建築家・前田圭介による勾配が異なる切妻屋根のもとに豊かな時間が流れる住まい「間∧屋 / Butterfly」

広島県福山市を拠点に活動する建築設計事務所「UID」代表、建築家・前田圭介は、敷地や自然環境を活かした、独創的な空間構成と素材の魅力を引き出したデザインを得意としています。2019年に完成した「間∧屋 (ま∧や) / Butterfly」は、前田の代表作の一つ。軒や庇、縁側といった日本の伝統的な建築様式を取り入れつつも、現代的な機能性を兼ね備えた住宅プロジェクトです。

勾配が異なる切妻屋根が折り重なるように見える住宅

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Photo : Nacasa&Partners Inc.

「間∧屋  / Butterfly」は広島県の瀬戸内海の湾からほど近いエリアに建てられました。施主は、棟方志功や藤田嗣治の書画や、大樋長左衛門や清水卯一の器など、様々な作品を保有するコレクター。その作品の展示ができるスペースを備えた住まいとしてオーダーされました。

求められたのは、伝統的な和風建築でありながらも洗練されたモダンな空間。また、装飾的な和ではなく、数寄屋建築の軽妙洒脱なイメージでした。

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Photo : Nacasa&Partners Inc.

そこで、計画では古くからこの周辺地域の風景を形成してきた要素を再解釈。

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Photo : Nacasa&Partners Inc.

敷地の中に7つの木造切妻型ヴォリュームを分棟配置し、外部環境との接続面を適度につくりながら回遊性のある空間構成としました。

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Photo : Nacasa&Partners Inc.

7棟に分割された切妻屋根が数珠繋ぎに配され、周辺に広がる勾配屋根の住宅となじみながらも、新しいスカイラインを形成します。

外部環境を取り込み街に溶け込む

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Photo : Nacasa&Partners Inc.

勾配や高さ、向きなどの変化によって採光や通風を獲得しながら、いぶし瓦や土壁、地形および植生に至るまで、この風土に即した材を採用。地域の文化や風土に根ざした建築を目指しました。

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Photo : Nacasa&Partners Inc.

また、建築には大きな窓が多く設けられており、外からの光をたっぷりと取り込むデザインが特徴的です。この窓の配置が建物全体に開放感を生み出し、内部と外部がシームレスに繋がっているかのような印象を与えます。

開放感とプライバシーの絶妙なバランス

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Photo : Nacasa&Partners Inc.

室内の間取りは、開放感とプライバシーのバランスが巧みに取られています。

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Photo : Nacasa&Partners Inc.

家全体のコンセプトとして、家族や居住者が自由に動き回り、相互に視線が重ならないように工夫されています。リビングルームやダイニングルームといった共有スペースは、大きな一体空間として配置されており、そこに設けられた大きな窓からは、外の景色を楽しみながら自然光を取り込むことができます。

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Photo : Nacasa&Partners Inc.

廊下には大きな飾り棚を設けることで、コレクションを日常的に楽しめるように。

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Photo : Nacasa&Partners Inc.

それぞれの空間は抜けのある棚や造作家具によって緩やかにゾーン分けをすることで、プライバシーを守りつつ開放感のある空間に仕上げています。

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Photo : Nacasa&Partners Inc.

また、天井の高さや階段の位置にも気を配り、視覚的に空間が広がりを感じさせる工夫が施されています。特に、リビングルームの天井は高く開放的で、空間に圧迫感を与えることなく、ゆったりとした印象を生み出しています。

洗練された素材選びと温かみのあるインテリア

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Photo : Nacasa&Partners Inc.

インテリアにおいても、障子や左官など日本の建築要素を随所に取り込むことで、格式を感じさせる空間を演出しています。

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Photo : Nacasa&Partners Inc.

リビングルームやダイニングエリアのフローリングは、無垢材を使用し、木のぬくもりを最大限に引き出しています。

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Photo : Nacasa&Partners Inc.

壁面や床の色合いも控えめでありながら、木の質感や光の反射を意識したものが多く、静かな美を感じさせます。

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Photo : Nacasa&Partners Inc.

照明においても、全体的に柔らかく温かな光が空間を包み込みます。

Photo : Nacasa&Partners Inc.

室内からこぼれる光が内へと誘うように辺りを灯します。

「間∧屋─Butterfly」に込められた前田のデザイン哲学

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Photo : Nacasa&Partners Inc.

前田が「間∧屋  / Butterfly」で追求したのは、空間が持つ「間(ま)」の重要性です。彼は、空間を単なる物理的なものとして捉えるのではなく、そこに住む人々がどのように感じ、どう過ごすかという「時間」と「空間」の相互作用に重きを置いています。

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Photo : Nacasa&Partners Inc.

「間∧屋  / Butterfly」は、ただの住宅ではなく、時間と共に変化し、成熟する空間として設計されました。

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Photo : Nacasa&Partners Inc.

特に「Butterfly」という名称に込められたのは、建物がまるで蝶のように自然の中で羽ばたく姿。蝶は、移ろいゆく自然の象徴であり、この家が時間と共に変化していくを意味しているのです。

間がもたらす豊かな空間領域

広い敷地に対して1棟の大屋根で解くのではなく、7棟に分割することで外部環境との多様な接続面をつくった「間∧屋  / Butterfly」。日本の伝統様式による静かな美を感じさせる空間に、余白がもたらす豊かな時間が流れる建築です。