さまざまな人・活動を受け入れる都市に開かれたパサージュ。建築家・遠藤克彦による「大阪中之島美術館」
2022年2月に開館した「大阪中之島美術館」。設計を担当したのは〈豊田市自然観察の森ネイチャーセンター〉などの公共施設から住宅といった様々な空間設計を手掛ける建築家・遠藤克彦。建築が建つ中之島というエリアは、南海トラフによる長周期地震動、上町断層帯、液状化する軟弱地盤という三拍子が揃う日本屈指の難所。そこに浮かんだ漆黒に包まれた箱型の空間は、建築としての工夫はもちろん、都市という環境をうまく取り入れた美術館です。
さまざまな人と活動が交錯する都市のような美術館
「大阪中之島美術館」の建築の核となっているのは「パッサージュ」。
「パッサージュ」とは、フランス語で自由に歩ける小径のこと。
大阪市が実施した公募型設計競技では、「パッサージュ」を「展覧会入場者だけでなく幅広い世代の人が誰でも気軽に自由に訪れることのできる賑わいのあるオープンな屋内空間」として提案が求められました。
海外を含め多くの参加者からの提案の中で最終的に選ばれたのが、「さまざまな人と活動が交錯する都市のような美術館」とした遠藤の案でした。
存在感を出しつつも、周囲の景色を取り込む漆黒の外観
建築は5階建ての鉄骨造で、63m角平面、高さ26.4mの直方体ボリュームの4面すべてを黒色の外壁が覆います。基礎免震構造による美術館本棟と、耐震構造による駐車場棟の2棟によって構成しており、エキスパンションジョイントを介して一体的に計画されています。
特徴的な外壁の黒色は、609枚のプレキャスト・コンクリート板によって構成されており、表面をアーキテクチュラル・コンクリートとして、岩手県産玄昌石砕石と京都宇治産砕砂、そして黒色顔料を混ぜたコンクリートを流し込んだ後、背面にJIS規格計量コンクリートを打設しています。その硬化した表面を超高圧ウォータージェットによって荒らし、そこに無機高濃度シリカ系の複合コーティング剤によってコートし、耐候性と骨材の落下防止を同時に成立させています。一見単色に見える黒色は、日光に反射すると白く光って見えることを考慮し、表面を削って微細な陰を作ることで、乱反射による黒色を作り出しているのです。
敷地条件から導き出された形態と内部構成
建築の建つ敷地は、中之島の東西を結ぶハブのような立ち位置。
各方面からの人の流れを繋ぐべく、建築には「正面」を設定せず、複数のエントランスを設けることで人々を多方面から受け入れます。
人々の流れを組み込んだエントランスを中心に、1・2階は美術館を訪れる人以外も普段から利用できるような公共性を提供するという基本構成となりました。
また、浸水リスクを考慮して、展示室は4・5階に配置されています。
人と人、人とアートを繋げる「パッサージュ」
1・2階の外部空間から館内へと進むと、まず内部の「パッサージュ」が現れます。こちらは、駅のコンコースのようなパブリックなロビー空間として計画されています。
美術館への来訪者は、2階から4階に架けられた長いエスカレーターによって、垂直移動による視界の変化を楽しみながら展示室へと導かれます。
パッサージュは4階では東西方向、5階では南北方向へと各階ごとに方向を変え、それぞれに立体的なロビー空間を創出しています。
これら上階のパッサージュは、展示室前のロビーとして機能するだけではなく、四面それぞれから中之島地域への眺望を得ているため、美術のみならず都市風景を鑑賞するような体験を可能としています。
多様なアートを受け入れるシンプルな展示空間
4・5階の展示室はそれぞれニュートラルな空間となっています。4階にはコレクション展を主目的とした、天井高4m、計1,407㎡の展示室があり、日本画を展示しやすい壁付けの大型展示ケースも備えています。
5階には企画展を主目的とした、天井高6m、計1,683㎡の展示室を擁し、大型の展覧会が開催できるほか、空間を区切ることも可能になっており、多様な展覧会に対応できます。
独自の個性を持ちつつも、都市と共生する美術館
美術館に興味がある人も、ない人も、誰もが気軽にアクセスでき、訪れる人にとって居心地の良い「パッサージュ」が魅力の「大阪中之島美術館」。大阪のまちを移動する人びとが通り抜け、ときにアートを体感できる、流動的な空間です。都市に埋没することなく独自の存在感を放つ外観ながら、さまざまな人・活動を受け入れる、場に開かれた美術館です。
大阪中之島美術館
開館時間 : 10:00~17:00(入場は16:30まで)
休館日 : 毎週月曜(祝日の場合は翌平日)
料金 : 展覧会により異なる
電話番号 : 06-6479-0550
URL : https://nakka-art.jp/
所在地 : 大阪府大阪市北区中之島4丁目3番1号
アクセス : 大阪環状線「福島駅」・東西線「新福島駅」2番出口から徒歩10分、またはJR「大阪駅」から徒歩20分もしくは53号・75号系統のバス「田蓑橋」~徒歩2分