谷口吉生の美しい美術館や山本理顕の最新建築まで。愛知県にある有名建築家が手掛けた美しい建築作品10選
織田信長や豊臣秀吉、徳川家康など三英傑を輩出したことで知られる愛知県。岡崎城や名古屋城、犬山城、清州城など数々の城郭が現存しており、歴史好きな方に人気の多いエリアです。一方、市立美術館や博物館など、近代以降に日本を代表する有名建築家によって作られた数多くの作品が点在することをご存知でしょうか。今回は隠れた名建築スポット、愛知県で注目の建築10選をご紹介します。
1.谷口吉生が手がけたモダニズムらしい美しい美術館「豊田市美術館」
建築家・谷口吉生が設計を手掛け、1995年に開館した「豊田市美術館」。敷地は、豊田の中心市街地を見下ろす挙母城のあった高台の一角にあります。
建築の設計構成は、周囲の高低差を生かした設定が巧みに組まれていることが特徴です。敷地西側は、昔からの古い豊田の町に面するロケーションを生かし、隅櫓や茶室が日本式庭園の中に点在し、歴史的景観を形成しています。一方で敷地東側は、クルマの街らしい新しい豊田市街の街並みが一望できます。
斜面を登ると段々と姿を現す、空を背景に美しく浮かび上がるモスグリーンのスレートがモダンな印象を与える外観。水平に伸びるファサードの巨大な構え、連なったグリッド構造が幾何学的で美しく圧倒されます。巨大なファザードとは対照的な控えめなエントランスのギャップもユニーク。これは谷口氏曰く「この位置でもう一度、人間の身体感覚に戻って、これから美術作品に向き合うための準備する」という意図があるのだそう。
一歩内部へと進むと、乳白色の磨りガラスを通して拡がる、柔らかで心地よい光が印象的な空間が広がります。展示室は部屋ごとに空間や材質の使われ方が異なり、移動するたびに新しく開ける感覚があり、それぞれの空間に展示されている作品を新鮮な視点で鑑賞することができます。
大きな主張はないものの、柔らかな光と作品を尊重した動線設計が心地よく鑑賞の質を豊かにする美術館です。
豊田市美術館
営業時間:10:00~17:30
休館日 : (祝日は除く)、年末・年始
料金 : <常設展>一般 300円(250円)、高校・大学生 200円(150円)、小・中学生 無料※( )内は20名以上の団体料金
<企画展/常設特別展>企画会により異なる
URL : https://www.museum.toyota.aichi.jp
住所:〒471-0034 愛知県豊田市小坂本町8-5-1
アクセス : 地下鉄東山線伏見駅乗換え、地下鉄鶴舞線豊田市行き終点下車
2.隈研吾による木の立体的なグリッドが特徴的な「プロソミュージアム・リサーチセンター」
建築家・隈研吾が設計を手掛け、2010年に開館した、歯科に関連した展示物を置く博物館と研究所「プロソミュージアム・リサーチセンター」。プロソとは義歯など体のパーツを補完するものを意味します。建築は、飛騨高山に伝わる木製の玩具、「千鳥」のシステムを発展させて、60mm×60mm×2,000mmまた3,000mmnの基本部材による500mm角の立体グリッドを持つ、地上3F、地下1Fの鉄筋コンクリート造一部木造となっています。このグリッドには釘はいっさい使用せず、接着剤も無しで組み上げています。
吹き抜けの天井高は8,980mm。木製のグリッドは建物、展示室部分の屋根荷重を支える構造体であると同時に、ミュージアムの展示物を陳列するための展示スペースの役割も果たしています。上にいくに従ってせり出していく断面形状は、木材を雨から守るための工夫であり、木材の端部を守る白いペイントも、同様に木材を守るための仕掛けとなっています。
プロソミュージアム・リサーチセンター
所在地 : 〒486-0844 愛知県春日井市鳥居松町2-294
営業時間:平日10:00-16:00
定休日 : 土日祝
URL : http://gcdp.dental/protho_research/
