“時と空気を編み込むこと”「FUA accessory」 主宰・デザイナーの木村久美子さん

極細の糸を丁寧に編んで作られる「FUA accessory」主宰で、デザイナーである木村久美子さん。そんな木村さんにご自身のことや「FUA accessory」のことについてお話を伺った。

半径50mの日常に溢れる光景

木村さんの暮らしの中で大切にしているデザインは、「半径50mの中に吹く風や、光、空気、偶然に作り上げる空気」。

「夏の終わり頃に、空が茜色に染まる景色、“爆焼け”など、激しい赤なども気持ちが「あ〜すごい〜」と思うが、それとはまた別で、生活の中で溢れる光の粒だとか空気が揺らいでいるところ、友達の笑い声とか、そういったことが1つになったものをデザインだと思っています。日常に溢れる光景が私にとって最高に大切にしているデザインの1つですね。」

好きな場所は「築50年のアトリエ」

アトリエ内部: 作業室、ギャラリーとシーン毎に姿を変え.この部屋から全国、海外へ向けてFUAのアイテムが発信される。

好きな場所や空間は、「薬院にあるFUAのアトリエ」

築50年の古いビルで、2008年にフルリノベーションしたという建物。

「壁は真っ白で、当時の50年前に建てられた階段の作りも美しく、そこに光と風が本当にたくさん差し込んだり吹き込んだりするんです。本当に気持ちの良いビルで、そこにアトリエがあるのがありがたいです。大好きな場所。」だと教えてくれた。

編み物を始めたきっかけ

ガラスビーズ、天然石を銀糸で編みつなげ形を作る。繊細で立体的なフォルムはFUAならでは。

2010年から作家活動をしている木村さん。それまでは、個人的にニッティングのようなことはしていたのだろうか?

「それまでは、ほとんどしていないです。母がずっとしていたのでそれを隣から見ているぐらいでしたね。色々な転機があって、1年間ぐらい引きこもりだった時期がありました。その時に“編み物をしてみたら?”と言われて、編んだところ、とても頭の中がスッキリしたんです。」

と話し、

「そこから編み物にのめり込んで、色々なきっかけがあって今にたどり着きました。」

と編み物を始めたきっかけについて話した。

ブランド名「FUA」名前の由来

耳飾りをヘッドドレスへアレンジ。用途を選ばず自由な発想で楽しむことができる。

ブランド名の「FUA」。誕生した時は、「風亜」であったが、名前の由来はどういったものなのだろうか。

「私たちの作品が世界中の方々の手に渡ればいいなと思い、出始めはアジアかなと思って、軽いノリで、アジアの「亜」をつけました。近くの国の方々にアクセサリーを届けたいと漢字の表記にしていましたが、そこから世界を意識して、アルファベットに変えたという経緯があります。」

ブランドテーマ “時と空気を編み込むこと”

ネックレスをヘアピンでとめて、ヘッドドレスへ。花嫁さまに人気のスタイル。

FUAのブランドテーマは、“時と空気を編み込むこと”。どのような意味が込められているのだろう。

「編み物は本当に生き物のようなものなのです。編み込む時の感情やコンディションによって、編み目が揃ったりバラバラになったり、艶がでたり干からびた状態になったり様々なのですが、その空気も編み込んでいくというイメージでそのコンセプトを作りました。」

シンプルなもの程、技術力が問われる。TAIというリボンのようなネックレス。

「そのあとは、アクセサリーを手にとった方に委ねていくイメージです。その方が大切に使っていただければ、ずっと残っていく、次に繋がっていく、受け継いでいただけるような…。その方の纏う空気とか、その経過した時間とかが刻み込まれていくのが、FUAのアクセサリーであってほしい気持ちです。」

と話した。

木村さんが心を込めて作ったものは、購入者に引き継がれ、その購入者により、商品がさらに“オリジナル”のものへとなっていくのだ。

1つ1つ全てが、インスピレーション

ビルのエントランスに飾られている鳥のオブジェ。いつも撫でてからアトリエに入ることがルーティーン。

「FUA accessory」は、極細の糸とビーズで編まれる立体的なアクセサリー。作品1点1点に物語があるような本当に素敵な作品ばかりだ。木村さんは、作品作りにあたり、どんな体験やどんなものからインスピレーションを受けているのだろう?

「パッと閃いた言葉だったり、または生活の中で目に入るもの、例えばドアの取手だとか、窓の桟だったりとか1つ1つ全がてがインスピレーションとなっていますね。そして、特に記憶に残ったものが形になってアクセサリーになっています。」

“糸”との出会い

2022年の新作。フラワーペタルピアス、スワンネックレス。

「FUA accessory」に欠かせない“糸”。理想の糸に出会うまで色々と試行錯誤があったと話す木村さん。

「毛糸のアクセサリーや、彫金や金属のカッコいいジュエリーをつけたいかと想像した時、それももちろん欲しいけど、もっと温かみが欲しいなと思ったんです。そういったものを表現できる糸を探して探して探して、やっと出会ったのがこの糸でした。見た瞬間にこれだと思いましたね。」

と京都で作られている、極細の理想の糸と出会ったそう。

「日本の和装の帯の刺繍をする糸で、日本古来から続いているので、やはり丈夫ですね。細かくてしなやかで美しくて最高の糸に出会えました。」

始まりの時シリーズより、アイボリーはFUAの基本の1色と呼ばれるほどに人気の色。

そしてアクセサリーについて、こう続けた。

「FUA accessory の写真のモデルさんたちは、角度だったりと、綺麗に見せるようにしたり意識しています。しかし、実際につけるのは私たち。普通の女性たちが身につける時に違和感があってはだめなんですよ。目立ちすぎても良くなくて、その方にスッと溶け込んでいるのがアクセサリーだと思っているので、実際に身につけていただくとその感覚が伝わるのではないか、と思っています。ぜひ、手に取っていただけたらなと思います。」

ニッティングならではの使い方ができるので、オールマイティーに生活の中に取り入れていただけるのではないかと木村さんは、感じているそうだ。

「FUA」を世界中に…。

200を超えるアイテムの数々は木村のデザインによるもの。職人たちと話し合いながらベストな形を探る毎日。

そんな木村さんに、今後の目標や夢について伺った。

「いっぱいあるけど、1番の目標はやっぱり世界中の方にとっていただけたらなと思っています。」

既にオーストリアにも取り扱いショップがあるFUA accessory。現地の方々の反応は、とても繊細なアクセサリーなので、“Amazing!”という言葉をいただいていると、とても好評なよう。

言葉がいらない分、世界中に展開しやすいアクセサリー。「彫金やジュエリーも素敵だけど、FUAならではの形なので、自信を持ってこの形やブランドは、世界に発信できるなと思っています。」と自信を示した。

Life is ニッティング。

インタビューの最後、木村さんに「Life is ◯◯」空欄に当てはまる言葉を尋ねると「Life is ニッティング。」と答え、「私をここまで編み物が連れてきてくれたし、これからも私をどこかに連れて行ってくれると思うので。」と話し、インタビューを終えた。

木村さんが丁寧に編んだアクセサリーを、また私たち購入者が、様々な場所へと連れて行き、時を重ねていくのだろう。