大阪・関西万博でSANAAが手がけた宮田裕章のシグネチャーパビリオン「Better Co-Being」

大阪・関西万博に登場した宮田裕章のシグネチャーパビリオン「Better Co-Being」は、SANAAが設計を手掛けた境界のない革新的な建築です。万博会場の中心にある「静けさの森」と一体化し、来場者が同じ空を見上げる体験を通じて、互いの多様性を認め合い、「共に生きる」未来を模索するメッセージを伝えています。

境界のない建築で「共に生きる」を体現するパビリオン

「Better Co-Being」パビリオンは、妹島和世と西沢立衛による建築家ユニットSANAAの独創的な発想から生まれました。従来の建築が持つ壁や天井といった境界をなくし、パビリオン全体を「静けさの森」と一体化させることで、人と自然、人と人との繋がりをゆるやかに促す空間となっています。高さ11mに四層からなるシルバーのグリッド状のキャノピーが雲のように浮かび、それを支える細い柱が林立する様は、まるで森の中に迷い込んだかのような感覚をもたらします。

この建築には風雨を遮断する「屋根」の機能はなく、天気や季節、時間といった自然の変化を肌で感じられる設計です。来場者は、雨の日には雨の音を、晴れた日には木漏れ日の温かさを感じながら、森と共生するような感覚を味わうことができます。このような境界のない空間は、人々を強制的に囲い込むのではなく、自発的な交流と気づきを促し、「共に生きる」というパビリオンの理念を物理的に体現しているのです。

アートの力で「人と人、人と世界」の共鳴を促す

「Better Co-Being」パビリオンは、単なる建築空間ではありません。内部では、アーティストの作品が来場者に深い思索をもたらすアートインスタレーションが展開されます。特に注目すべきは、世界的アーティストである塩田千春と宮島達男の参画です。

塩田千春は、糸や日常的なオブジェクトを使い、「記憶」や「繋がり」といった概念を探求してきたアーティストです。彼女の作品は、個々人の多様な価値観を尊重しながら、他者や世界との共存を模索するというパビリオンのテーマを詩的かつ空間的に表現します。

一方、宮島達男は、音だけに焦点を当てたインスタレーションを検討しています。来場者は、多様な声が重なり合うサウンドスケープを聴きながら、キャノピーを通して切り取られた“空”を眺めることになります。この体験は、視覚と聴覚を同時に刺激し、自己と他者を見つめ直す内省的な時間を提供します。これらアーティストたちの作品は、来場者同士が一期一会の繋がりを起点に、互いの違いを認め合い、未来を共創する「共鳴体験」へと導く重要な役割を担っています。

「空をともに見る」体験がもたらす新たな価値観

プロデューサーの宮田裕章は、万博が大量生産・大量消費社会の象徴から脱却し、未来への新たなビジョンを提示する責務があると語ります。そのビジョンを体現するのが、パビリオンの核となる「空をともに見る」という体験です。

SANAAがデザインしたキャノピーを通して見上げる空は、いつもの空とは全く異なる表情を見せます。太陽や雲の動きをダイナミックに感じさせたり、光の色の変化を繊細に伝えたり、夜には宇宙の一部であるかのような光景を見せたりと、その表情は千変万化です。

この「空をともに見る」という行為は、異なる文化的背景を持つ人々が、同じ景色、同じ感動を共有し、悲しみや喜びといった感情を分かち合う潜在的な力を持っています。これは、決して強制的な同質化ではなく、互いの多様性を認め合ったうえで、「同じ空」を共有することにあるという「Better Co-Being」の本質を、来場者一人ひとりに深く感じさせるものです。この普遍的な体験こそが、私たちが未来を思い描くための重要なきっかけとなり、万博の新たな価値観として世界に発信されるでしょう。

「ふしぎな石ころ『echorb(エコーブ)』」が導く共鳴体験

「Better Co-Being」パビリオンでは、来場者がより深くテーマを体感できるように、村田製作所の技術が詰まった「ふしぎな石ころ『echorb(エコーブ)』」が活用されています。この特殊な石ころは、触覚に働きかける3Dハプティクス技術を搭載しており、手にすることで不思議な触感や手ごたえ感を得られます。さらに、村田製作所提供のミリ波センサや荷重センサと連携した鼓動センサが組み込まれており、パビリオンを巡る来場者自身の鼓動を石ころに宿すことができます。

自分のいのちの鼓動を手のひらに感じながら、多様なアートインスタレーションや空間を体験することで、自己の内側と向き合い、他者との共鳴をよりリアルに感じられるようになります。echorb(エコーブ)は、テクノロジーの力で、万博が掲げる「いのちを響き合わせる」という壮大なテーマを、来場者一人ひとりの身体的な感覚へと落とし込む重要な役割を果たしています。

宮田裕章のシグネチャーパビリオン「Better Co-Being」

「Better Co-Being」は、SANAAによる開放的な建築と、塩田千春や宮島達男といったアーティストのアートインスタレーションが融合した、新たな価値観を提示するパビリオンです。物理的な境界や既成概念を取り払うことで、人々が対話し、共鳴し、未来を共創するためのきっかけを与えます。万博やこれからの世代を生きる人々にとっての新しいビジョンを体現する、象徴的な存在と言えるでしょう。