アクセス : JR中央本線「JR勝川駅」下車、徒歩25分
3.妹島和世が手がけた曲面のガラスが印象的な「豊田市生涯学習センター逢妻交流館」
建築家・妹島和世が設計を手掛け、2010年豊田市田町に新築移転した「豊田市生涯学習センター逢妻交流館」。地域のための生涯学習センターで、周囲に田園風景や山並みを望む敷地に建てられました。地上3階建ての建築は各階で異なる平面形状を持ち、上下で出っぱったり引っ込んだりしながら積層されています。妹島建築に多く見られる、全面が曲面ガラス張りのユニークな外観を持ち、内部の会議室やホールも円形でまとめられています。外壁は日差しを調整するためエキスパンドメタルで覆われています。
1階は大きな吹き抜けの開放的な多目的ホールと、ひと繋がりながらもカーブによって柔らかく分けられた図書コーナー、子育てサロンなどがあり、近隣住民の交流を促します。
2階は大・中・小3つの会議室があり、それぞれが距離を保ちながら配置された静かな場所で、話し合いやパソコン教室などが行われます。
3階は半屋外空間で、大小さまざまなテラスと繋がる調理実験室、工芸室、和室があります。山からの風がテラスを吹き抜け、天気の良い日には、そこでお食事会やお絵かき教室、お茶会などが催される、心地の良い地域のコミュニティスペースとなっています。
豊田市生涯学習センター逢妻交流館
所在地 : 〒471-0049愛知県豊田市田町3-20
開館時間 : 9:00-21:00
定休日 : 月曜日(祝日の場合は開館)、年末年始
TEL : 0565-34-3220
WEB : http://www.ph-toyota.jp/guide/aizuma/
アクセス : 名鉄三河線「豊田市駅」/愛知環状鉄道「新豊田駅」より、名鉄バス新屋経由赤池行「宮上町」下車。徒歩約15分
4.岡田新一によるユニークな外観が特徴の「日進市立図書館」
建築家・岡田新一が設計を手掛け、2008年に開館した「日進市立図書館」。地上2階建ての建築は、正方形平面を持つ2層の構成となっており、建物の4つのコーナーには「太陽」、「宵の明星」、「月」、「明けの明星」といったモザイクタイルで覆われたシンボルとなる塔が配置されています。施設は、図書機能だけでなく工作室などのパブリックゾーンを設け,一般書架と中庭を介して相互に行き来できるのが特徴です。
どの書架間通路からも検索ゾーンが近くに見えるように配列されています。そして開架スペース全体に回遊性を持たせつつ、方向感覚を失わないよう、天井の高低や光の取り入れ方、家具の組み合わせ方などにより場所に応じた風景を意図し、作られています。
また、図書館員の専門性を実感できるレファレンス利用の促進を目指した、声をかけやすく会話をしやすいデスク周りの設計も注目のポイントです。
日進市立図書館
所在地 : 〒470-0122 愛知県日進市蟹甲町中島3-3
開館時間 : 火~金:9:30~20:00、土日祝 : 9:30~17:00
休館日 : 毎月第1月曜/木曜、第1以外の月曜(祝日以外)、年末年始、特別整理期間
TEL : 0561-73-4123
WEB : https://lib.city.nisshin.lg.jp/contents/
アクセス : 市内巡回バス「くるりんばす」全7コースのうち、循環線・赤池線・梅森線・三本木線・岩崎線・五色園線・米野木線「図書館」下車
5.槇文彦の日本で最初の建築作品「名古屋大学・豊田講堂」
