MIDWが手がけた都市の地形を取り込む段々の家。光と奥行きを生む「世田谷のスタジオハウス」
京都を拠点に活動する建築家・服部大祐(元Schenk Hattori共同主宰)、服部さおりが共同主宰する建築設計事務所MIDW(メドウ) が手がけた「世田谷のスタジオハウス」は、都心部の五差路角地に建つ、アトリエ・スタジオ兼住宅です。約50㎡という限られた敷地に、撮影や制作を行うスタジオ機能と居住空間を重ねながら、周囲の地形や都市スケールを内部空間に取り込むように設計されています。緩やかな下り坂に面した地勢を生かして段々状の断面を持つ外観が生まれ、内部にも高低差が連続しています。この住まいは、構造と意匠が一体となって立ち上がることで、都心における「小さな地形建築」を体現しています。
坂道のリズムを映す段々状のヴォリューム

大通りを屋根のようにまたぐ尾根筋の坂道。その勾配に呼応するように、建物の外観は段々と折れ上がりながら立ち上がっています。

敷地の南端から北端にかけて約360mmの高低差を持つ地面を内部に吸収し、前面道路からわずかに沈んだ位置に玄関が現れます。

この地形を取り込む構成によって、建物は単なる箱ではなく、都市の起伏をそのまま空間化したような存在となりました。南面には各階で高さの異なる水平連続窓を設け、階ごとに光の入り方が変化します。
地形に寄り添う“沈み込み”のアプローチ

前面道路から約180mm下がった床レベルに設けられた玄関は、まるで坂道の延長線上にすべり込むようなアプローチになっています。

外部と内部の境界をゆるやかに接続するこの段差が、建物全体の“呼吸”を感じさせます。玄関を抜けると、白く滑らかな壁面に包まれた空間が現れ、構造体を露出させずに支える繊細な設計意図が伝わってきます。
段差がつくる光と奥行きのシークエンス

2階には、天井高2,820mmから2,200mmへと緩やかに絞られるスタジオ空間が広がっています。

段々状の天井とフルハイトの水平連続窓によって、自然光が柔らかく拡散し、時間帯によって異なる陰影が生まれます。

奥行き910mmのキッチンは北面上部の開口から安定した光を受け、撮影時には大きなカーテンで仕切ることも可能です。普段は居間として、撮影時にはスタジオとして——暮らしと仕事が緩やかに切り替わる空間になっています。
街を見晴らす静かな最上階

3階には寝室を配置。段差に合わせて脚を切り落としたベッドが据えられ、最小限のしつらえの中に落ち着いた気配が漂います。南面の窓からは光が差し込み、北面上部の採光が室内に柔らかく拡散します。バルコニーに出ると、新宿の高層ビル群まで一望でき、都心にいながら都市のスケールを身体的に感じ取る瞬間が訪れます。内部と外部、住宅と都市の境界が、この視線の先で曖昧に溶け合います。
構造がかたちづくる“段々の家”

また、天井をフラットに仕上げず、梁ごとに段差をつけた「階段状の構造」もこの建築の特徴です。これにより、床剛性を保ちながら気積を無駄にせず、構造と意匠の要請を両立しています。各段差は270mmと、階段としてはやや大きく、ベンチとしてはやや低い絶妙な寸法です。この段差に呼応する着脱式の家具が、空間の使い方を柔軟に変えています。建物全体が“階段のような家”でありながら、上下の距離が近く、人の動きそのものが空間体験となっています。
小さな敷地に広がる都市スケールの空間
「世田谷のスタジオハウス」は、50㎡という限られた面積に、構造的合理性と詩的な空間性を同時に成立させた住宅です。段差によって生まれる光と影、連続窓から望む都市の風景——それらはすべて、都心の地形と建築が共鳴する設計の成果といえます。この家で暮らすことは、都市の一部として呼吸しながら、日常の中に地形の記憶を感じ取ることに他なりません。コンパクトながらも、都市の大きなスケールを内包する——そんな“段々の住まい”がここに完成しました。