「心が反応した瞬間に写真を撮る」世界中の極地や僻地を旅する写真家・上田優紀
ほとんどの人が訪れないような世界中の極地や僻地を旅しながら、視野風景を撮影している写真家上田優紀さん。
そんな、数々の美しい写真を撮っている上田さんに、好きな場所や、写真家になったきっかけなどについてお話しを伺った。
やりたいことだけをシンプルに
上田さんが大切にしているデザインは、“シンプル”であること。
「今はすごく情報過多の時代。例えばSNSでは、他人の意見などがダイレクトに届いてしまう。だからこそ自分のやりたいことだけをシンプルに追いかけていくという生活を大切にしています。」
好きな場所や空間はテントの中
そんな世界中を旅する上田さんに、好きな場所や空間を伺った。
「頻繁に行けるわけではないけど、テントの中ですね。」
上田さんは、エベレストなど海外遠征に行くと、テントを張って1~2ヶ月ほど何もない自然の中で過ごしているそうだ。お風呂も、ネットもない不便なテント生活だが、自然をダイレクトに感じれる場所ですごく貴重で好きな時間を過ごせるそう。“寛ぐ”という感じではなく、エネルギーの強い自然と共存している時間が生きているという感覚になり、生きていく上で貴重な空間であるそうだ。
現在は、キャンプ流行りでテントの中で寝るということもカジュアルになってきたが、キャンプ場だと水道など設備がしっかり完備されている。しかし、上田さんの場合は、全く何もない環境であるため、雪を溶かしてそれを水道代わりにしているという、テント生活についても教えてくれた。
写真家になるきっかけとなった世界一周
「この旅に出ていなかったら確実に写真家になろうとは思わなかった」という24歳の時の世界一周の旅。
写真の学校も行っておらず、写真の勉強もしていなかった上田さん。世界一周の旅で初めてカメラを使ったそうで、「世界一周するのなら、どうせならカメラ持って行こうかなと思い、カメラを買って旅をしていました。」
そして、写真家になるきっかけの出来事についても語ってもらった。
「世界一周中のある時に、旅先のアイスランドで、アフリカの砂漠の写真を子供たちに見せたんです。彼らはその場所には、立っていないが、僕と同じように目を輝かせて好奇心を爆発させ、色々な質問をしてきました。雪国、北の極地で生まれ育った彼らは、砂漠など見たことがない未知の世界だったと思います。それと同じような出来事が、電気もガスも通っていないアジアの山奥や、アフリカでもありました。彼らに、ニューヨークの摩天楼の写真を見せると、アイスランドの子供たちと同じように目を輝かせていました。その時に、見たこともない未知の風景は人の心を豊かにするんだと思いました。そこには国境や宗教、肌の色や年齢、男女関係なく、そういう出会いが、世界一周中に毎日のようにあった積み重ねで、写真を使って人の心を豊かにするということを決めました。一生の生業、仕事にできたらいいなと思って写真家を選んだんです。」
一瞬、一瞬を切り取っているのが写真。その時、その場所に風景があって、その一瞬や軸を切り取っている写真は、感動を生みやすいのかなと感じているそうだ。
世界一周については、「僕自身、見たことがない風景とたくさん出会う毎日で、その度に好奇心を掻き立てられ、心が動かされる旅でした。」と当時を振り返った。
極地や僻地を選んでいく理由
「単純に、僕自身が見たことがない景色を見たいし体験をしたいし、それを伝えたいです。」それらが理由で、極地や僻地を選んでいるという上田さん。
山に行く時は、半年ぐらい前からトレーニングをしたり、食事を調整したりするそうで、ジム行って走って筋トレをしたり、山に登ったり、ロッククライミングやアイスクライミングで練習を重ね、準備をしているそうだ。
世界一の高峰・エベレストでの出来事
標高は8848mを誇る、言わずと知れた世界一の高峰・エベレスト。
ヒマラヤ山脈にある標高6,856mのアマダブラムの山を登った時に、頂上からエベレストを見ることが出来たそうで、その時に「あぁ、あそこに絶対に行かなくては…。」と、思ったのが、エベレストに対する最初の印象だったそうだ。「世界で一番高い場所からどんな風景が観れるのだろう。観たいし、伝えることが僕としての写真家の使命かな。」と感じたそう。
続けて、エベレストで印象に残っている出来事を教えてくれた。
標高が8600mぐらいで、気温は氷点下30°、台風のようなすごい風が吹いている中、山にしがみついて頂上直下を登っている時。朝日がチベット高原から登ってきたそうで、それを観た時は、感動というとすごくチープだが、すごく美しかったそう。「2ヶ月かけてその場所にいたのだが、色々なことがあり、心も体も満身創痍だったんです。その絶望の中、朝日の温かさと、希望のイメージですごく印象に残っています。」とエベレストを振り返った。
雷が鳴る中での撮影「ウユニ塩湖」
今まで訪れた中で一番心に残っている場所について伺うと、「エベレスト以外だと、ウユニ塩湖はかなりイメージが強いですね。」
雷が鳴る中、上田さんがウユニ塩湖で撮った一枚の写真がある。世界で一番平坦な場所と言われるほど、平坦な場所であるウユニ塩湖は、広大な砂漠で、高い場所と低い場所の差が50センチしかないそうだ。
「僕は1m70cm、テントの高さもそれぐらいで、雷が落ちる確率が一番高い場所が僕だったんです。その中で撮影したのがその写真なんです。撮影の余裕などはないです。意識して写真を撮っておらず、心が反応した瞬間に、写真を撮っている感じなので、帰国して写真を見返してみると、こんなところで撮っていたんだと思うことが多々あるんです。」と話した。
Life is Journey
そんな、凄まじい体験をしている上田さんに、「Life is ◯◯」に入る言葉を尋ねた。
「Life is Journey.」「好きな言葉に、“世界は一冊の本のようなもの。旅をしないということは、その本の1ページしか読まないものだ”という言葉がある。生きている限り、自分の好奇心を満たす旅を続けていきたいと思っているし、それを伝えることで、人の心を満たしていければこんな幸せなことはないですね。」と話し、インタビューを終えた。
上田さんの旅はまだまだ続き、そして、様々な人々をこれからもワクワクさせてくれることであろう。