建築家・槇文彦が設計を手掛け、1960年に名古屋大学東山キャンパスの中心に開館した「名古屋大学 豊田講堂」。槇が32歳で担当した日本で最初の作品です。鉄筋コンクリート造・打放しコンクリートの地下1階・地上3階建てで、講堂は1,612席の客席を有します。3層分の高さを持つエントランスポーチから玄関へ入ると一転、天井の低いエントランスホール、その奥に再び大きく吹抜けたホワイエと、奥へ進むにつれて天井高の変化が続きます。2008年には、老朽化した講堂の機能性・快適性・安全性・耐久性を向上させ、日本の文化遺産として保存継承することを目的として、新築時と同じ事業チームによる改修工事が行われました。外装の復元、講堂東側に建つ国際会議施設「シンポジオン」との間をアトリウムとして室内化、ホールの性能改善などが成されました。打ち放しコンクリートの列柱は、仕上げを復元するため柱の表面から30mmを削り、メッシュ筋を取り付けた上で55mm打ち増しされています。50年近く雨風に晒され、かなり劣化していた外壁でしたが、手の込んだ改修手法のおかげで竣工当初の雰囲気を損なうことなく、改修、増築がなされています。
名古屋大学 豊田講堂
所在地 : 愛知県名古屋市千種区不老町
TEL : 052-789-5111
アクセス : 地下鉄名城線「名古屋大学駅」2番出入口
6.吉村靖孝らが率いるSUPER-OSが設計した「西光寺本堂」
建築家・吉村靖孝、吉村真代、吉村英孝の3人から成るSUPER-OSが設計を手掛け、2005年に完成した「西光寺本堂」。浄土真宗西本願寺派に属する寺院の本堂です。本堂は仏事はもとより講演会、コーラスの練習やコミュニティの教室として使用されます。
備前焼のような外装は屋根壁ともに6mm厚の耐候性鋼板で、防水材、水平力を負担する構造材としての機能を持ち、経年による錆の安定作用による表情の変化を狙っています。錆の段屋根に反射して赤味を帯びた光を、屋根、天井、床に接する高さに設けた同一形状の開口部から内部に導き、白く粗い肌理の内壁に不均質に反射させることで非現実的な雰囲気を演出しています。さらに、内側に設えた吊戸を開けることで開放的な空間にもなり、仏事以外の用途にも合わせることができます。シンボリックな外形ではあるものの、既存の建物と千鳥を成して庭を囲む配置とすることでモダンな印象を排し、大和絵のようなどこか懐かしさのある風景を生み出しています。
西光寺本堂
所在地 : 〒444-2133愛知県岡崎市井ノ口町字片坂46
TEL : 0564-21-9775
アクセス : 名鉄バス「大樹寺」から徒歩10分
7.隈研吾が手がけたバンケットホール「ミライエ レクストハウス ナゴヤ」
建築家・隈研吾が設計を手掛け2018年にオープンした「ミライエ レクストハウス ナゴヤ」。名古屋の中心地に建つ、大屋根で覆われた温かくてヒューマンなバンケットホールです。従来のバンケットホールに多く見られるハコ型を避け、全体を勾配屋根で覆うことによって、やさしくまもられた、森のような空間を生み出しています。また、杉やカラマツ材のピースを使って、天井や壁にリズムを与え、さらに天井から木漏れ日のような光を取り込むことで、空間に森のような生命感を与えています。中庭には池があり、建物周囲に配置された緑と、屋根の形や内部空間、木をメインとした材の組み合わせなどによって、新しい和の表現を試みた建築です。
ミライエ レクストハウス ナゴヤ
所在地 : 〒460-0014 愛知県名古屋市中区富士見町10-27
TEL :052-323-1122
WEB : https://www.miraie-nagoya.jp/
アクセス : 地下鉄名城線・鶴舞線「上前津駅」5番出口より徒歩約7分
8.黒川紀章による周辺環境に馴染む美術館建築「名古屋市美術館」
建築家・黒川紀章が設計を手掛け、1988年に開館した「名古屋市美術館」。中部地域で初めての近代美術館であるこちらは、市の中心にある緑豊かな白川公園の中に建っています。建築は、1層を地下に埋込み、高さを2階建に抑え、敷地形状に合わせた南北の主要な軸と北西に開いた副軸とによって基本的構成がされています。
地階には常設展示室、収蔵庫があり、地下の圧迫感を柔らげている3層吹抜けのロビーや、ゆるやかな拡がりを持つサンクンガーデンもあります。1、2階には、国際的規模の企画展が可能な企画展示室があり、上部トップライトには、完全遮光パネルと半遮光の乳白パネル(紫外線カット)が装備され、自然光による多様な演出が可能となっています。
