【前編】ワンルームのようで、居場所が点在する家「アートと共に暮らす」。立体構成で暮らしをデザイン

住まいの印象は、空間の広さや間取りだけで決まるものではありません。素材の質感や光の入り方、視線の抜けといった要素が重なり合うことで、空間の心地よさは大きく変わります。本住宅では、焼杉の外壁や連続する木梁、緻密に計画された開口部、そして造作家具によって、静かで奥行きのある空間がつくり出されています。

焼杉と木がつくる、重心のある空間

外観に採用された焼杉は、黒く引き締まった表情によって建築全体に強い存在感を与えています。

周囲の風景に溶け込みながらも、確かな輪郭を持つ外観は、住まいのアイデンティティを明確に示しています。

一方、内部に足を踏み入れると、空間は一転して温かみのある木質空間へと切り替わります。床や造作家具に用いられた濃色の木材が、空間に落ち着きと深みをもたらしています。そこに白い壁面が組み合わさることで、重くなりすぎず、適度な軽やかさも保たれています。

さらに、中央のコア部分に用いられたグレーの左官仕上げが、空間にもうひとつの層を与えています。このグレーのボリュームが、空間を緩やかに分節しながら、全体のバランスを整える役割を担っています。素材のコントラストによって、視覚的にも機能的にも整理された空間が実現されています。

構造をそのまま魅せる、連続する木梁の天井

この住宅を特徴づけるもうひとつの要素が、連続する木梁による天井デザインです。一定のピッチで並ぶ梁は、空間にリズムを与えると同時に、視線を奥へと導く役割を果たしています。

梁を濃い色で仕上げることで、水平方向の広がりが強調され、吹抜けを含めた空間全体に一体感が生まれています。また、構造体をそのまま意匠として見せることで、建築の力強さや素材の質感がダイレクトに伝わります。

天井という要素は、意識されにくい部分でありながら、空間の印象を大きく左右します。その天井を積極的にデザインすることで、単なる居住空間を超えた“場の質”を高めています。

視線と光をコントロールする開口計画

開口部の計画も非常に緻密です。大きな窓によって外部の風景を取り込みながらも、単に開放するのではなく、視線の高さや方向をコントロールすることで、空間の質を高めています。

上階のリビングでは、大開口から遠景が広がり、空や街並みが日常の風景として取り込まれています。一方で、足元の視線は適度に遮られており、プライバシーが確保されています。このバランスによって、開放感と安心感が両立されています。

また、ハイサイドライトのような高い位置の窓からは、柔らかな光が差し込み、時間の移ろいを感じさせます。直接的な光だけでなく、反射や陰影を含めた光の扱いが、空間に豊かな表情を与えています。

建築に溶け込む、造作収納とミニマルな設え

収納や家具は、空間に“置かれる”のではなく、“組み込まれる”ように設計されています。壁面と一体化した収納や、素材を揃えた造作家具によって、視覚的なノイズが抑えられ、空間の純度が保たれています。

ウォークインクローゼットやキッチンも、既製品の集合ではなく、空間に合わせてデザインされたものです。特にキッチンは、低めの重心と水平ラインを意識した設計により、空間全体のバランスを整える存在となっています。

このようなミニマルな設えがあるからこそ、アートや光、素材の質感といった要素が際立ち、住まいの魅力がより引き出されています。

立体構成で暮らしをデザイン

ワンルームのように連続する空間でありながら、スキップフロアや素材の切り替え、視線のコントロールによって、多様な居場所が点在する住まいが実現されています。建築が主張しすぎることなく、暮らしやアートを引き立てる“余白”として機能している点が、この住宅の大きな魅力です。

空間を分けるのではなく、つなぎながら調整する。その繊細な設計によって生まれる心地よさは、これからの住まいのあり方を示唆しているといえるでしょう。

後編:【後編】「アートと共に暮らす」スキップフロアでつくる“余白のある暮らし”。立体的に広がる開放的な住宅(3月27日 公開予定)