近代建築の巨匠ル・コルビュジエの建築思想が詰め込まれた傑作住宅「サヴォア邸」

パリ郊外のポワシーに近代建築の巨匠ル・コルビュジエの傑作住宅「サヴォア邸」はある。ル・コルビュジエの代表作としてあまりにも有名なサヴォア邸は、シャルル=エドゥアール・ジャヌレ名義で画家としても活動していてピュリスムを提唱していた「白の時代」と言われる期間の中でも、彼の美術思考のある意味で到達点とも言える作品である。東京・上野にある国立西洋美術館などとともに世界遺産にも登録されている。

「近代建築の五原則」を体現する傑作住宅

ル・コルビュジエは、クック邸やヴァイセンホーフ・ジードルングの住宅など数々の住宅作品を設計していく中で建築理論を構築していった。サヴォア邸は、その集大成と言える作品で、ル・コルビュジエによって提唱された「近代建築の五原則」を体現する傑作住宅である。

“Les 5 points d’une architecture nouvelle” = 近代建築の五原則とは、

  1. ピロティ (les pilotis)
  2. 屋上庭園 (le toit-terrasse)
  3. 自由な平面 (le plan libre)
  4. 水平連続窓 (la fenêtre en bandeau)
  5. 自由なファサード (la façade libre)

である。

1.ピロティ (les pilotis)

ピロティとは、居住スペースなどの建築要素を2階以上に持ち上げ、地上部分を構造体である柱を残して外部空間とする建築形式である。ピロティがあることにより2階の居住スペースや屋上のヴォリュームの浮遊感を生み出している。ル・コルビュジエは、当時一般化し始めた自家用車を使うことを想定して、車の動線としてカーブを描く外形を持ったエントランスとガレージを設けた。

2.屋上庭園 (le toit-terrasse)

一般的な庭ではなく屋上庭園を設けることで、プライバシーが確保され外部から中が見えないようになっている。

3.自由な平面 (le plan libre)

ル・コルビュジエの提唱した水平スラブとそれを支える柱という最小限の要素で構成されたドミノシステムによって、平面を自由にプランニングできるようになっている。サヴォア邸では、部屋の大小や機能、或いは外部空間まで主構造を変えることなく構成されている。

4.水平連続窓 (la fenêtre en bandeau)

ドミノシステムによって構造に制限を受けることなく窓を設けることができるようになった。サヴォア邸は、ファサードにできる限り窓を開ける水平連続窓によって採光と眺望を手に入れている。

5.自由なファサード (la façade libre)

モダニズム以前の建築はファサード(正面)となる外観と裏側など、立面によってヒエラルキーが存在していた。サヴォア邸で実現した自由なファサードでは、ドミノシステムによって構造に左右されないファサードと建築のどの面でも機能的にもデザイン的にも自由に設計が可能となっている。水平連続窓もその一つのポイントであると言える。

建築を散策することで体験する「建築的プロムナード」

サヴォア邸には、階段の他に1階から屋上まで続くスロープが配置されている。これは、空間体験を各部屋単位でとらえるのではなく、建築の中の色々な場所をつなぎ連続させ、音楽や映画のような時間軸を加えたものとして捉える試みである。「建築的プロムナード」として知られるこの構成は、ル・コルビュジエが建築を散策路のように歩き回って体験するものと考えて、設計に反映し実現したものである。

確かにサヴォア邸では、ピロティ或いはサヴォア邸の外観に接したところからスロープを昇って2階、屋上と移動することで劇的に風景が変化する。もちろんそれはスロープから外れたあらゆる場所であってもそうだ。

サロンからテラスを眺めたり、またその逆だったりと建築のどこにいても異なる風景が広がっている。自由な平面を実現していることもあり、スロープによる縦方向の移動だけでなく、水平方向の移動によっても変化に跳んだ空間になっている。

サヴォア邸は、個別の空間で完結することなく、スロープからは必ずサロンと屋上庭園など2つ以上の場所を捉えることができ、部屋単位で区切られていないことがわかる。

水平連続窓は水平方向の移動に相性が良く、それがあることによってそこから見渡す外部の風景も変化する。

また、サヴォア邸では廊下などの突き当たりになる部分や少し暗くなってしまう場所で壁の色を変えたり、トップライトを設けたりなどの工夫が施されていて奥になってしまい、移動を妨げるようなことがないように設計されている。スロープでの大きな回遊性の他に小さな空間の関係性を細かく設定し、小さな回遊性を確保している。

ピュリスム的な造形と色彩

ル・コルビュジエは、それまでのキュビスムの禁欲的な色使いに対して、雑誌「レスプリ・ヌーヴォー」(新しい精神の意)などで「ピュリスム」の活動を始める。サヴォア邸は、パステルカラーを用いたピュリスム的な色使いの建築である。

もちろんサヴォア邸以前の建築作品でもピュリスム的な要素は感じられる。だが、「自由な平面」や「自由なファサード」などある意味で建築がキャンバスとしての完成度を高まったことで、色使いだけでなく屋上庭園の自由曲面や浴室、間仕切り壁などの抽象的で絵画的な造形が際立つのである。

 

近代建築の五原則や建築的プロムナードを実現した「サヴォア邸」は、ル・コルビュジエの建築思想が詰め込まれた傑作住宅である。確かに自家用車のためのピロティや屋上庭園などその時代のライフスタイルに合わせた住宅ではあるが、完成から80年、モダニズムの時代から時代は変わってもなお新しい名作建築である。

Villa Savoye – サヴォア邸

開館時間:10:00~18:00
休館日:月曜日
URL : http://www.villa-savoye.fr
住所:82 Rue de Villiers, 78300 Poissy, France