天空へ伸びる「光の城」建築家グンナー・ビルケルツが祖国に捧げた建築「ラトビア国立図書館(NLL)」

バルト海の真珠、リガの街に、鋭くそびえ立つ一際異彩を放つ建築があります。それが、ラトビア国立図書館(NLL)、通称「光の城(Gaismas pils)」です。この図書館は、単なる最新鋭の施設ではありません。それは、亡命建築家グンナー・ビルケルツが、長きにわたる分離と抑圧の歴史を経て、祖国ラトビアに捧げた魂のモニュメントです。尖塔状のデザインには民族の神話が込められ、内部には光と知識のドラマが繰り広げられます。

ラトビア国立図書館の象徴としての「光の城(Gaismas pils)」

ラトビアの首都リガのドヴィナ川岸に立つラトビア国立図書館(NLL)は、その異様なまでにシャープなフォルムから、市民に「光の城(Gaismas pils)」と呼ばれています。この名前は、かつて異民族の支配により海に沈められた後、解放の時を待つというラトビアの古い神話と伝説に由来します。

建築家グンナー・ビルケルツは、ソ連時代にラトビアからアメリカに亡命し、冷戦終結後の1990年代にこのプロジェクトに着手しました。半世紀近く凍結されていたこの構想を、彼は自らのアイデンティティと祖国への愛を込めて実現させました。

建物全体は、ガラスとコンクリートで構成された、上に向かって細く尖っていく結晶状の巨大な尖塔のようなデザインです。これは、単なるポストモダン建築の形態ではなく、独立と復興というラトビアの文化的、精神的な願いを体現したものです。リガの旧市街から川越しに見ると、まるで夜明けを待つ城が水面から立ち上がったかのように見え、この図書館が単なる知識の保管庫ではなく、民族の魂の象徴であることを強く印象づけます。

ビルケルツにとって、この建築は亡命者としてのキャリアの集大成であり、分断された祖国と精神的な故郷を繋ぐ架け橋となったのです。

建築の大きな吹き抜けの内部を貫く「書物の滝」

「光の城」の内部空間は、外観の劇的なフォルムに負けないほどの視覚的インパクトと機能美を兼ね備えています。図書館の中央を、低層階から最上階の閲覧室まで貫くのは、巨大な階段と吹き抜けのアトリウムです。この空間は、「書物の滝」、あるいは「書物の山」と呼ばれ、その壁面には寄贈された書物が積み重ねられています。

この「書物の滝」は、図書館という場所が、知識を一方的に提供するだけでなく、人々が知識と視覚的かつ身体的に関わる場所であってほしいと考えました。

閲覧者や研究者は、この階段を昇るたびに、積み重ねられた人類の知識という神話的な「山」を登頂する感覚を覚えます。この中央空間は、周囲に配置された閲覧室やオフィス、研究スペースに対して明確な方向性と機能的な中心を提供しながら、同時にラトビア人の集合的な記憶と文化的な物語性を具現化しています。

このデザインこそが、図書館を知的探求のための場所であると同時に、民族のアイデンティティを再認識する場所へと昇華させているのです。

光を操る建築と読書空間を彩るガラスと自然光の詩的な関係

建築家グンナー・ビルケルツは、この図書館で光を主要な素材として巧みに操りました。それが、「光の城」という愛称の真髄です。建物の外壁を構成するガラスと白い壁は、リガの空の光を捉え、それを内部空間へと深く引き込みます。特に閲覧室では、北欧の柔らかな自然光が広大な空間に満ち、読書のための最適な環境を創り出しています。

ビルケルツのデザインの核心は、この光と影の詩的な関係にあります。巨大な外壁の開口部や、建物の角の部分に設けられた窓は、単に景色を取り込むためだけでなく、特定の時間、特定の場所に、計算された光の帯や影を落とすように設計されています。

白い内壁は、その光を反射し拡散することで、時間や天候によって空間の雰囲気を繊細に変化させます。これにより、訪問者は単に本を読むだけでなく、自然光の変化という環境的な要素をも含んだ詩的な読書体験を享受できます。

この光の操作は、省エネルギー性や機能性といったモダン建築の側面を持ちながらも、ラトビアの神話性を帯びたスピリチュアルな空間へと昇華させている、ビルケルツの建築哲学の結晶と言えるでしょう。

歴史と民族のアイデンティティを表現するグンナー・ビルケルツによるラトビア国立図書館

グンナー・ビルケルツが設計したラトビア国立図書館は、建築が持つ物語性と機能性、そして精神的な力を見事に融合させた稀有な事例です。「光の城」という名前が示す通り、建築全体が、ラトビアの独立と文化的な再生という希望を灯し続けています。

内部の「書物の滝」を囲むように配置された読書空間は、自然光によって清らかに満たされ、訪れる人々に集中力と詩的な感動をもたらします。この図書館は、冷戦の終結という歴史的な転換期において、民族のアイデンティティを再構築するための物理的な錨となりました。

ラトビア国立図書館

開館時間:10:00~20:00(土曜日11:00~18:00)
休館日:日曜日
URL:https://www.lnb.lv/
住所:Mūkusalas iela 3, Zemgales priekšpilsēta, Rīga, LV-1423 Latvija