「どんな場合でも“人”から考える」建築家・内藤廣が大切にしているデザインや自身のデザインの特徴
2020年に完成した〈紀尾井清堂〉や、日本建築学会賞作品賞を受賞した〈鳥羽市立海の博物館〉などの公共施設から住宅といった様々な空間設計、渋谷の再開発プロジェクトといった街づくりや都市計画を手掛ける建築家・内藤廣。今回は内藤さんに、日常で大切にされているデザインやご自身のデザインの特徴について伺いました。
建築家・内藤廣
1950年神奈川県生まれ。早稲田大学理工学部卒業後、同大学院博士課程修了。1976~78年 フェルナンド・イゲーラス建築設計事務所(スペイン・マドリッド)勤務、1979〜81年 菊竹清訓建築設計事務所勤務。1981年内藤廣建築設計事務所設立。〈鳥羽市立海の博物館〉をはじめ、〈とらや赤坂店〉や〈島根県芸術文化センター〉など様々な建築設計を手掛け、高い評価を得ています。
バウハウスの不思議な灰皿が手放せない
まずは日常生活の中で大切にされているデザインについて伺いました。
「僕は喫煙者なのですが、バウハウスによるデザインのタバコの灰皿を愛用しています。ステンレス鋼板で作られた特殊な灰皿で、吸い殻が消えてすぐなくなる不思議なものです。これは手放せませんね。」
それがある限りタバコはやめられないですね。
「そうですね。やめようと努力はしていますけど、毎日ストレス仕事なもので、難しそうです(笑)。」
本に囲まれた空間が落ち着く
建築家として、お好きな空間はどういったものなのでしょうか。
「仕事場の書斎、机周りは気に入っています。本に囲まれていて、一番居心地が良いんです。」
デザインは”人”を起点に発想する
早稲田大学大学院では彫塑的な造形が特徴的な吉阪隆正さんの研究室に在籍されていましたが、師である吉阪さんから学び、ご自身のデザインにも生かされている特徴はありますか。
「建築設計にしても都市計画や街づくりにしても、どんな場合でも“人”から考えるということですね。人間というのは不確かで、矛盾だらけで、良いところもあるし、どうしようもないとこもある。そういった丸ごとを愛せるか、ということが大事だと考えています。」
生まれ持っての才能に圧倒された
早稲田大学大学院修了後は、スペインの建築家 フェルナンド・イゲーラスの事務所に勤務されました。国内はもちろん海外でも多くの建築家がいる中で、フェルナンドさんに注目されたポイントはどういった点でしょうか。
「彼はまさに天才なんです。僕ら日本人は、努力を重ねることでちゃんとした能力が身につくと思っているところがあると思うのですが、天才というのは、初めから僕らが到達できないようなイメージを持っているんだなと感じさせられました。
ピカソとかダリとか、スペインって時たまそういった人がいるんです。彼はその類の方だなと思いました。直感で捉えた美しさの中に、全てがあると考えている人ですね。」
建築家とは文化を創る人
当時勤務されていたスペインでは、歴史的、地理的背景から様々な文化が混ざり合ったユニークな建築が多く見られますが、日本とスペインで建築設計に対するアプローチに違いはありますか。
「全然違いますね。スペインで感じたのは、建築家というのは文化を作る人だと国民が思っているんです。建築というのは文化であり、その文化を作るのが建築家である、という捉え方をしています。日本は大工さんの延長といったような感覚ですよね。」
スペインでは建築家とは、街の文化、ランドマークをつくる人という認識なんですね。
不確かな”人間”をありのままに愛する
人間の良いところも悪いところも、丸ごと愛するような視点で”人”を起点としたデザインを生み出している内藤さん。スペインでの経験も現在の活躍に大きな影響を与えたようです。
後編:「建築はそれ自体が価値を持っている」建築家・内藤廣が〈紀尾井清堂〉に込めた想いや日々のインスピレーションの源について