カウナスの至宝「国立チュルリョーニス美術館」 3人の建築家が描いた、リトアニア・モダニズムの結晶

リトアニア第二の都市カウナス。ネムナス川とネリス川が合流するこの古都は、20世紀初頭、束の間の輝きを放ちました。1919年から1940年まで臨時首都として機能したこの街に、リトアニア建築の至宝が誕生します。それが、国立チュルリョーニス美術館です。王冠のような象徴的な正面玄関、幾何学的な純白のファサード、そして機能美を極めた構成。この建築は、新生国家の希望と誇りを体現し、今なお訪れる者の心を捉えて離しません。

戦間期リトアニアの希望を象徴する建築プロジェクト

第一次世界大戦後、独立を果たしたリトアニアは、国家としてのアイデンティティ確立を急いでいました。1919年、首都機能がヴィリニュスからカウナスへと移されると、この街は急速に近代化の波に飲まれていきます。新しい国家には、新しい文化の殿堂が必要でした。

1930年、野心的なプロジェクトが始動します。ヴィータウタス大公戦争博物館と国立チュルリョーニス美術館という、二つの重要な国家機関を統合した建物を建設するという構想です。これは単なる美術館建設ではなく、リトアニアの文化的自立を世界に示す象徴的事業でした。

資金調達は国民的運動となりました。政府予算だけでなく、国内外のリトアニア人コミュニティから寄付が集められ、6年の歳月をかけてプロジェクトは実現へと向かいます。1936年2月16日、リトアニア独立記念日に合わせて開館したこの建物は、「国民文化の館」と呼ばれ、新生国家の誇りとなりました。

開館当日、カウナスの街は祝祭に包まれました。美術館は単なる文化施設ではなく、リトアニア人のアイデンティティそのものだったのです。しかし、その輝かしい時代は長くは続きませんでした。1940年、ソビエト連邦による占領が始まり、リトアニアは再び独立を失います。だからこそ、この建築が体現する戦間期の希望は、今なお特別な意味を持ち続けているのです。

 3人の建築家による初期機能主義の傑作

この建築を生み出したのは、3人の卓越した建築家たちでした。ロシアから亡命したヴラディミラス・ドゥベネツキス、ラトビア出身のカロリス・レイソナス、そしてリトアニアのカジミラス・クリシチュカイティス。彼らは1929年と1930年の2度にわたる設計コンペティションを勝ち抜き、この重要なプロジェクトを任されることになりました。

3人が選んだのは、初期機能主義という建築言語でした。装飾を排し、機能から形態を導き出す。バウハウスやル・コルビュジエに代表される当時最先端の建築思想を、リトアニアの地に根付かせようとしたのです。1920年代から30年代にかけて、ヨーロッパでは「形態は機能に従う」という理念が建築界を席巻していました。この思想は、建物の用途と構造が外観を決定すべきだという考え方です。装飾は不要であり、素材の誠実な表現と論理的な設計こそが美を生み出すという信念が、当時の建築家たちを突き動かしていました。

ファサードデザインの純粋性

建物の最も印象的な要素は、正面玄関部分です。垂直に伸びる白い壁面が、まるで王冠のように空に向かって開いています。シンメトリーな構成でありながら、この垂直性が建物に威厳と精神性を与えています。装飾はほとんどありませんが、幾何学的な線と面の構成だけで、強い存在感を放っています。

ファサードの素材は、当時の機能主義建築の典型である鉄筋コンクリートです。コンクリートは1920年代から30年代にかけて、新しい建築の可能性を開く素材として注目されていました。それまでの石造やレンガ造の建築とは異なり、コンクリートは自由な形態を可能にし、大きなスパンを飛ばすことができました。国立チュルリョーニス美術館では、このコンクリートを白い漆喰で仕上げることで、純粋で禁欲的な美しさを実現しています。

ファサードの構成は、水平線と垂直線の厳密なバランスによって成り立っています。窓は規則的に配置され、建物全体にリズムを与えています。しかし、正面玄関部分だけは例外です。ここでは垂直性が強調され、空に向かって伸びる力強い動きが表現されています。この垂直の要素は、単なるデザイン上の選択ではなく、国家の威厳と精神的な高みへの志向を象徴しているのです。

南側には、戦争博物館としての性格を反映した列柱廊が配置されています。そこには砲台が据えられ、リトアニアの独立闘争の記憶を刻んでいます。さらに興味深いのは、ビルジャイのアストラヴァス邸から運ばれた2体のライオン像です。これらは18世紀の貴族の館にあったもので、歴史の連続性を象徴しています。新しい建築様式と伝統的要素の共存。これこそが、リトアニアモダニズムの本質でした。

インテリアデザインと空間構成

内部空間も徹底して機能的に設計されています。機能主義建築の核心は、美術館という建築タイプが要求する機能を最も効率的に、そして美しく実現することでした。展示室は自然光を巧みに取り入れ、作品が最も美しく見えるよう計算されています。

