作ることが好きだったのがきっかけです。また、何かに熱中して作業に没頭することが楽しくて、自然とものづくりの世界に進みたいと考えるようになりました。」

設計で重視していることは?

Via: @kiriarchitects

桐さんの手掛ける住宅は、一つの機能が拡張していったり全体を構築するような軸のようなものになっていたり独特な印象があります。設計時に重要視していることについてお聞きしました。

「設計を進めるうえで重要視しているのは、土地の持つ魅力や周辺環境から何か湧き上がってくるようなものを常に考えるようにしています。」

土地を散策したりするのですか?

「散歩したり、敷地周りの雰囲気や駅からの道を歩いてみるようにしています。」

2025年大阪・関西万博で担当した雲の屋根をイメージしたステージ

Via: @kiriarchitects

大阪・万博で手がけたポップアップステージ 東内はどんな建築なのかお聞きしました。

「屋外で踊りや音楽を演奏したり踊ったりするようなステージになっています。

日差しが強いこともあり、暑さを和らげるものが必要だと思う中で、形のないもの・重くないものを作れないかなと考えていました。その中で、ミストを頭上に吹き、雲のようなものを作ればいいのではないかなと思い、雲の屋根をイメージしたステージを設計しました。

Via : @kiriarchitects

このアイデアは、1970年の大阪万博で中谷芙二子さんが手がけたペプシ館の『人工ミスト』から着想を得たものです。地面から切り離し、建築の屋根として頭上に持ち上げるという挑戦でした。風の影響を受けてミストがうまく滞留せず、試行錯誤を重ねました。最終的には風よけの幕を設けることで、雲の屋根が完成しました。」

2025年大阪・関西万博は建築の空間の力を感じた

「SNSやインターネットを通して多くの情報が簡単に手に入る時代の中で、今回の万博では、建築の空間の力を感じることができたのではないかと感じています。」

前回の大阪・万博で初めてミストが公開され、今回の大阪・万博でミストを取り入れた雲の屋根を作ったストーリーが素敵ですね。

「かつての大阪・万博が『水と人間の関係性』を問い直すものであったように、今の社会にも通じるつながりの再構築というテーマが重なります。さまざまな人種や民族を超えて、踊ったり場所を共有したする場を作れたらいいなと思い、設計しました。」

2025年大阪・関西万博の見どころは?

Via:@kiriarchitects

「ポップアップステージ東内は、リングの上から見るとよく見えるのでおすすめです。ほかにも、会場には休憩所やトイレ、サテライトスタジオなどの施設が点在しており、20組の若手建築家がそれぞれを手がけています。

自然素材を使ったものや、移設可能なデザイン、3Dプリンティングなど先端技術を活かしたチャレンジングな建築が集結しています。訪れた際は、ぜひそちらの施設も巡ってみてほしいです。」

LIFE IS 「クラウド」

インタビューの最後、桐さんに「Life is ◯◯」空欄に当てはまる言葉を尋ねると、「Life is クラウド」と答えてくれました。

「今回の大阪・万博ステージのコンセプトでもある『雲』は、誰もが1日に一度は目にするような、何気ない存在です。二度と起こり得ないような雲の模様をずっと描き続けて更新していっているところが魅力的だなと思っています。」

桐さんが目指すのは、そんな日常の延長線上にふと現れるような、一度きりの風景を建築でつくること。かけがえのない瞬間を空間として描き続けていきたい。それが桐さんの思いです。

『何気ないけれど、かけがえのないもの』から建築の可能性を見つめる

日常の中にある『何気ないけれど、かけがえのないもの』から建築の可能性を見つめる桐圭佑さん。環境や人の流れに寄り添いながら、軽やかで奥行きのある空間を描き続けるその姿勢には、建築という枠を超えた広がりを感じます。

大阪・万博での挑戦をはじめ、地域や社会と響き合うこれからのプロジェクトにも大きな期待が寄せられます。