
「決めきらないデザインを大切に」ナノメートルアーキテクチャー・野中あつみさん
愛知県名古屋市で建築設計事務所を主宰しているナノメートルアーキテクチャーの野中あつみさん。
今回は、野中あつみさんの暮らしの中で大切にされているデザインや建築家に至った経緯など建築について幅広くお話を伺いました。
ナノメートルアーキテクチャー設立者の野中あつみさん

名古屋大学工学部にて化学生物工学を学び、2009年に大学院修了。その後、建築の道へ進み、2011年に専門学校都市デザインカレッジ愛知の建築科を卒業。同年より吉村靖孝建築設計事務所に勤務し、2016年には自身の建築事務所「ナノメートルアーキテクチャー」を設立。
暮らしの中で大切にしているデザイン

はじめに野中さんが暮らしの中で大切にされているデザインについて伺いました。
「決め切らないデザインを大切にしています。例えば建築は用途が、家や保育園など限定されていますが、そうした固定された使い方にとらわれず、別の可能性も考えるようにしています。家であっても家に見えないような場所、あるいは多様な使い方ができる空間など、使う人が自由に解釈できる余白を意識しています。あらかじめ用途を限定してしまうと、それ以上の発想や想像が生まれにくくなると感じるからです。そのため、使い手の想像力を引き出すような、『決めきらないデザイン』を心がけています」
好きな場所や空間は?

野中さんがお好きな場所や空間はどこでしょうか?
「広いワンルームが好きです。昔から、お寺の広いお座敷やごちゃごちゃしてなくてただシンプルに広い場所が好きです。特に最近は、興味が強いです。」
何畳以上が良いなどの目標はありますか?
「特にありませんが、広ければ広いほどいいですね。」
生物学の分野から建築の道を選んだきっかけは?
野中さんは、建築の世界に入る前に生物学の分野で研究されていましたが、建築の道を選んだきっかけについて教えてください。
「元々、両方に興味がありました。大学に入る際は、生物の方で受かったこともあり研究していこうと思い6年在籍しました。大学を卒業後、就職時に『やりたいものは?』と自問自答した際に、建築をやってみたいと思いました。また、今なら方向転換は遅くないと思い、大学卒業後に建築へ進んだのがきっかけです。」
事務所の名称『ナノメートルアーキテクチャー』は生物と関連している?

事務所の『ナノメートルアーキテクチャー』は、建築のスケールとは異なる名称で興味がひかれます。これは、生物と関連しているのでしょうか?
「事務所名である『ナノメートルアーキテクチャー』には、生物に限らず、より広い視点を持ちたいという思いを込めています。建築は通常ミリメートル単位で設計しますが、それよりもさらに小さく、抽象的で感覚的な領域まで含めて捉えたいと考え「ナノメートル」という言葉を選びました。
ナノメートルは、もともと光や色の波長を示す単位でもあります。建築は寸法で空間を構成する一方で、実際には『きれいな色だな』『心地よい光だな』などの感覚や時間の流れによって体験されるものでもあります。このような物理的なスケールにとどまらず、もっと広く、もっと繊細な感覚を設計に取り込んでいきたいという思いがあります。
また、ナノメートルは、素材そのものをゼロからつくるような世界があると言われています。建築も、単に構造物を建てるのではなく、その場で起きる現象や人のふるまい、光の変化など、目には見えにくい部分まで含めて空間をつくっていくことができる、そんな可能性を込めて『ナノメートルアーキテクチャー』と名づけました。」
三谷さんと共同でプロジェクトを手がける際は、お互いの強みをどのように生かし合っている?

三谷さんとナノメートルアーキテクチャーでさまざまなプロジェクトを手掛けていますが、その際にお互いの強みをどのようにぶつけ合っているのか伺いました。
「私たちは同じプロジェクトに取り組みながらも、それぞれ得意分野が異なります。私は、研究をしていた経験もあり、建築においても『この部分の納まりはどうするか?』と細かい部分を追求していくことが得意です。まるで職人のように、細かいところに深く入り込んでいくタイプです。
一方で三谷は、もっと広い視点を持っています。『この建築がどのように社会に広まり、どのように使われていくのか』などの外への広がりや可能性を見ています。同じ一軒の家を設計していたとしても、私が見ているのはその『内側』で三谷が見ているのはその『外側』といったように、異なる視点から建築を捉えています。その違いが、ひとつのプロジェクトに奥行きを与えているように感じています。」
ナノメートルアーキテクチャー、建築家・野中あつみさん
ナノメートルアーキテクチャー建築設計事務所の設立者であり、建築家として活躍する野中あつみさん。研究で培った探究心と繊細な感性を武器に、ディテールへのこだわりと、自由で柔軟な発想を融合させた空間づくりを続けています。これからも、建築の枠を超えた豊かな暮らしの提案に、さらなる活躍が期待されます。
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