そして、随所に日本の伝統的手法と色彩が盛り込まれており、西欧と日本の文化、あるいは歴史と未来の共生がこの建築の主要なテーマとなっています。内部のドア枠、窓には、西欧の建築様式や江戸の天文図等が引用されているほか、梅鉢の紋や茶室の模擬などが取り入れられ、同様に屋外にも木曽川の風景、名古屋城の石垣など、物語性をつくりだすための記号が配置されています。これらの様々な仕掛けを、床、壁、天井そして建物まわりから読み取りながら、展示作品はもちろん建築自体も楽しめる空間です。
名古屋市美術館
所在地 : 〒460-0008 愛知県名古屋市中区栄2-17-25
開館時間 : 9:30-17:00
定休日 : 月曜日(祝休日の場合は開館し、翌平日休館)
料金 : <常設展>一般 300円(250円)、高校・大学生 200円(150円)、小・中学生 無料※( )内は20名以上の団体料金
<企画展/常設特別展>企画により異なる
TEL : 052-212-0001
WEB : https://art-museum.city.nagoya.jp/
アクセス : 地下鉄東山線・鶴舞線「伏見」下車、5番出口から南へ徒歩8分
9.山本理顕の設計で実現すた大学キャンパス建築「名古屋造形大学」
名城公園の向かいに移転した「名古屋造形大学」の新キャンパスは、同大学の学長も務める建築家・山本理顕による設計。この建築は地下鉄の駅を避けてヴォリュームを配置し、1辺104mの大架構を上階に設けて巨大なピロティ「アートストリート」を実現しています。
張り出したテラスと巨大なピロティによってオープンな建築を実現しています。巨大なピロティには2層の建築が点在し、建築の下に建築を配する不思議な空間が実現されています。
名古屋造形大学
所在地:〒462-0846 愛知県名古屋市北区名城2丁目4番1
10.栗生明が手がけた人の心象と環境が呼応「岡崎市美術博物館」
建築家・栗生明が設計を手掛け、1996年に開館した「岡崎市美術博物館」。地下1階・地上2階建ての建築が建つ敷地は、恩賜池に面し緑豊かな自然環境に恵まれた岡崎市中央総合公園の文化ゾーンに位置しています。「マインドスケープ・ミュージアム」をコンセプトとし、人の心象と環境が呼応するような、空間形成が目指されており、尾根、谷、斜面という周辺環境から設定された、「風の軸」と「水の軸」の2つの空間軸がベースとなっています。
建築は、屋上から立ち上がるエントランスのアトリウムを特徴とし、透過性の高いガラスによって周囲の自然環境との一体化を目指しています。大きなボリュームを必要とする収蔵庫は、周辺の景観を遮らぬよう斜面に埋め込み、地形に溶け込ませています。敷地北側からアプローチすると、この施設の屋上に行き着き、ここからは恩賜池の水面と周辺の緑の丘陵、さらには遠方に岡崎市街を見晴らす眺望を楽しみながら、ゆったりとしたスロープや階段で池のほとりまで降りていくことができます。
美術・博物館が市民の啓蒙という特権的な場ではなく、市民に自由に開かれた「楽しみ」の場となることが意図された空間です。
岡崎市美術博物館
所在地 : 〒444-0002 愛知県岡崎市高隆寺町峠1
開館時間 : 10:00-17:00
料金 : 展覧会により異なる
TEL : 0564-28-5000
WEB : https://www.city.okazaki.lg.jp/museum/index.html
アクセス : 名鉄電車(特急)にて「名鉄東岡崎駅」まで約70分(神宮前駅にてのりかえ)
巨匠から若手まで幅広い建築が立ち並ぶ隠れた名建築スポット
黒川紀章や隈研吾、妹島和世など幅広い世代の有名建築家の作品が数多く見られる愛知県。歴史を感じる城下町や史跡の風景も併せて、近代建築の数々に触れてみるのはいかがでしょうか。