大胆なデザインの中の静けさ。ル・コルビュジエ後期の傑作「ロンシャン礼拝堂」
「ロンシャンの礼拝堂」は、ル・コルビュジエが生涯で手掛けた3つの宗教建築のうちの1つ。正式名称は「ノートル・ダム・デュ・オー礼拝堂」と言います。ノートル・ダムとはフランス語で「私たちの貴婦人」という意味。イエス・キリストの母、聖母マリアを指し、聖母マリア様の名を借り、捧げた礼拝堂です。丘の上に礼拝堂があるロンシャンの街は、中世から巡礼地の一つであり、キリスト教の聖地のような存在でした。しかし、第二次世界対戦中、ナチス・ドイツ軍の空爆によって破壊され、瓦礫となってしまいます。その後、敬虔なキリスト教徒たちの要請を受けて再建が決まりました。
彫刻のような形状が美しい宗教建築
「ロンシャンの礼拝堂」はル・コルビュジエの「サヴォワ邸」などに見られた「近代建築の5原則」に基づいた合理性・機能性とは一線を画す作品で、彫刻的な曲面と丸みを持った外観と打ち放しのコンクリートとスタッコでできた厚くて白い壁が特徴的です。厚い壁には無数の穴が穿たれていて、はめ込まれた様々な原色のステンドグラスを通して差し込む外光の拡散によって神秘的な光の空間を演出しています。
自由で伸びやかな外観
飛行機の翼をイメージしたシェル構造の屋根と白く輝く厚い壁が特徴の彫刻のような建築。大きな塊のように見える屋根はシェル構造を採用して実際には薄くつくられています。1950年代には主流になりつつあった「鉄筋コンクリート」が可能にした自由で彫塑的な造形です。
重量感のある屋根と壁が繋がっているため重たい印象になりますが、壁にはめ込まれたガラスから差し込む光と屋根と壁の間にあるスリットが建物の重厚感を和らげます。
東側の屋外テラスの聖壇はブルゴーニュ産の白い石で造られています。
建築の裏側には屋根の雨水を受けて建築の外へ放出するガーゴイルが飛び出ています。このガーゴイルは「象の鼻」とも呼ばれてます。
厚い壁を持つ建築ですが、出入り口は重厚ではなく大きな塊の隙間を通り抜けるように設けられています。入り口は約8ft四方のピボット式(中心軸吊り)の手動回転扉で、左右の壁とはスリットで縁が切られているのがわかります。
扉はル・コルビュジエ自身の原色抽象絵画によって全面が明るく彩られており、その印象にも助けられドアは重くないように感じられます。
外から差す光が拡散し、静けさの中の祈りの空間を演出
礼拝堂内部には主祭壇、3つの小祭壇、告解室があります。会衆席の椅子はル・コルビュジエと彫刻を共同制作しているジョセフ・サヴィナによるもの。
礼拝堂を外から見ると分厚い屋根と厚い壁に囲まれ、外部と隔絶されているような印象があるものの、内部は壁の小さな開口部にはめ込まれたモダンなデザインのステンドグラスを通じて光が拡散しており、外界とのつながりを感じさせてくれる開放感のある空間となっています。暗がりの中に差し込む光は、静けさの中の祈りの空間を絶妙に演出しています。
建築内部からだと光のスリットによって屋根と壁の縁が切れていることがよくわかります。
細やかな仕掛け
祭壇上部の聖母子像は年に一度の大祭の際にはぐるりと回転。屋外の祭壇方面を向く仕掛けとなっています。床の石は、ル・コルビュジエが提唱したモデュロールよって割り付けられています。
屋根はコンクリートですが、壁との間にスリットがあり少し浮遊感を感じさせ、軽やか。
3つの塔の下に設けられた小祭壇には、トップライトからの光が降り注ぎます。伝統的なキリスト教建築のステンドグラスから差し込む光のように、荘厳で神聖な空間を作り出しています。
伸びやかな曲線と光の美しさを体感できる空間
光の原理を熟考した造形と多様な表情で人々に語りかける「ロンシャンの礼拝堂」。ル・コルビュジエが「サヴォア邸」などで主張していた「近代建築の5原則」に基づく機能性・合理性を重視したモダニズムの表現とは異なり、さらに新しい可能性を追求したものとして、それまでのル・コルビュジエ建築が直線的なのに対し、曲線が多用されているのもこの建築の特徴です。
ロンシャンの礼拝堂 – Colline Notre-Dame du Haut
開館時間:10:00~17:00
休館日:月曜日
URL : http://www.collinenotredameduhaut.com
住所:13 Rue de la Chapelle, 70250 Ronchamp, France