琵琶湖とともに暮らしを描く建築家 「atelier umi」代表の藤田時彦さん

藤田時彦さんは、滋賀県高島市を拠点に活動する建築家です。琵琶湖のほとりという自然に近い環境に身を置きながら、『atelier umi』として、住宅やリノベーションを中心に、暮らしに寄り添った設計を手がけています。

藤田さんの建築は、建物単体のデザインだけでなく、周囲の風景や光、時間の流れまでを含めて考えられているのが特徴です。一棟一棟と丁寧に向き合い、その場所でどのような暮らしが営まれていくのかを想像しながら、空間をかたちにしています。

今回は、藤田時彦さんの暮らしの中で大切にされているデザインやお好きな空間などさまざまな角度からお話を伺いました。

atelier umi 代表の藤田時彦さん

滋賀県高島市を拠点に活動する一級建築士。京都建築大学校建築科・専科を修了後、奈良の設計事務所にて実務経験を積む。

2014年に一級建築士事務所『TODs.』を設立。2021年より『atelier umi』に改称し、住宅・リノベーションを中心に設計活動を行っている。

藤田さんが暮らしの中で大切にされているデザイン

Photo:Shotaro Kaide

「施設さんとの対話を大切にしています。話していく中で、形ができていくみたいなものになり、住まい手に合わせて作っていく家になっている感じがあります。

細かい部分のディティールには、自分のデザインをしたりする部分がありますが、まずは住まい手自身のらしさを大事にしたいと思っています。」

お好きな場所・空間について

Photo:Shotaro Kaide

「落ち着く場所が好きです。特に自宅が好きで、琵琶湖を見ながら食事したりお酒飲んだりとそのような時間が好きです。 」

事務所名が『atelier umi』なので、海がお好きであると思いきや、湖だったのですね。

「そうですね。昔の滋賀県で、琵琶湖のことを海と呼んでいたそうです。そのようなことから『atelier umi』という名前にしています。」

地元、滋賀県高島市で設計活動をされている理由

Photo:Shotaro Kaide

藤田さんは出身地である、滋賀県高島市を拠点に活動されています。京都や大阪ではなく、地元で設計活動をされている理由について伺いました。

「29歳の当時は、さまざまな事情と交通の利便性とかを考慮した末に、 滋賀県の大津市で独立したのですが、しばらく過ごしていく中で、設計の仕事はどこにいてもできると考え始めたことがきっかけです。

また、一度地元を離れたことで、高島市の良さを客観的に見られるようになり、改めて魅力のある場所だと感じるようになったのも理由です。この場所で設計を続けることは、自分自身の仕事であると同時に、町にとっても意味のあることだと思っています。

良い建築が増えることで『自分の住んでいる町はかっこいい』『いい場所だ』と感じられる人が増え、結果的に町の魅力や価値を高めていける、そんな思いを持って、高島市を拠点に活動しています。」

藤田さんの建築を形づくる背景

Photo:Shotaro Kaide

藤田さんの作品は、日本的で環境と溶け込むような懐かしいけれどもモダンな部分や独特な雰囲気がありますが、これはバックグラウンドからきているのでしょうか?

「僕は、本当に普通の家庭で育ちました。 実家もいわゆる近郊住宅地のハウスメーカーの家です。

大学も行かず、就職もアトリエ系事務所には勤めてないので、あんまりバックグラウンドと言われるとあんまりないです。ただ、このような過程が、何にも染まらずに逆に良かったのかなと思うようにしています。」

藤田さんは、本当にセンスがあるのですね。

「そういうわけではないと思います。 日本の環境として、やはり四季がある国なので、 自然の風景や移ろいと深く結びついているのかなと感じています。

空間の中に外部環境をどのように取り込むか、外をどう見るか、どう見せるかなどそのようなことをよく考えています。」

住宅兼アトリエで選んだ『既存を活かす』リノベーション

Photo:Shotaro Kaide

琵琶湖のほとりにある物件をリノベーションした住宅兼アトリエですが、とても和やかな雰囲気をまとっています。どのように、考えて設計されたのでしょうか。

「この物件は、壁の仕上げや床材を剥がしていくと、結構ボロボロの状態でした。

壊して新築したほうが自由に考えることができ、工事もやりやすかったのですが、壊さずに今あるものをできるだけ使い、 新築では表現できない部分を残しながら、新しい部分と調和させたほうが面白いかなと思いました。

