生活感を排除したファサードの平屋が問いかける、重なり合う暮らしの豊かさ「かさねる」

青空の下、住宅街にひときわ異彩を放つ白いボリュームが静かに佇んでいます。コンセプト名は「かさねる」。新潟に建つこの平屋は、建築家が手がけた注文住宅です。夕暮れの空を背景に浮かび上がるV字の開口、夜に光の筋を放つ玄関アプローチ——この住宅は、外に立った瞬間から独自の世界観を放っています。

ファサードが語る「生活感を排除する」という覚悟

接道から視線が向かうのは、大きく傾斜しながら鋭角に切れ込んだ白い外壁です。V字状に開いた開口部の奥に玄関が隠れるように配置されており、日中はその影が壁面に鮮やかなコントラストを生み出し、夜間は温かみのある照明が闇の中に光の道をつくります。

建築家は「外観から目を惹く家にしたい」というクライアントの要望に、接道からのファサード面に傾斜する袖壁を立てることで応えました。分譲地の最奥という条件を逆手に取り、見る角度によって表情が変わるダイナミックな外観を実現しています。

窓を極力排したホワイトの外壁面は、生活道具や植栽など、いわゆる「生活感」を一切外に漏らしません。玄関がV字の奥に隠れているのも、その意志の表れです。

夕暮れに染まる空とのコントラスト、月明かりの下でシルエットとなるV字の輪郭——その佇まいはまるで一点の彫刻作品のようです。

「重なり」が生み出す、パブリックとプライベートの共存

コンセプト「かさねる」は、この住宅の平面計画そのものを指しています。パブリックなゾーン(LDK・テラス)とプライベートなゾーン(寝室・個室)を同じ四角形で構成し、その四角が重なり合う場所にリビングを位置づけています。訪れる人と暮らす人の動線が「重なる」ことで、平屋という単層の空間に奥行きとドラマが生まれています。

建築面積78.67㎡(約23.8坪)、延床面積73.70㎡(約22.3坪)というコンパクトな規模の中に、LDK(16帖)、寝室(4.5帖)、洋室1,2(各3帖)、ファミリークローゼット(5帖)、パントリー(2.5帖)、テラス(8帖)が収められています。

特筆すべきは、玄関ホールをあえて設けない構成です。従来の住宅では当然のように設けられる玄関ホールを省き、その分の面積をLDKや収納に還元しています。玄関から直接LDKにアクセスする動線はパブリックな流れとして設計され、プライベートゾーン(寝室・個室)への動線は住まい手だけが使う別の経路として明確に分離されています。この割り切りが、数字では語れない空間の豊かさを生み出しています。

木ルーバーと光が演出する、16帖のLDK

LDKに足を踏み入れると、天井を流れる木ルーバーが圧倒的な存在感で迎えてくれます。斜め方向に連なる木材の板が空間に方向性とリズムを生み出しながら、間接照明の光を受けて温かみのある陰影を纏います。昼間の柔らかな自然光の中では木の素地が清潔に輝き、夜間には間接照明とスポットライトが重なって、ホテルのラウンジのような上質な雰囲気を醸し出します。

床はナチュラルトーンのフローリングで全体をまとめ、グレートーンのキャビネットが空間を引き締めています。壁面には大判のフロート型TVボードが建築と一体化して収まり、余分なものを持ち込まない潔い空間をつくっています。

さらに印象的なのが、LDKとファミリークローゼットを仕切る大型のガラスパーティションです。透明なガラスを通してクローゼット内部がうっすらと見え、閉じながらも空間がつながる感覚が生まれます。扉を開け放てば視線が抜けてLDKがさらに広がり、閉じれば個室の独立性が保たれます。コンパクトな平屋でありながら、複数の空間の表情を使い分けられる工夫がここにあります。

二列型キッチンと中庭——内と外をつなぐ装置

ダークグレーに統一されたキャビネットを持つ二列型のキッチンは、アイランドカウンターと壁付けカウンターが向かい合わせに並ぶ構成で、その間にダイニングスペースが収まっています。コンパクトに動線をまとめながら、料理する人とダイニングに座る人が自然に向き合える配置です。

壁付けカウンターの上部には横スリットの木ルーバーが設けられており、天井のルーバーデザインと呼応しながら、空間全体に統一感をもたらしています。またパントリーは壁一面にオープン棚が設けられており、食品や調理道具を使いやすく収納しながら、生活感を上手にコントロールできる設計になっています。

そしてキッチン・ダイニングの視線の先に広がるのが、中庭テラスです。大判のガラス引き戸越しに空が見え、昼間は明るい光が室内に注ぎます。夜は照明が灯るLDKの温もりが外へと滲み出し、中庭でゆったりとした時間を過ごす豊かさを演出します。壁に囲まれたテラスはプライバシーを確保しながら、アウトドアチェアを置いてくつろぐ「第二のリビング」として機能しています。

細部に宿る設計の誠実さ

この住宅の質は、大きな造形だけでなく細部の扱いにも宿っています。

洗面室は天井まで伸びるバックライト付きのミラーキャビネットと、フロート型の洗面台が設けられており、生活感を排した清潔なホテルライクな空間になっています。トイレはタンクレス便器と薄い間接照明のみで構成され、余計なものを一切置かない潔さがあります。

個室は横長のハイサイドライトから差し込む光が間接照明と合わさって、小さな部屋ながら落ち着いたプライベート感を生み出しています。また、子ども部屋として活用できる洋室には白いロフトベッドが設えられており、コンパクトな3帖の空間を縦方向に有効活用しています。将来的に2室に分割できるレイアウトも平面計画に盛り込まれており、家族の変化に応じて住み方を変えられる柔軟性も持っています。

ファミリークローゼット(5帖)は、ハンガーパイプが三方の壁に渡され、家族全員の衣類を一か所で管理できる実用的な広さを確保しています。LDKからガラス越しに見えるこの収納空間は、整理整頓を意識させる動機にもなります。

玄関クロークは土間続きで設けられており、靴や外出時に使う荷物をスッキリ収めながら、玄関まわりの生活感を徹底的に排除しています。外観コンセプト「生活感を排除した平屋」は、こういった内部の細部まで一貫しています。

時間と光が変える、この家の表情

この住宅の魅力は、一日のどの時間帯に眺めても美しいことです。青空の下でくっきりと輝く白い外壁、夕焼けの赤に染まった空とシルエットのコントラスト、夜の静寂の中でV字の開口から漏れる温かな光——そのどれもが計算されたように美しく、建築が「時間」という要素まで設計に組み込んでいることを感じさせます。

外観は街に対して閉じながら、内部では中庭を介して光や空気と豊かにつながっています。コンパクトでありながら広がりを持つLDK、昼も夜も表情を変える木ルーバーの天井、内と外をつなぐテラス——「かさねる」はそれらすべてが重なり合うことで、数字では測れない豊かさを生み出しています。