自邸を住み替え続ける建築家 ― 伯耆原洋太が語る「住まいのアップデート」論

大手ゼネコンの設計部を経て独立し、自ら設計事務所「HAMS and, Studio 一級建築士事務所」を運営する建築家・伯耆原洋太。伯耆原さんは「自分の家を設計し、住み、売却する」というサイクルを繰り返すユニークな手法で、“建築と暮らし”の関係を自身で問い直し続けてきました。今回は、伯耆原さんが考える「居心地の良さ」、「暮らしの風通し」、そして“住まいのアップデート”という発想の源泉について伺いました。

建築家・伯耆原洋太

伯耆原洋太
photo : Akira Nakamura

1990年東京生まれ。2013年早稲田大学建築学科卒業、2015年同大学院修了。一級建築士。大手ゼネコンの設計部にてキャリアをスタートさせ、その後独立し「HAMS and, Studio 一級建築士事務所」を創設しました。以降、住宅や集合住宅、店舗、ギャラリーなど幅広く手がける傍ら、現在までに自身の自宅を3度設計・居住・売却するという試みを続けています。最新の自邸には、家族との時間やライフステージの変化を反映させ、“住まい”と“生”を重ね合わせる設計哲学を体現しています。

「気持ちよさを増やす」ことをデザインの核に

photo : Akira Nakamura

まずは日常生活の中で大切にされているデザインについて伺いました。

「自分が感動できて、自分がリアルに使えるか。自分が“これなら住んでいて気持ちいいな”って思える瞬間を増やすことが大事だと考えています」

自身の体が日々過ごす空間だからこそ、「感覚」「リアリティ」「心地よさ」をもっとも大切に。それが、多くの人にも共鳴するのだと語ります。

 “自宅”という実験場 ― 3度の住み替えが生んだ設計観

photo : Akira Nakamura

建築家として、お好きな空間はどういったものでしょうか。

「やはり自分の家ですね。自宅は75㎡の屋内と、40㎡のバルコニーから構成されています。そのバルコニーから富士山まで見えるのですが、バルコニーに面した屋内側にデイベッドを作って、屋外側には縁側空間を作って、そこでコーヒーを飲んだりしながら富士山を眺めるような、何にもしない時間を過ごすのが好きで気に入っています」

photo : Akira Nakamura

伯耆原さんは以前のご自宅も自ら設計されて、そこに住んで売却されてを繰り返されていますが、そうすることでよりよくなる感覚はありますか。

「そうですね。少しずつ解像度は上がっていくような感覚もありますし、やはり一つ目の住まいは30歳ごろに、自身が会社に勤めている時に手がけたものなので、建築家として尖ったものじゃないですけど、少しメッセージがあるようなものを作りたいっという気持ちが強かったんです。そこで寝室とリビングをカーテンで二枚で仕切るような、結構無茶なことをやっていました。そこから五年経って割と大人にもなりまして、やっぱり住みやすさとデザインと機能性のバランスが取れるようになって、気持ちがいい、心地がいい空間を作れるようになってきた感覚はあります」

建築家としての目線で、不動産の価値を再定義する

photo : Akira Nakamura

会社員として勤めていらっしゃる時から自邸を自ら設計されて、住んで、それを売却ということを繰り返されていますが、どうしたきっかけがあったのでしょうか。

「もともと30歳前に家を購入するときに、ローンを組んで購入したのですが、そこに35年間住まなきゃいけないという感覚はなかったんです。自分たちに子どもが生まれたりとか、少しライフステージが変わったら売却すればいいのかなって思っていたんです。最初から計画的に考えていたわけではないのですが、結果として設計して住んで、売却してのサイクルになっています」

家を建てることは人生の一大事かと思うのですが、伯耆原さんはすぐに決断できるタイプでしょうか。

「そうですね。もちろん、家の購入についてはとことん考えましたし、内見にもたくさん足を運びました。とはいえ、気に入った物件で長い期間住んでいても、一生は住まないだろうな、といったスタンスでした。ライフスタイルや思考の変化に合わせて住み替えを実行しているような形になります」

建築に知見がない方の作品への反応を知りたかった

実際ご自宅を売却するにあたっては、内覧会を開かれたということですが、見に来られた方々の反応っていかがでしたでしょうか。

「当時、自分でもすごく面白いなと感じたのですが、僕が内覧会を開いて参加される方は、一般の方というよりかは建築関連のお仕事をされていたり、内装業をされていたりと、建築を専門にされてる方々が大半でした。

なので、そうではなく、もっと建築に知見がない方が、自分の作品に対して、“おしゃれ”と思ってもらえるのか、“住みたい”と思ってもらえるのか、“いや、これは厳しいよね”と思われるのか、その反応が知りたくて、仲介会社さんを通してオフィシャルな場で売却活動を始めました」

変化に強く、時間と共に育つ住まい

設計者としての視点と、不動産の可能性をつなぎ直す――伯耆原さんの「自邸サイクル」は、住まいに対する常識を問い直す挑戦です。デザインと使いやすさ、個性と普遍性、居心地と自由。対立しやすい価値を、自らの暮らしで折り合わせながら、“変化に耐え、使い手とともに育つ住まい”をつくり続けています。あなたの「暮らし」も、彼のようにアップデートする余地を、きっと持っているはずです。

後編:ライフステージとともに変わる「住まい」 ― 伯耆原洋太が構想する次なるステージ(2月24日 公開予定)