松山将勝による崖地という特異な環境から生み出されたユニークな構造の住宅「5層のワンルーム」

福岡を拠点に活動する建築家・松山将勝。福岡県宗像市の閑静な場所に建つ「5層のワンルーム」は、4人家族のための住宅です。崖地という住宅づくりには不向きな立地を逆手に取った、家族の繋がりと個人の過ごしやすさを実現した住まいです。

未開発のまま取り残された崖地という立地

Via: https://www.matsuyama-a.co.jp/ | 撮影:石井紀久

かつてはのどかな田園風景だったこの場所も、近年住宅群が建ち並び、徐々に都市化の様相を見せていました。計画地の周囲も新旧の家屋が混在している中、この敷地は崖地という立地条件から未開発のまま取り残されていたのです。

建築計画では、道路から4mの高低差をもつこの崖地を、コストを抑えながらどう克服するかが最大の課題でした。その課題に対して土木的造成による開発行為ではなく、建築がいかに地形に沿って立地するかを考えた結果、道路から上層の平地までの高低差を、5層で設定された床レベルによって繋げていく断面構成となっています。

Via: https://www.matsuyama-a.co.jp/ | 撮影:石井紀久

したがって、建築の骨格や断面は敷地のレベルから導かれており、斜めの平面的様相は現存する風景を壊さずに自然な佇まいを目指しています。

それぞれに生活の機能を持った5層の床が特徴な内部空間

Via: https://www.matsuyama-a.co.jp/ | 撮影:石井紀久

内部は、お互いの気配を常に感じながら日常を過ごす空間と、適度な距離を置ける空間とを共存させるために、地形に沿って導き出された5層の床にそれぞれの生活の機能をもたせています。

Via: https://www.matsuyama-a.co.jp/ | 撮影:石井紀久

また、機能全体を家族が共有できる層状のワンルーム空間としながらも、フロア間を直接繋ぐ階段は設置していません。それは動線を一度切ることで、それぞれの関係に微妙な距離感が生まれ、家族という複合体と個人という単体が、つかず離れずの関係で共存することを意図した結果です。程よい距離感で、家族それぞれが思い思いの時間を過ごせる工夫なのです。

難しい立地条件を逆手に生まれた、崖地ならではの心地よい暮らしかた

一見不利な立地条件を受け入れながら、その場所でしか生み出せない建築や暮らしを目指した住まい。その建築の場所性を大切にする松山氏ならではの、立地が導き出した独特な形状と、それによって生まれた内部空間がユニークな住宅です。