壁と柱が織りなす風景。建築家・五十嵐理人が描く“閉じつつ開く”二世帯住宅「柱群の家」
福島県の住宅街に建つ「柱群の家」は、住宅街に囲まれながらも背後に裏山の緑を抱く敷地に計画されました。二世帯住宅としての機能性を備えつつ、プライバシーを確保しながら自然とのつながりを享受できるよう設計されています。建築家・五十嵐理人は、この住まいを「閉じつつ開く」建築として提示しました。
外観に宿る“閉じながら開く”佇まい

この住宅では、密集した住宅街という環境と、裏山の豊かな緑という相反する条件に応えるため、壁を立てて視線を遮りながら、上部にハイサイドライト(高窓)を巡らせています。

屋根は壁に接地せず、宙に浮いたように架けられ、外観全体に軽やかさを与えています。

視線をコントロールしながら自然光と風を引き込み、閉じながらも開かれた空間の両立を実現しています。
平屋的レイアウトと“くの字型”の配置

建物は南面を大きく開き、裏山の景色に沿って“くの字型”に配置されました。敷地の奥行きを視覚的に取り込みつつ、周囲からのプライバシーを守る工夫です。

内部はワンルームを基盤としながら、浴室やトイレ、収納といったプライベート機能は「箱」として独立させ、分棟状に配置。

それらの箱と林立する柱が、広場のような自由度の高い空間をつくり出しています。
室内を特徴づける“柱群”

この住宅の最大の特徴は、90mm角の柱が一間(約1.82m)ピッチで立ち並ぶ室内構成にあります。

高さ3.5mに達する柱群は屋根を支えると同時に、木の密度と余白が織りなす「森のような室内」を演出しています。

構造体であると同時に家具のような佇まいを持たせることで、人工的でありながら自然的な空気感を醸成しています。
壁・柱・屋根がずれることで生まれる空間

本計画では、壁・柱・屋根といった要素をあえて分離し、ズレや隙間を意図的につくる試みがなされています。

壁から柱が突き出すように配置され、屋根は壁と接さず浮遊するようにかけられる。

この構成によって、光や風の流れ、内部と外部の関係性が繊細に調整され、時間帯や季節によって異なる空気感が室内に生まれます。
光と時間を映す住まい

「柱群の家」では、柱のリズムと高窓からの光が室内に変化をもたらします。

朝のやわらかな光、昼の影の揺らぎ、夕暮れの陰影といった移ろいが、柱の群れを介して空間に映し出されます。

さらに、分棟された箱をずらして配置することで、風や視線の抜けが生まれ、時間とともに室内の空気感が変化していきます。
柱群が紡ぐ、二世帯の新しい風景
「柱群の家」は、閉じながら開くという二律背反を統合し、自然と共生する二世帯住宅として結実しました。視線を遮る壁と光を導く高窓、森のように立ち並ぶ柱群、そしてズレと余白を活かした空間構成。これらが融け合うことで、住まい手は自由に居場所を見つけ、自然と時間の変化を暮らしに取り込むことができます。IGArchitects が描いたこの住宅は、住宅街と自然、二世帯の生活をつなぐ“暮らしの森”として存在しています。