ナノメートルアーキテクチャー・三谷裕樹さん、2025年大阪・関西万博で“木の物語”をかたちに

前編:「決めきらないデザインを大切に」ナノメートルアーキテクチャー・野中あつみさん

愛知県名古屋市で設計事務所を主宰している建築家・三谷裕樹さん。ナノメートルアーキテクチャー建築設計事務所は、2025年大阪・関西万博にて、関西の放送局が使用するサテライトスタジオ(東)の建築設計を手がけています。

今回は、建築家・三谷裕樹さんの用途や形式にとらわれない自由な発想、2025年大阪・関西万博で作り上げた建築設計のこだわりなどについてお話を伺いました。

ナノメートルアーキテクチャー建築設計事務所を主宰している建築家・三谷裕樹さん

Via: https://nm-9.com/

2011年に三重大学工学部建築学科を卒業後、同大学大学院に進学。その後、大学の施設整備チームでの勤務を経て、2014年からはSUPPOSE DESIGN OFFICEに所属し、設計実務に携わる。2017年よりナノメートルアーキテクチャーに参画し、建築家としての活動の幅を広げている。

設計において最も重視されるポイントは?

Via: https://www.instagram.com/nanometerarchitecture_works/

ナノメートルアーキテクチャーの作品例を見ると、多岐に渡るプロジェクトを手掛けていますが、その際に最も重視されていることについて伺いました。

「住宅やオフィスなどさまざまなことを手掛けていますが、用途にとらわれすぎないように心がけています。住宅であっても、あえて『住宅らしく』作り込まない。オフィスであっても、典型的なオフィスのようにしないよう心がけています。

そうすることで、オフィスをオフィスとしてしか使えない状況ではないような、使い手が自由に解釈し、想像を広げられるような空間が生まれると考えています。プロジェクトごとに異なる用途があっても、想像を掻き立てるような作り方を心がけています。」

一般的に「オフィスはこうあるべき」のような姿がありますが、そこに囚われないということでしょうか?

「寸法の取り方や素材の選び方などは、これまでの経験の中でオフィスらしさを感じていると思います。ですが、既存の枠組みにとらわれず、一度それを解きほぐしながら考えていくことが大事です。」

2025年大阪・関西万博のサテライトスタジオで設計された「積み柱」とは、どのようなもの?

Via: https://www.instagram.com/nanometerarchitecture/

ナノメートルアーキテクチャーは、2025年現在開催中の大阪・関西万博で、関西の放送局が中継のために使用するサテライトスタジオ東の建築の設計を担当されています。このスタジオを支える柱は「積み柱」というものですが、どのようなものでしょうか?

「日本中からさまざまな木材を集めて積み上げた柱です。日本には四季があり、多様な樹種が存在しますが、今回は木材の樹種などの特性以上に、その木がもつ背景やストーリーを大事にしたいと思いました。

例えば、災害で倒れた木や、道路の拡幅に伴って伐採された木など、通常であれば行き場を失ってしまうような『困った木』をあえて集め、それぞれのストーリーを活かした柱としています。世界から訪れるタイミングで見ていただけたらいいなと思っています。また、日本の四季や樹種だけでなく、物自体がもつストーリーを見せていくだけで素材の価値や感じ方が変わればいいなと思います。」

日本中から困った木を探し出すのは大変な作業だったのでは?

Via: https://www.instagram.com/nanometerarchitecture/

「とっても大変でした、設計の範疇を超えていますが、万博の特別な機会なので、普段やらないことにチャレンジして、今後の未来への小さなヒントになれば良いかなと思いながら向き合っていました。」

万博が終わった後はどのように活用しますか?

「このままの形で移築されるのが理想です。たとえそうならなくても、一部だけでも活用できればと考えています。例えば、木を学ぶ場として再構成したり、小さな小屋として新たな用途に転用したり、常設の場に変えていくことができたらいいなと思っています。」

最後に、今回の万博はご自身にとって、また社会にとって、どのような意義があるとお考えですか?

「私にとっては、今世界で起きている現実を目の当たりにして、さまざまな課題や解決すべきことに加えて希望など、多くのことを学べる貴重な機会になっています。

また、社会にとっても、各国がそれぞれ面白いものや興味を惹かれるものを展示されているので、実際に訪れて体験することで、今後の未来の何かに気づきが得られるのではないかと思っています。」

Life is「 締め切り」

インタビューの最後、三谷さんに「Life is ◯◯」空欄に当てはまる言葉を尋ねると、「Life is 締め切り」と答えてくれました。

「建物を建てる際の完成期限や、図面の提出期限など、日々さまざまな締め切りがあります。それは私にとって、ひとつの『目標』のようなものです。
自分で決めた期限に向かって努力し、乗り越えていくことをこれまで続けてきました。皆さんも、それぞれの締め切りを見つけ、それを乗り越えていくことで成長につながるのではないかと思っています。

また、締め切りを迎えることでようやく解放されるという感覚もあります。そうした意味で、私は締め切りと共にある人生を歩んでいると感じています。締め切りがないと誰もやらないので大事な動機づけとも言えます。」

ナノメートルアーキテクチャー設計事務所の建築家・三谷裕樹さん

ナノメートルアーキテクチャー建築設計事務所を主宰する建築家・三谷裕樹さんは、既成概念にとらわれず、用途や形式を柔軟に捉える設計姿勢で、多様なプロジェクトに取り組んでいます。2025年大阪・関西万博では『木の物語』に着目した柱の設計を手がけるなど、素材や空間の可能性を丁寧に探る姿勢が印象的です。今後のさらなる活躍にも注目が集まります。