大阪・関西万博で橋本尚樹が手がけた福岡伸一のシグネチャーパビリオン「いのち動的平衡館」

大阪・関西万博のシグネチャーパビリオン「いのち動的平衡館」は、生物学者・福岡伸一がプロデュース、建築家・橋本尚樹がデザインを手掛けました。膜屋根が特徴の建築「エンブリオ」と光のインスタレーションを通じて、福岡伸一の提唱するいのちの本質「動的平衡」を体感し、来場者に深い思索を促します。

橋本尚樹による生命を包む一枚の膜のような建築「エンブリオ」

大阪・関西万博のシグネチャーパビリオン「いのち動的平衡館」は、建築家・橋本尚樹(NHA)が手掛けた、生命の発生初期を意味する「エンブリオ」と名付けられた建築です。このパビリオンは、ローラーコースターのような緩やかな曲線を描く、淡いペールピンク色の膜屋根が特徴で、見る角度や光の加減によってさまざまな表情を見せます。その姿は、まるで生命を包み込む一枚の薄い膜が、ふわりと大地に降り立ったかのようです。

この建築の最も驚くべき点は、長辺40m、短辺およそ25mにもなる内部空間に、一本も柱が存在しないことです。直径400mmの鋼管とケーブルの張力のみで自立するこの構造は、生命が絶えず形を変えながらバランスを保つように、常にうつろいながら安定を保つという「動的平衡」のコンセプトを物理的に表現しています。来場者は、この生命を宿したような“うつろう建築”の中で、いのちの始まりを感じる、特別な体験を得ることができます。

生命の本質「動的平衡」を体感する光のインスタレーション

プロデューサーである生物学者の福岡伸一が提唱する「動的平衡」という生命の原理を、パビリオンでは光のインスタレーションとして体感できます。パビリオン内部の中心には、直径10m、32万球のLEDを使用した立体的なシアターシステム「クラスラ」が設置されています。

「クラスラ」という名称は、細胞の骨組みを構成するタンパク質「クラスリン」に由来しており、このインスタレーションが生命の根源に深く関わっていることを示唆しています。絶えず明滅し、自由自在に変化する光の粒子たちは、物質、エネルギー、情報を取り込みながら自らを壊し、作り直すことで生命が保たれてきた、38億年にわたる壮大な生命のドラマを描き出します。来場者は、この繊細な光の粒子に包まれながら、「いのちとは何か」という根源的な問いを自らに問いかけることになります。

「いのちの輝き」と「死の意味」を問い直す旅

福岡伸一は、このパビリオンを通じて、いのちの有限性について深く問いかける旅へと来場者を誘います。彼は、いのちが有限であるがゆえに輝き、生が必ず死を迎えるからこそ、その意味が生まれると考えます。パビリオンの体験は、この「いのちの輝き」と「死の意味」を同時に感じさせるように設計されています。

光のインスタレーション「クラスラ」は、生命の絶え間ない変化と、やがて来る終わりを暗示するような表現で、来場者に自らのいのちの有限性を感じさせます。しかし、福岡は、死は決して終わりではなく、いのちが次の世代へと手渡される流れの一部であると語ります。このパビリオンは、いのちが流れの中の一時的な存在であることを肯定的に捉え、死の意味を問い直し、いのちの輝きを改めて実感するきっかけとなるでしょう。

動的平衡という生命の原理を体現できる「いのち動的平衡館」

「いのち動的平衡館」は、動的平衡という生命の原理を、建築とアートで表現した革新的なパビリオンです。柱のない開放的な空間と、32万球のLEDが織りなす光のインスタレーションは、いのちの有限性と輝き、そして死の意味を問い直す貴重な機会を与え、来場者に深い感動と気づきをもたらすでしょう。