そのほうが意味あると思い、リノベーションを選びました。リノベーションをすることで、町の風景や過去とのつながりを作れるなと思い、まずリノベーション前提として設計をしていきました。」

Photo:Shotaro Kaide

一番こだわった箇所はありますか?

「既存の建物の延べ床が28坪と、そこまで広くはないスペースですが、ここに住む空間や事務所でイベントをしたいなと思っていたので、イベントスペースにこだわりました。

Photo:Shotaro Kaide

イベントスペースをどのように、割り当てていくかを考えた結果、 空間をシェアすることに至りました。1階には普段住居スペースであるフリースペース、2階にダイニングとキッチンで、ゆるく区切った事務所のスペースがあります。

ダイニングとキッチンには大きいテーブルを配置し、そこでは食事はもちろん、子供は宿題をしたり、クライアントとの打ち合わせをしたり、生活と仕事が混じっている感じです。

中心の部分はリビングとはしてなくて、なんかイベントできるようなフリースペースとして、 余白の床にしています。」

施主さんにとって、建築家の方がどのような作品を作っているのかが分かる、かつその空間で話し合えるのは、とてもいいでしょうね。

「そうですね。来ていただくことが結構多くなり、先日は余白の部分に、 大テーブルに置き、友人を呼んで、琵琶湖が見えるレストランみたいな感じにしました。あまり作りこまず、余白を作っていることで、いろんな使い方ができるので、このような余白も大事だと思います。

また、このようなところに施主さんに来てもらい、実際に見てもらうのも、いいことかなと思います。」

藤田さんが目指す、土地の空気に寄り添う建築

Photo:Shotaro Kaide

藤田さんの建築は、どこか懐かしいような雰囲気があります。また、職人さんとの関係性も非常に重視されていますが、その理由について教えてください。

「懐かしい感じは、自分でもどう操作しているのかあんまり分かりませんが、派手な建築を建てたいとは思っていませんでした。場所や土地の空気みたいなものに合った建築にしたいと考えています。

風景に馴染むように建てることで、以前からあったような懐かしい雰囲気になっているのかもしれません。」

ライフスタイルに寄り添う空間への想い

藤田さんは、レストランや美容室などのライフスタイルと密接に関わるような空間も手がけています。こちらも藤田さんらしい作品になっていますが、やはりご自身でもそのような場所はお好きですか?

「好きですね。特に出張先で気になる店にフラッと行ったりします。『なんでこのお店が心地いいのかな』と探っています。 あとは、自分で設計させてもらったお店が好きなので、よく行きますね。

そこで作らせてもらった空間で楽しく過ごしている人たちとかいると嬉しく、関わってよかったなって思います。」

LIFE IS「心地よく暮らす」

インタビューの最後、藤田さんに「Life is ◯◯」空欄に当てはまる言葉を尋ねると、「Life is 心地よく暮らす」と答えてくれました。

いい空間を作るには、自分自身の心地よい暮らしから作っていきたいなと思っています。

琵琶湖とともに暮らしを描く建築家 「atelier umi」の藤田時彦さん

住まい手との対話を大切にし、土地の風景や空気感、時間の流れまでを丁寧にすくい取りながらかたちづくられる空間は、派手さはなくとも、暮らしに深くなじむものばかりです。

既存を活かすリノベーションや、余白を残した空間づくりには、建築を通して人や地域とつながり続けたいという藤田さんの姿勢が表れています。

今後、藤田さんがどのような場所で、どのような暮らしを描いていくのか、その建築と活動に、期待が高まります。