展示室の天井高は、人間の視線と作品のスケールを考慮して設定されています。壁面は白く塗られ、作品が際立つニュートラルな背景を提供しています。床材は歩行時の音を吸収する素材が選ばれ、静謐な鑑賞環境を作り出しています。これらすべての要素が、美術館という空間の本質的な目的——芸術作品との対話——を最大化するために設計されているのです。

自然光の取り入れ方も巧妙です。大きな窓からの直射日光は作品を傷めるため、間接光を取り入れる工夫がなされています。北側の窓から入る柔らかな光は、一日を通して安定した照明環境を提供します。これは、当時の美術館建築における最新の知見を取り入れたものでした。

動線は明快で、訪問者は迷うことなく空間を体験できます。エントランスから展示室へ、展示室から次の展示室へと、自然な流れで移動できるよう設計されています。階段とホールの配置も計算されており、建物全体が一つの有機的なシステムとして機能しています。これは単なる美学ではなく、美術館という建築タイプに対する深い理解から生まれた設計でした。

インテリアには、機能主義の理念が徹底されています。装飾的な要素は最小限に抑えられ、構造と機能が直接的に表現されています。柱、梁、壁、床、天井。それぞれの要素が必要な機能を果たし、同時に空間全体の美しさに貢献しています。これこそが「形態は機能に従う」という理念の実践でした。

増築と改修で広がり続ける文化の器

1969年には増築が行われ、美術館の機能がさらに拡充されました。この増築によって、成長し続けるコレクションに対応する展示空間が確保されました。戦間期に建設されたオリジナルの初期機能主義様式を尊重しながら、新たな空間が加えられたのです。

さらに2003年には大規模な改修が実施され、現代的な展示環境が整えられました。チュルリョーニスの絵画とグラフィック作品は、この近代的に改修された空間で展示されるようになり、作品の保存と鑑賞の両面で最適な環境が実現しました。ミュージックホールも整備され、画家であり作曲家でもあったチュルリョーニスの音楽を聴くことができるようになりました。

これらの増築と改修は、単なる拡張ではありません。時代とともに変化する美術館の役割に応えながら、1936年に完成したオリジナル建築の本質的な美しさと精神性を損なうことなく、建物を現代に適応させてきた慎重なプロセスでした。建築の保存と活用という、相反しがちな二つの要請を見事に両立させた好例といえるでしょう。

ユネスコ世界遺産に認定されたカウナスモダニズムの核心

2023年9月、カウナスのモダニズム建築群はユネスコ世界遺産に登録されました。わずか20年という短期間に形成されたこの都市景観は、20世紀建築史において特異な位置を占めています。そして国立チュルリョーニス美術館は、その中核をなす建築として認識されています。

世界遺産としての評価のポイントは、多様なモダニズム様式の融合です。バウハウスの合理主義、アールデコの装飾性、そしてリトアニアの民族的要素が、この街では見事に共存しています。国立チュルリョーニス美術館は、その最も洗練された事例として、初期機能主義の純粋性とリトアニアの歴史的文脈を結びつけることに成功しました。

カウナスのモダニズムが特別なのは、それが政治的・文化的独立の表現だったからです。ヨーロッパの中心から離れた小国が、最先端の建築思想を取り入れ、独自の解釈を加えて都市を創造しました。その背景には、短期間で国家の威信を示さなければならないという切迫した状況がありました。

美術館が収蔵するミカロユス・コンスタンティナス・チュルリョーニスの作品も、この文脈で理解されるべきでしょう。画家であり作曲家でもあったチュルリョーニスは、リトアニア芸術の父と呼ばれる存在です。彼の幻想的で象徴主義的な作品は、民族の精神性を視覚化したものとして、リトアニア人にとって特別な意味を持ちます。建築と収蔵作品が共鳴し、より大きな物語を紡ぎ出しているのです。

カウナスの至宝「国立チュルリョーニス美術館」

現在、美術館はリトアニア最大級の美術コレクションを誇り、年間を通じて多彩な展覧会が開催されています。35万点以上の収蔵品は、古代文明から21世紀までの幅広い時代をカバーしており、リトアニア民俗芸術の貴重なコレクションも含まれています。子どもから大人まで楽しめる教育プログラム、コンサート、講演会、学術会議など、多様な文化活動の場としても機能しています。

ヴィエニーベス広場に面して建つこの美術館を訪れると、建築が単なる器ではないことを実感します。それは時代の証人であり、希望の記録であり、文化的アイデンティティの結晶です。3人の建築家が描いた幾何学的な線は、今も変わらず、カウナスの空に向かって伸びています。そして増築と改修を重ねながら、この建物は生きた文化施設として、新たな世代に芸術と歴史を伝え続けているのです。

国立チュルニョーニス美術館

開館時間:10:00~18:00(水・木曜:11:00~19:00)
休館日:月曜日
URL:http://www.ciurlionis.lt/
住所:V. Putvinskio g. 55, Kaunas, 44248 Kauno m. sav., リトアニア