ミラノデザインウィーク2025トレンド・総括レポート――世界が注目したインテリアデザインの最前線

前編:ミラノデザインウィーク2025「Thought for Humans」から読み解く、未来の暮らしとデザイン

2025年4月8日から13日にかけて開催された「ミラノサローネ国際家具見本市」は、第63回目を迎え、今年も世界中のデザイン関係者が集う一大イベントとなりました。会場はフィエラ・ミラノを軸に、ブレラ、トルトーナ、ランブラーテなどミラノ市内各地で開催され、インテリア、建築、アート、テクノロジーが交差する先端的な展示が多数展開されました。会期中には37カ国から2,100社を超える出展があり、来場者数は約30万人に達しました。来場者の約68%が国外からの訪問者で、日本からの参加者数も前年の20位から13位へと上昇するなど、国際的な注目度の高まりが感じられる回となりました。今回は、そんなミラノサローネ2025で見られた主要なトレンドをご紹介します。

サローネ・サテリテ──次世代のクラフトマンシップを担う若手デザイナーたちの挑戦

First Prize Utsuwa-Juhi Series Kazuki Nagasawa, Super Rat Salone del Mobile.Milano ©Ludovica Mangini

35歳以下を対象としたサローネ・サテリテには今年、700名以上のクリエイター(20の国際デザイン学校所属)が参加。今回のミラノサローネのテーマである「THOUGHT FOR HUMANS(人間のための思考)」に応えるように、日本発のSUPER RATによる《UTSUWA–JUHI SERIES》(柿渋×鉄媒染×棕櫚)など、デザインの原風景を考えさせられるような、身体性の高い作品が高く評価されました。

「Plissade」 Fenna van der Klei and Patricio Nusselder(Luis Marie) ©Ludovica Mangini/Salone del Mobile.Milano

ほか、オランダのデザインスタジオ ルイス・マリーによる伝統的なプリーツ技法を再解釈した、自立可能なパーテーションや、

「Fil Rouge」Riccardo Toldo ©Ludovica Mangini/Salone del Mobile.Milano

イタリアのデザイナー リッツ・トルドによる運命を結ぶ赤い糸伝説から着想を得た、直径1.8ミリの細長い形状ながら最大1,200ルーメンという高い照度を提供するウォールランプなど、シンプルながらも現代の技術と新たな視点を活かしたプロダクトが並びました。

参考:サローネ・サテリテ・アワード2025では日本のSuper Rat・長澤一樹が手がけたUtsuwa-Juhi Seriesが一等を受賞!

五感で味わう空間演出──体験型展示がトレンドの中心に

通常展示では、昨年以上に香り・音・触覚・光の演出を組み合わせたインスタレーション展示が多く見られ、体験型コンテンツが重視されました。

香り×木材展示、AI制御照明+音響、さらには宇宙旅行を想起させる瞑想空間など、来場者の感情や記憶に訴える構成が新しい常識となっていました

AI・テクノロジー融合による暮らしの変容──パーソナライズとXR

作品にはAIやセンサーテクノロジーを取り入れた家具・インテリアが数多く登場し、姿勢や環境に応じて形状や機能が変化するプロダクトなどが提案されました。

またAR/VR体験や、プロジェクションマッピングにより「リアル空間とデジタルの融合」が加速し、来場者の没入体験の質が大幅に向上しています

新旧の調和

さらに今回はトレンドといった概念を超越した、歴史や伝統を踏まえたデザインやプレゼンテーションが多く見受けられました。ちょうど100年前頃に流行したアールデコやバウハウス、1960年代や70年代のデザインを思わせるものも多く展開されました。

参考:ミラノデザインウィーク2025 でバンブーを再解釈したインスタレーション「バンブー・エンカウンター」をみせたGUCCI(グッチ)

サンローランは、シャルロット・ペリアンが1943年から1967年にかけて構想しながらも未発表だった家具4点を初めて原寸大で製作し、スカラ座の工房の一角で展示を開催。

中でも注目を集めたのが、1967年に設計された五人掛けのソファです。この作品は、モダニズム建築家・坂倉準三が手がけたパリの日本大使公邸のためにデザインされたもので、全長7mを超えるスケールと力強いフォルムに加え、座面に施された藤編みの繊細で緻密な仕上がりが際立っていました。

その堂々たる美しさに、来場者からは感嘆の声が上がっていました。

参考:ミラノデザインウィーク2025 でイヴ・サンローランはシャルロット・ペリアンの名作家具を復刻!

バリエーション豊かなレッドが空間にアクセントを添える

カラートレンドとしては、引き続きダスティトーンが継続される中で、赤系のアクセントカラーや深みのあるブラウンを加えることで、より洗練された空間に仕上げた例が多く見られました。

スモーキーピンクやバーガンディーレッドを取り入れたインテリアが随所に見られ、これらの色を「空間のアクセント」として効果的に用いるブランドが多く見受けられました。柔らかなピンクから深みのある赤まで、大人の落ち着きと上品さを感じさせる色使いが印象的でした。

参考:ミラノデザインウィーク2025で3年連続となる出展となった荒川技研工業の2つの展示「ubique」「NEW NORMAL」

価値観の刷新──思想としてのサローネ

2025年のミラノサローネは、「THOUGHT FOR HUMANS(人間のための思考)」をテーマに掲げ、再生樹脂などのサステナブル素材の組み合わせや、有機的で柔らかなフォルムのデザイン、クラフトマンシップや原点回帰を軸にした展示が数多く見られました。近年のコンテンポラリーデザインの流れを受けつつも、癒やしや安らぎといった、本来家具が持つ心地よさに改めて目を向けるような提案が印象的でした。