建築家・酒井一徳の自邸「奄美大島の家」は、奄美の風土を都市の暮らしに編み込む家
奄美大島の中心街に建つ「奄美大島の家」。設計を手がけたのは、土地の気候・文化・風土を丁寧に読み解き、地域に根ざした建築を実践する建築家・酒井一徳です。「奄美大島の家」は酒井の自邸であり、太陽光発電と蓄電池を活用したオフグリッド住宅。環境への負荷に配慮しながら、水・ガス・ガソリン代を月々約9,000円に抑える、持続可能な暮らしの実験場でもあります。
オフグリッドという選択、そのはじまり

設計当初、都市部に建つ自邸を送電網から切り離す決断は想定されていませんでした。転機となったのは、3年前に購入した山での構想です。災害や超高齢化が進む地域で、自立したマイクロインフラを実現できないか。その検証の場として、自邸を実験的にオフグリッド化する決断を、地鎮祭のわずか10日前に下しました。

日照時間が東北地方と大きく変わらない奄美大島において、太陽光発電の効率や運用を住宅街で検証し、その知見を山の計画へと還元する。その循環的な思考が、この家の根幹にあります。
分棟形式の個室が生む、曖昧でおおらかな空間

南国特有の高温多湿な気候のもと、空調や送電網に過度に頼らず、家族4人が快適に暮らすために採用されたのが、奄美にかつて見られた分棟形式家屋の再解釈です。

水回り、寝室、倉庫など異なる機能をもつ4つのヴォリュームを幾何学的に配置し、その間に生まれる空間を家族の共有領域としました。

縁側や庭へと連なるその構成は、内と外、家族と地域、自然と暮らしを緩やかにつなぎます。
気候に応答する屋根と構造

屋根には、集落に見られる波板トタンや入母屋の意匠を継承しつつ、断熱・通気・採光を重ねた新たな形式を採用。

高倉の架構を参照することで、四方から風が抜け、深い軒が強烈な日射や突発的なスコールをやわらかく受け止めます。

自然の力を遮断するのではなく、受け入れ、調和する。その姿勢が、建築全体に貫かれています。
暮らしの中で循環を生む仕組み

サウナの熱源には薪を使用し、その薪は建築現場で発生する廃材を再利用。敷地内にはコンポストを設置し、生ごみを堆肥化して家庭菜園へと循環させています。

そこで育った野菜が再び食卓に並ぶ、小さな循環型の暮らし。

環境配慮を特別な行為とせず、日常の延長線上に組み込んでいる点も、この家の大きな特徴です。
「結いの島」の記憶を住まいに編み直す

奄美大島は「結いの島」と呼ばれるほど、地域のつながりが色濃く残る土地。子どもの成長儀礼には親戚や近隣住民が集い、80人規模の宴が夜更けまで続くこともあります。

「奄美大島の家」は、そうした文化を住まいの中に再び内包する試みでもあります。人が自然と集い、共に時間を過ごすおおらかな場を設えることで、住まいを私的領域に閉じず、地域文化の継承と再生を担う存在として再定義しています。
住むことの本質を問い直す、自立循環型住宅
「奄美大島の家」は、南の島特有の気候と文化に寄り添いながら、現代における持続可能な暮らしと「住むこと」のあり方そのものを静かに問いかける住宅です。自然と切り離されることなく、地域とともに生きる。その思想を、設計者自身の暮らしを通して実践するこの家は、これからの住まいの一つの指標となる存在といえるでしょう。