「本一冊を片手に訪れるような、身近な存在にしたい」建築家・遠藤克彦が手掛けた「大阪中之島美術館」への想い

前編:「素材と技術を活用した建築で現代を表現する」建築家・遠藤克彦が意識しているデザインとは!?

2022年2月に開業した〈大阪中之島美術館〉や、公共建築賞にて優秀賞を受賞した〈豊田市自然観察の森ネイチャーセンター〉などの公共施設から住宅といった様々な空間設計を手掛ける建築家・遠藤克彦。今回は遠藤さんに、今年2月に開業した〈大阪中之島美術館〉への想いやこれからの建築に求められるものについて伺いました。

クローズドな空間とオープンな空間のバランスが評価された〈大阪中之島美術館〉

撮影:上田 宏

2022年2月にオープンした〈大阪中之島美術館〉の設計を担当されましたが、ご自身の案が評価されたのはどういった点が大きかったとお考えですか。

撮影:上田 宏

「美術館というアーキタイプですから、展示室や収蔵庫のように閉じているけど実は公共性を持っているスペースや、市民の皆さんが楽しめる開かれたスペースがあって、そういった空間の閉じ方開き方のバランスが評価されたと考えています。」

積み重ねた工夫によって表現される”黒”がもたらす効果

撮影:上田 宏

また、建築には黒い外観を採用されていますが、建築における黒というのは簡単に表現できるものなのでしょうか。

「通常、光を纏わないと色は見えないのですが、黒の表面を磨いて作ると、そこが反射して明るく白っぽく見えてしまうんです。そこで表面に影を纏わせるという工程を入れて黒く見えるようにデザインしました。実は黒の色味を出すのは大変な作業なんです。面積の大きい部分でもありますし、仕上げの工程は手作業で行なっているので、職人さんたちの苦労には頭が下がります。」

撮影:上田 宏

建物の内部にも効果的に黒が多用されており、プラチナシルバーも取り入れることで黒がさらに引き立てられています。ゴージャスでシックな感じに仕上がっていますね。

「設計コンペの段階では金色に近い派手な色も考えてはいたのですが、設計中に色々なアーティストの方々とお話しする機会がありまして、もっとニュートラルな空間にしないと作品が引き立たないと気付きました。そこで輝きを控え目なトーンにして、そこに光が当たることで様々な様相が出るように設計しています。」

身近な存在として気軽に訪れてほしい

撮影:上田 宏

地域にとってはどういった存在であってほしいとお考えでしょうか。

「特別な日でもなく、普段から遊びに行けるような場所として使って頂ければと思います。特に1・2階は美術展を鑑賞しなくても通り抜けられるように設計しているので、例えば本一冊持ってちょっと読みにいく、みたいな気軽な感じに捉えてほしいですね。」

通常、美術館というと少し敷居が高く感じられますもんね。

「特に今回の中之島美術館は地域としては浸水対策も考えなくてはならなくて、1・2階階部分は台地のように盛り上げて作っています。なので地域の皆さんに慣れてもらうことで防災にも寄与できますし、都市の中での美術館の役目に繋がっていくのではないかと思います。」

そこに住まう人々のことを考えて設計されているんですね。

「建築は土地から切り離せないので、その場所の地域と一緒につくることが大切だと考えています。」

”実際にものをみる”ことは人間にとって大切

ⒸTakeshi Asano KYOTOGPAPHIE 2021

最近ではデジタルアートのようにリアルな場所を介さないアートも登場していますが、そんな中でこれからの美術館と建築に求められるものは何だと考えていらっしゃいますか。

「人が”実際にものを見る”という体験に勝るものはないと思っています。その場所をきちんと提供することが美術館の大きな役目ではないでしょうか。」

ライフ イズ・ムービング

様々なジャンルで活躍されている遠藤さん。そんな遠藤さんにとってライフイズ〇〇の〇〇に入るものは何でしょうか?

「“ムービング”ですね。動き続けること、“キープムービング”とも言えるかもしれません。建築はそれが建つ土地から離れられないので、建築家は現場から現場へと移動し続けなければなりません。そういう意味では必要とされるところに移動し続けている人生になってしまったので(笑)、私自身は必要とされて動いているということが自分の人生だと思っています。」

求められる先々でその土地を見つめ、地域と共に作り上げていく建築家

訪れる土地によって異なる文化を汲み取り、地域の人々と共に空間を作り上げていく遠藤さん。そんな遠藤さんに伺った、日常で意識されているデザインやご自身の建築の特徴については「『素材と技術を活用した建築で現代を表現する』建築家・遠藤克彦が意識しているデザインや自身の建築の特徴について」からどうぞ。