空間をつくることは、暮らしをデザインすること―建築家・原田収一郎(しう)が語る「居心地」の原点

空間デザインから造園施工まで、ワンストップで手がける住宅ブランド「暮らしと庭設計室」を展開する建築家・原田収一郎さん(以下、しうさん)。しうさんが語るのは、単なる住宅設計のノウハウではなく、「暮らしがどう循環していくか」という視点でした。今回は、しうさんのデザインの原点となる思想や、自邸リノベーションの話、そして言葉を大切にする理由について掘り下げます。

建築家・原田収一郎(しう)

1986年熊本県生まれ。2021年、建築設計を軸に多角的な事業展開を目指し「moar」を設立。コンセプト設計力を活かし、企業の事業企画や商品開発など幅広い領域でブランディングを手がける。2022年からは一級建築士事務所として、空間デザインから造園施工までをワンストップで提供できる体制を整える。さらに2023年には、住宅ブランド「暮らしと庭設計室」をプロデュースし、居心地の良い空間づくりを通じて新しい暮らしの形を提案している。

「暮らしそのものをデザインする」という考え方

Via : @siu_moar

まず、日常生活の中で大切にしているデザインについて伺いました。

「自分自身に対しても、仕事に対しても、“暮らしそのものをデザインする”ということを重視しています。物を持ちすぎない工夫をしたり、生活が自然に循環するように考えたり。単純に“家をつくる”のではなく、その人の暮らし全体をうまく回せるよう、一緒に考えるという感覚ですね」

空間を完成形として提供するのではなく、暮らしが成長し続けることを前提に設計する。この姿勢が、しうさんの住まいづくりの軸にあることが伝わってきます。

一番好きな場所は「実験し続けている自宅」

数々の空間を生み出しているしうさんですが、お好きな空間はどういったものでしょうか。

「一番好きな空間は、やっぱり自宅です。築55年のマンションをリノベーションして住んでいます。屋内に木を植えたり、小さな庭を作ったりしていて、少しカオスな空間ですが、他にはない独自の雰囲気があってとても楽しいです」

室内に木を植える施工は難しそうですが、その時どのような苦労があったのでしょうか。

「施工はとても大変でした。職人さんが帰ったあと、夜中に一人で石を動かしたり、木の向きを調整したりしました。マンションという制約があるため、材料を軽くする工夫も行いました。自分が納得できるかどうか、それが最も重要でしたね」

労力や合理性を超えて、「自分で確かめたい」という姿勢。その空間への誠実な向き合い方が、しうさんの考え方を象徴するエピソードですね。

言葉にすることで、デザインはひらかれる

Via : @siu_moar

しうさんはSNSを通じて、一般の人はもちろん建築の専門家からも高い支持を得ていますが、その理由をどう捉えていますか。

「おそらく、考えていることをできるだけ言葉に残す点だと思います。難しい専門用語を使うのではなく、デザインの楽しさを伝えたいんです。誰もが読めて楽しめる“読み物”にするように心がけています」

そもそも言葉で表現するようになったきっかけは何だったのでしょうか。

「自分がこれまで関わった家づくりや仕事を通して得た知識や経験を、より多くの人に知ってほしいと思ったからです。少しでも多くの方が、家づくりや暮らしを考える際の助けにしてもらえたら嬉しいです」

しうさんの語る姿勢は、これから住まいづくりを考える人々に対する誠実な思いが伝わり、支持を得る理由のひとつとなっているのでしょう。

例え話が生まれる理由

Via : @siu_moar

しうさんのSNSでは、デザインや建築、空間にまつわる例え話が魅力的ですが、こうした感覚はどのように養われたのでしょうか。

「よく例え話を使うのですが、例えば『居心地の良い空間には、ほんの少しだけ不安要素を加えるべき』という考えを、料理の“レシピに塩を加える感覚”に例えたり、デザインの調和を説明する際に『たとえ美味しい食材があっても、肉じゃがを作ろうとしているのにサバを買ってくるのは違う』といった表現をしています。こうしたたとえ話は、普段から自然に思いつくことですね」

昔から独自の視点を持っていたのですか。

「実は昔は話すのが苦手でした。仕事をするうえで、顧客や企業の人たちと会話をする必要が出てきたので、言葉の力を磨かなくてはならないと感じていました。そのため、たくさん本を読んだり、相手にどう伝えるべきかを日々考えたりして、地道な努力を重ねてきました」

感覚的なアイデアを誰もがイメージできる言葉に変える力。しうさんの卓越した「言語化」の技術は、こうした地道な積み重ねで生まれたものなのです。

暮らしを育てる視点が生む空間の豊かさ

住まいは「つくるもの」ではなく、「育てるもの」。

しうさんの言葉には、そんな生きた空間を大切にする姿勢が一貫して表れています。空間は、単なる居場所ではなく人生や暮らしの器であり、時間の経過とともに変化していくものだとしうさんは語ります。今回のお話では、その空間づくりの精神がどこから生まれ、いかに丁寧に実践されているかを感じることができました。

後編:環境にひらき、人に寄り添う――原田収一郎(しう)が考える、ブランディングの重要性とこれからの建築(2月20日 公開予定)