大胆な空間と精巧なディテールで世界で最も美しい美術館をつくる建築家・谷口吉生の名建築10選
谷口吉生は、「ニューヨーク近代美術館(MoMA)」など国内外の有名な美術館や博物館を手がけてきた建築家です。日本の建築家としては珍しく、主に美術館など公共施設を手がけ、住宅作品は皆無です。数多くの美術館を手がけてきただけあって、世界で最も美しい美術館をつくる建築家とも言われています。そんな建築家・谷口吉生の数々の輝かしい受賞歴と共に、手掛けた建築物を10作品厳選して紹介します。
世界で最も美しい美術館をつくる建築家とも称される谷口吉生
正統なモダニズムの建築家として知られる谷口吉郎を父として、1937年10月17日東京都に生まれました。慶應義塾大学工学部を卒業後、ハーバード大学大学院を経て建築家・丹下健三の元で学びます。父・谷口吉郎の没後、は谷口吉郎建築設計研究所所長を務め、1983年には谷口建築設計研究所所長に就任。
2005年に第17回 高松宮殿下記念世界文化賞建築部門を受賞など国内で最も権威の賞である、日本建築学会賞をはじめとし日本芸術院賞や毎日芸術賞など数々の受賞歴があります。
1.唯一のコンペ参加で勝ち取った「ニューヨーク近代美術館(MoMA)」
谷口吉生は、モダンアートの殿堂としてあまりにも有名な「ニューヨーク近代美術館(MoMA)」の2004年にオープンした新館を手がけました。1929年に開館して以降、複雑化してしまった全体の整理を目指して、1997年に国際コンペが行われました。谷口吉生はコンペに参加しないことでも有名ですが、唯一参加したこのコンペで選出され、実現しました。
フィリップ・ジョンソンによるイースト・ウィングなど歴代の建築家への敬意を払いつつ、彫刻庭園を取り囲むような形で美術館全体を取りまとめるように設計されました。新館には大きな天蓋が設けられ、1階から6階まで大きな吹き抜けと美術館全体の眺望と外の光を存分に取り入れることができる解放的なデザインとなっていて、谷口吉生らしさが感じられます。
ニューヨーク近代美術館 – The Museum of Modern Art (MoMA)
開館時間:10:30~17:30
URL : https://www.moma.org
住所:11 W 53rd St, New York, NY 10019 USA
2.古城跡に現れる幾何学的な建築「豊田市美術館」
愛知県豊田市にある「豊田市美術館」は、20世紀美術とデザインの収蔵、現代美術の意欲的な企画展が頻繁に開催されることで全国的に知られている美術館。谷口吉生の設計によって1995年に完成しました。
挙母城があった高台に建設され、その立地を最大限活かした設計になっています。水平垂直で構成された美しい器としてデザインされ、自然光が差し込む空間はアートにとっても訪れる人にとっても居心地が良い建築です。1階部分は芝生の広場に面したエントランスと、2階部分は広大な人工池とアメリカ製の緑色の特殊鋼板や白いガラスを用い館内に差し込む光を心地よくし、非日常的な空間を演出します。
参考:建築家・谷口吉生の傑作!水平・垂直と採光が美しい「豊田市美術館」
豊田市美術館
開館時間:10:00~17:30
休館日:月曜日
URL : https://www.museum.toyota.aichi.jp
住所:〒471-0034 愛知県豊田市小坂本町8丁目5−1
3.駅前広場に対して開く、開放的な美術館「丸亀市猪熊弦一郎現代美術館(MIMOCA)」
谷口吉生による「丸亀市猪熊弦一郎現代美術館(MIMOCA)」は、香川県丸亀市出身の洋画家である猪熊弦一郎の画業を顕彰と市民の芸術文化の振興のために開館しました。駅前広場の前に図書館と一体となった形で建てられ、市民が気軽に立ち寄ることができる美術館となっています。
広々とした屋外スペースを大きな天蓋が覆うことでより開かれた美術館となり、市民が気軽にアートに触れることができます。内部空間も谷口吉生らしく、自然光を取り込む開放的な高さ14mの吹き抜けと大きな気積の展示空間がアートの鑑賞をより心地良いものにさせます。
丸亀市猪熊弦一郎現代美術館
開館時間:10:00~18:00
休館日:月曜日
URL : https://www.mimoca.org/ja/
住所:〒763-0022 香川県丸亀市浜町80−1
4.瀬戸大橋を望む日本画家・東山魁夷の美術館「香川県立東山魁夷せとうち美術館」
谷口吉生が設計し、2005年にオープンした「香川県立東山魁夷せとうち美術館」は、香川県坂出市にある瀬戸大橋の麓に位置する日本画家・東山魁夷の作品のみを収蔵する個人美術館です。
東山魁夷の代表作「道」をイメージしたアプローチの先にある建築のファサードは東山魁夷の作品を象徴する緑がかった玄昌石が採用されています。谷口吉生の建築らしく吹き抜けを介してつながる展示空間になっていて、ミュージアムカフェからは瀬戸内海と瀬戸大橋を望む気持ちの良い空間が広がります。
香川県立東山魁夷せとうち美術館
開館時間:9:00~17:00
休館日:月曜日
URL : https://www.pref.kagawa.lg.jp/higasiyamakaii/higashiyama/index.html
住所:〒762-0066 香川県坂出市沙弥島224−13
5.法隆寺を抽象化した日本的なデザインの「東京国立博物館・法隆寺宝物館」
東京国立博物館にある東洋館は、谷口吉生の父・谷口吉郎が設計した建築で、1999年に谷口吉生が設計した「法隆寺宝物館」が開館し、親子の共演が実現しました。法隆寺宝物館は、名前の通り、奈良・法隆寺から皇室に献納された宝物300点以上を収蔵・展示する施設です。
