2026年のプリツカー賞は、チリの建築家「スミルハン・ラディック」が受賞!
「建築界のノーベル賞」とも言われるプリツカー賞は、米国のハイアットホテルチェーンを所有するプリツカー家の名前を冠した国際的な建築賞です。日本からも、丹下健三、槙文彦、安藤忠雄、磯崎新など世界的に名を馳せる建築家たちが受賞してきました。2025年の同賞では、中国人建築家の劉家琨(リュウ・ジャークン)が受賞しています。
2026年度の受賞者は、チリの建築家・スミルハン・ラディック(Smiljan Radic Clarke)です。南米チリのサンティアゴを拠点に活動し続け、独自の建築哲学で世界的な注目を集めてきた建築家が、ついに最高峰の栄誉を手にしました。
「脆さ」を建築に宿す建築家・スミルハン・ラディック

スミルハン・ラディックは、1965年にチリ・サンティアゴで生まれました。幼少期の多くを絵を描いて過ごし、14歳のとき、美術の教師から課題として建物を設計するよう求められたことが、建築との最初の出会いでした。その後チリ・カトリック大学で建築を学び、さらにヴェネツィア建築大学へと学びを深めます。1995年には、チリ・サンティアゴに自身の名を冠した設計事務所を設立しました。
ラディックの建築は、石や錆びた金属、コンクリートといった素材の生々しさを活かしながら、詩や神話を想起させるような空間を生み出すのが特徴です。「消えそうでいて、しかし確かにそこにある」という独特のたたずまいは、多くの建築関係者を魅了してきました。現在もサンティアゴを拠点に活動を続けており、アルバニア、スペイン、スイス、イギリスでの新しいプロジェクトも進んでいます。
「脆さ」と「不確実性」への向き合い方が評価のポイントに
今回の受賞にあたり、審査員は次のように述べています。
「不確実性、素材実験、文化的記憶の交差点に位置する一連の作品を通して、スミルハン・ラディックは根拠のない確実性の主張よりもむしろ脆さを選びます。彼の建築は一時的で不安定、あるいは意図的に未完成であるかのように見え、ほとんど消え去りそうな状態にあります。しかしそれでもなお、構造化され、楽観的で、静かな喜びをもたらすシェルターを提供し、脆弱性を生きられた経験の本質的な条件として受け入れています」
また、審査員長であり2016年プリツカー賞受賞者のアレハンドロ・アラヴェナは次のようにコメントしています。
「彼はあらゆる作品において、根本的な独創性によって応答し、見えにくいものを明らかなものにします。彼は建築の最も還元できない基本的基盤へと立ち返りながら、同時にまだ触れられていない限界を探究しています。世界の端とも言える場所で、厳しい状況の中から形成され、わずかな協働者による実践によって活動しながら、彼は私たちを建築環境と人間の条件の最も内奥へと導くことができます」
スミルハン・ラディックの代表作
ラディックの作品は、チリという土地の記憶と詩的な空間感覚が独自の調和を生み出しています。ここでは、代表的な建築作品をご紹介します。
Carbonero House(カルボネロ・ハウス)1998年/チリ
ラディックの初期を代表する住宅作品です。チリの自然環境と対話するように設計された重厚な石の壁と、光と影の繊細な操作が特徴で、この頃からラディックの「素材の重みと詩的な空間」というテーマが色濃く表れています。チリの厳しい自然の中に静かに佇む建築の姿が印象的な作品です。
Restaurant Mestizo(レストラン・メスティーソ)2006年/サンティアゴ、チリ

サンティアゴの公園内に建てられたレストランで、鉄とガラスを用いたシンプルな構成の中に、周囲の緑と光を巧みに取り込む繊細な空間設計が特徴です。素材の率直さと、都市の中に静けさをもたらす設計姿勢が評価され、国際的な建築メディアでも広く紹介されました。
House for the Poem of the Right Angle(直角の詩の家)2013年/ビルチェス、チリ
ル・コルビュジエの詩集「直角の詩」からタイトルを取った住宅建築です。鬱蒼とした森の中に半透明のファサードと重厚な石の基壇を組み合わせた、ラディックの建築哲学が最も体現された作品とも言われています。プリツカー賞の審査においても高く評価された代表作のひとつです。
Serpentine Gallery Pavilion(サーペンタイン・ギャラリー・パヴィリオン)2014年/ロンドン、イギリス

ロンドンのサーペンタイン・ギャラリーが毎年世界的な建築家に依頼する夏季パヴィリオンの設計者に選ばれ、半透明のグラスファイバーの殻が大きな岩の上に浮かぶような構造を実現しました。「軽さと重さ」「永続と一時性」という対比を同時に体験させるその空間は世界的に大きな反響を呼び、ラディックの名が国際的に広く知られるきっかけとなりました。
2026年のプリツカー賞は、チリの建築家・スミルハン・ラディックが受賞
「不完全さ」と「脆さ」を弱さではなく建築の本質として受け入れ、南米チリという地から世界へ向けて静かに発信し続けてきたスミルハン・ラディック。今回のプリツカー賞受賞は、その一貫した姿勢への世界最高峰の評価と言えるでしょう。
今後はアルバニア、スペイン、スイス、イギリスでの新プロジェクトも予定されており、プリツカー賞受賞を経てさらなる活躍が期待されます。