街の余白を暮らしに取り込む──建築家・工藤浩平が手掛けた「鳥海邸」

秋田市の閑静な住宅地に建つ「鳥海邸」は、建築家・工藤浩平が手がけた、5人家族のための住まいです。この住宅では、未接道の土地や空き家が点在する地域特有の「余白」を前向きに捉え、その環境を暮らしの中に巧みに取り込むことで、都市と自然、そして家族のつながりを育む空間が生まれました。

二面性のある敷地──街と静寂を両立する場所

鳥海邸の外観
Photo : Tomoyuki Kusunose

建て主は、広い庭を備えたゆとりある暮らしを思い描いていましたが、親世代から受け継いだ敷地だけではその希望を実現するには十分ではありませんでした。加えて、もとの敷地は接道義務を満たしておらず、法的な観点からも新たな対応が必要に。

鳥海邸の俯瞰
Photo : Tomoyuki Kusunose

そこで隣接する空き家を購入することで、接道の条件をクリアしながら、奥行きのある土地を手に入れることができました。こうして整えられた敷地は、通りに面した側には穏やかな街の表情が感じられ、奥へと進むほどに空き家や空き地に囲まれた、静かでプライベート性の高い空間へと切り替わっていきます。ゆるやかなグラデーションのように、外のまちと内の暮らしをつなぐ構成が、この住まいならではの魅力を生み出しています。

中庭を中心に広がる設計思想

鳥海邸
Photo : Tomoyuki Kusunose

「鳥海邸」の中心には、さまざまな用途に対応できる広々とした中庭が配置されています。

鳥海邸
Photo : Tomoyuki Kusunose

この中庭は、ただ眺めるための庭園ではなく、家族が自由に過ごせる「使う屋外」として設計されています。

鳥海邸
Photo : Tomoyuki Kusunose

中庭を囲むように建物が配置され、道路側にはプライベート性の高い諸室を収めた2階建て、敷地奥側には平屋とそれに連なる上屋を設けることで、外部からの視線を遮りながらも開放感のある空間を実現しています。

緩やかな曲線が生む、内と外のつながり

鳥海邸
Photo : Tomoyuki Kusunose

中庭を囲む6枚の屋根は円を描くように連なり、それぞれの機能に応じた密度の差を生み出しています。

鳥海邸
Photo : Tomoyuki Kusunose

渡り廊下の低い屋根や縁側の深い軒など、高さや傾斜、奥行きの変化が、屋内外の境界を曖昧にし、暮らしの幅を広げています。

鳥海邸
Photo : Tomoyuki Kusunose

また、リビングはヴォールト屋根構造で設計され、5460mmの大開口部が内と外を視覚的に連続させ、家族の生活を自然と屋外へと誘います。

鳥海邸
Photo : Tomoyuki Kusunose

中庭に直結した居住空間が、日常の暮らしにあそびをプラスします。

暮らしの可能性を広げる多様な半屋外空間

鳥海邸
Photo : Tomoyuki Kusunose

この住宅の特徴のひとつが、生活の幅を広げる多様な半屋外空間です。洗濯物干しや駐輪場として使われる渡り廊下、バーベキュースペース、倉庫や作業スペースとして機能するはなれ、客間とつながる縁側など、日常のさまざまな場面で活用できるスペースが点在しています。

鳥海邸
Photo : Tomoyuki Kusunose

これらの空間は、光や風、周囲の環境と調和し、季節や時間帯によって異なる表情を見せます。

地域と共鳴する、のびやかな住まい

「鳥海邸」は、未接道の土地や空き家という制約を逆手に、豊かな暮らしの要素へと昇華させた住宅です。街の余白を暮らしの中に取り込むことで、家族だけでなく、地域ともゆるやかにつながる住まいを実現しました。