谷口吉生の建築らしく水盤と天蓋を介して環境と空間がつながります。静かな環境に溶け込むように精巧なディテールで設計された建築は、崇高な収蔵物を展示する展示空間の静寂が外部にも漏れ出て来るような佇まいです。
東京国立博物館・法隆寺宝物館
開館時間:9:30~17:00
休館日:月曜日
URL : https://www.tnm.jp/modules/r_exhibition/index.php?controller=hall&hid=16&lang=ja
住所:〒110-0007 東京都台東区上野公園13−9
6.銀座という都市に対して日本的なデザインを取り入れた複合商業施設「GINZA SIX(ギンザシックス)」
東京都中央区銀座にある複合商業施設「GINZA SIX(ギンザシックス)」は、谷口吉生が珍しく手がけた商業施設と言えるでしょう。銀座らしいラグジュアリーブランドが多く入居しています。
水平に伸びるステンレス製の「ひさし」と縦に伸びる「のれん」とともに水平垂直のファサードが特徴的で日本的なデザインとなっています。宙に浮かぶアートが飾られる中央の大きな吹き抜けが、内部空間も単なる商業建築ではなく美術館のような気品ある空間としてデザインされています。
GINZA SIX(ギンザシックス)
開館時間:10:30~20:30
URL : https://ginza6.tokyo
住所:〒104-0061 東京都中央区銀座6丁目10−1
7.「資生堂アートハウス」
谷口吉生が大林組の建築家・高宮真介との協業で設計した「資生堂アートハウス」は、1980年に日本建築学会賞を受賞している美術館です。資生堂掛川工場の隣接敷地内にあり、近現代の優れた美術作品を一般に無料公開しています。
綺麗な芝生の上に現れるシルバーのラスター釉タイルを施した曲面のファサードが通過する新幹線を美しく映します。2つのエリアをS字のホールのカーブがつなぎ、建築自体もアート作品のようです。
資生堂アートハウス
開館時間:10:00~16:30
休館日:日・火・月曜日
URL:https://corp.shiseido.com/art-house/jp/
住所:〒436-0025 静岡県掛川市下俣751−1
8.東京湾を望む美しいガラスの建築「葛西臨海水族園」と「クリスタルビュー」
東京都立葛西臨海公園にある「葛西臨海水族園」と展望広場レストハウス「クリスタルビュー」は双方とも谷口吉生の設計による建築。
「葛西臨海水族園」は、ガラスのドーム状の外観と、谷口吉生のモダニズム建築を取り入れた館内の展示方法はいたってシンプル。
ガラスの直方体の展望広場レストハウス「クリスタルビュー」は、葛西臨海水族園と同様に東京湾を望む美しいガラスの建築となっています。気軽に立ち寄ることができるこの建築は、その場に身を置くだけでもリラックスできそうです。
東京都立葛西臨海公園
住所:〒134-0086 東京都江戸川区臨海町6丁目2
9.世界的・仏教哲学者である鈴木大拙の考えや足跡を広く伝える博物館「鈴木大拙館」
石川県金沢市にある谷口吉生が設計した「鈴木大拙館」は、世界的・仏教哲学者である鈴木大拙の考えや足跡を広く伝える博物館です。
禅宗寺院の住職が生活する空間「方丈」をイメージして設計された建築です。外部回廊を通って「思索空間」へ向かう途中に「水鏡の庭」が広がり、そこでは自ら「考える」空間として定義されています。2015年には、日本建設連合会主催の第56回BCS賞を受賞しています。
参考:建築家・谷口吉生が設計した思索する美しい建築「鈴木大拙館」で日本の禅文化に触れる。
鈴木大拙館
営業時間:9:30〜17:00(入館は16:30まで)
定休日:毎週月曜日(月曜日が祝日の場合翌日)・年末年始・展示替期間
住所:〒920-0964 石川県金沢市本多町3丁目4番20号
電話番号:076-221-8012
公式サイト:https://www.kanazawa-museum.jp/daisetz/index.html
10.谷口吉生自身と父・吉郎による建築の美術館「谷口吉郎・吉生記念 金沢建築館」
谷口吉生が手がけた「谷口吉郎・吉生記念 金沢建築館」は、金沢の九谷焼窯元の家に生まれ、文化勲章を受章した建築家・谷口吉郎の住居跡地に建てられました。その名の通り、谷口吉生自身と父・吉郎の顕彰して谷口親子の建築思想を伝える博物館で、父・吉郎が設計した迎賓館赤坂離宮 和風別館「游心亭」の広間と茶室が再現された空間もあります。
谷口吉生の建築らしく矩形が組み合わされた正統なモダニズム建築と言えます。この建築や鈴木大拙館、2人の共作である金沢市立玉川図書館を通じて、谷口吉郎と谷口吉生の共通点や相違点を感じることができるでしょう。
谷口吉郎・吉生記念 金沢建築館
開館時間:9:30~17:00
休館日:月曜日
URL : https://www.kanazawa-museum.jp/architecture/
住所:〒921-8033 石川県金沢市寺町5丁目1−18
正統なモダニズムの美しい美術館をつくる建築家・谷口吉生
建築家・谷口吉生の建築は、どれも大胆な空間構成と精巧なディテールで正統なモダニズムの美しいデザインになっています。水平垂直の構成が明快なファサードや空間は、透明な器のようにその場所や環境と調和します。だからこそそこに置かれる美術作品を引き立て、訪れる人を魅了するのだと思います。