都市の小さな敷地に生まれた大らかな暮らしの器。建築家・五十嵐理人の自邸「家の躯体」
建築家・五十嵐理人と五十嵐友子が手がけた住宅「家の躯体」は、都心の限られた敷地条件の中で“大らかな暮らし”を実現する挑戦から生まれました。延床面積60㎡に満たないながらも、壁を極力なくし、床や壁をずらしながら積層させることで、立体的で広がりのあるワンルーム空間を構成。生活と仕事の境界が曖昧な夫婦のライフスタイルに寄り添い、日々の営みをしなやかに受け止める住まいです。
外部とのつながりを意識した外観

鉄筋コンクリートによる堅牢な構造体を基盤に設計された外観は、都市の小さな敷地に奥行きをもたらす工夫に満ちています。

道路側には大胆に開口を設け、開け放つことで内部が庭やテラスのように感じられる構成を採用。プライベートな空間は奥に、道路に近づくほど外部との関係性を強める構成とすることで、限られた敷地でも屋外との連続性を生み出しています。
外と内をつなぐ玄関

玄関は、外部から内部へと自然に移行できるグラデーションを持つ空間です。道路側に面した手前は開放感があり、奥へ進むほど落ち着きが増していく構成。

訪れる人をやわらかく迎え入れると同時に、住まい手にとっても心地よい切り替えをつくり出しています。
ひとつながりの空間としてのLDK

1階には、生活と仕事の境界を設けず、ひとつながりの空間が広がります。

内部に明確な間仕切りはほとんどなく、7枚の床が高さや奥行きを変えながら重なり合い、LDKや仕事場としてゆるやかにゾーニングしています。

床そのものが座面や机、棚、あるいは天井として役割を担い、使う人の発想次第で空間が変化。夫婦がお互いの存在を感じながら、それぞれの活動を柔軟に行える設計がなされています。
光と風が巡るプライベート空間

2階には生活の中心となるプライベートな居場所が配置されています。

大きな間仕切りを設けず、床のレベル差や光の入り方によって空間をゆるやかに分節。

南面には大きな開口を設けず、北側の壁をずらして生まれた抜けから光や風を取り込むことで、強い日射を避けつつ柔らかな自然光が差し込みます。

さらにその上にはベッドルームと水回り、道路側にはテラスを配置。

壁面を本棚にすることでプライベートな時間に寄り添います。

都市の住まいでありながら、季節や時間の移ろいを穏やかに感じ取れる環境です。
広がりを生み出す設計上の工夫

この住まいの核となるのは、互いに関係し合いながら役割を果たす7枚の床です。

単独で機能を完結させるのではなく、座る場所が机になり、棚となり、ある時は天井として作用する──そんな可変性によって、限られた面積に無限の広がりをもたらしています。

さらに、鉄筋コンクリートの堅牢な躯体に、人のスケールに合わせた階段や家具を組み合わせることで、強靭さと柔軟さを兼ね備えた住宅に仕上がっています。

住まい手の暮らしに長く寄り添いながら、ライフスタイルの変化を受け止めていく設計です。
小さな敷地に広がる、新しい暮らしの器
「家の躯体」は、数値にとらわれないスケール感と多様性を実現した住宅です。ズレながら重なる床と壁が生み出す関係性は、生活と仕事の境界を超えて日々の営みをしなやかに受け止めます。都心という制約を逆手に取り、延床面積以上の広がりと豊かさを実現したこの住まいは、小さな敷地に暮らす人々に、新しい暮らしの選択肢を提示しています。