建築家の個性が光る、大阪・関西万博「いのち輝く未来社会のデザイン」を体現する国内パビリオン10選

前編:大阪・関西万博で建築家が手がけた「いのち」について学ぶための8つのシグネチャーパビリオン

2025年に開催される大阪・関西万博のテーマは「いのち輝く未来社会のデザイン」。この壮大なテーマのもと、企業や大学、団体がそれぞれの理念や技術を表現したパビリオンを出展します。中でも注目は、建築自体がメッセージを語るような、建築家たちの独創性が光る国内パビリオン。今回はその中から10選をご紹介します。

1. 日本館/nendo+日建設計

「いのちと、いのちの、あいだに」をテーマに掲げる「日本館」は、佐藤オオキが主催するデザインスタジオ・nendoと日建設計が手がけた、有機的なデザインが特徴です。建築は、円を描くように立ち並ぶ無数の「木の板」。その隙間からは内部を垣間見ることができ、中と外、展示と建築の連続によって、日本館のテーマにもある「あいだ」を来場者が意識するきっかけをもたらします。これらの「木の板」は、万博終了後に日本各地で建物としてリユースされることを前提に、解体や転用がしやすいよう工夫されています。

2. ブルーオーシャン・ドーム/坂茂

建築家・坂茂が設計したのは、竹、カーボンファイバー、紙管でつくる3つのドームから成る「ブルーオーシャン・ドーム」。埋立地である会場の特性上、建築に必要となる杭工事を避けるべく、“軽い建築”が目指されました。ドームAに使用された竹は、直射日光に弱く、径も厚みも個体差があり、建築基準法に沿った構造計算をすることが難しい。そこで竹を細かく割って集成材に加工して使用することで、直径19mのドームが実現されています。ドームBに使用されたカーボンファイバーは、軽量でありながら強度のある材料ですが高価であり、「軽い建築」の実現のために採用されました。ドームCは、再生紙100%の古紙でできた紙管で構成。直径19mのドームは立体トラスで構成されており、木の球がトラスの交点として紙管をつないでいます。

3. ウーマンズ・パビリオン/永山祐子

「ウーマンズ パビリオン」は、建築家・永山祐子が設計し、ジェンダー平等と持続可能性をテーマに掲げています。このパビリオンは、2020年ドバイ万博の日本館で使用された「組子ファサード」を再利用し、細長い敷地に合わせて再構成されています。内部には中庭や通り庭が設けられ、自然光と風を取り入れた開放的な空間が広がります。1階では、アーティストのエズ・デヴリン氏がキュレーションした没入型展示「THREE PATHWAYS」が展開され、来場者は3人の女性のストーリーを通じて多様な視点を体験します。2階には、ドバイ万博の「マジリス」を継承した「WAスペース」が設けられ、対話と交流の場となっています。このパビリオンは、建築資源の循環利用と文化の継承を象徴する空間として注目されています。

4. 住友館/日建設計

日建設計が手がけた「住友館」は、住友グループの発展の礎である愛媛県・別子銅山の山並みをモチーフに、双曲放物面(ハイパボリック・パラボロイド)を用いた屋根と壁が一体となった彫刻的な木造建築です。外装には、住友の森で育てられたスギやヒノキ約1,000本を合板として活用し、木材を余すことなく使用する「桂剥き」加工が採用されています。また、1970年の大阪万博時に植樹されたスギも外壁に用いられ、年輪や地層を想起させる「時の積層」を表現しています。設計は日建設計と電通ライブが担当し、建築と展示が一体となった空間で、森林再生の歴史と持続可能な未来へのメッセージを伝えています。

5. ガスパビリオン「おばけワンダーランド」/日建設計

「ガスパビリオン おばけワンダーランド」は、日建設計が基本設計を手がけ、「化けろ、未来!」をコンセプトに掲げた建築です。最大高さ約18メートルの三角形断面を持つ鉄骨造の建物は、鏡面の膜材で覆われ、時間帯や天候に応じて外観が変化することで「化ける建築」を表現しています。外膜には、大阪ガスが開発した放射冷却素材「SPACECOOL」を採用し、太陽光を反射しつつ、宇宙へ熱を放射することで空調負荷を軽減するゼロエネルギー冷却を実現しています。また、建材のリデュース・リユース・リサイクル(3R)を徹底し、万博終了後の再利用も視野に入れた設計となっています。このパビリオンは、建築と環境技術が融合した未来志向の空間として注目されています。

6. 大阪ヘルスケアパビリオン/東畑建築事務所

「大阪ヘルスケアパビリオン」は、東畑建築事務所による設計で、「REBORN(生まれ変わり)」をテーマに掲げた次世代型の環境共生建築です。大阪の伝統である「木」と「水」を再構築し、循環型の建築を実現しています。特徴的な膜屋根は、多様な個性を象徴する形状で、水が流れる「ウォーターベール」を形成し、濾過・再利用される循環システムを備えています。内外装には大阪府産のヒノキを使用し、中央のアトリウムには自然光が降り注ぎ、木の温もりと香りに包まれる空間を創出しています。また、リサイクルパルプから製作した「和かみシェード」や、淀川のヨシと紙おむつを再利用した紙管など、サステナブルな素材を積極的に採用。さらに、コンピューテーショナルデザインを駆使し、複雑な形状の膜屋根やDNAをモチーフにした木製のらせん柱など、意匠性と環境性能の両立が図られています。

7. パナソニックグループ「ノモの国」/永山祐子

パナソニックグループのパビリオン「ノモの国」は、建築家・永山祐子の設計によるもので、「解き放て。こころと からだと じぶんと せかい。」をコンセプトとしています。ファサードは、約1,400本の三次元的に曲げられたスチールパイプで構成され、蝶の羽を想起させる「バタフライ・モチーフ」をアーチ状に組み合わせています。各モチーフには金属スパッタリング加工を施したオーガンジーが取り付けられており、風や光に反応して揺らめくことで、時間帯や見る角度によって表情を変える有機的な外観を創出しています。また、建材には自社工場から出る端材や廃材をアップサイクルして活用。子どもたちの想像力を刺激し、五感で体験できる空間としてデザインされています。

8. PASONA NATUREVERSE/板坂諭

「PASONA NATUREVERSE」は、建築家・板坂諭による設計で、アンモナイトの螺旋形状をモチーフにした有機的なフォルムが特徴です。この形状は、生命、宇宙、DNAといった自然界に共通する普遍的な象徴を表しています。内部では「からだ・こころ・きずな」をテーマに、iPS細胞を用いた心臓モデルや、サイボーグ技術「HAL」など、最先端の医療・福祉テクノロジーを紹介。さらに、鉄腕アトムとブラック・ジャックがナビゲーターとして登場し、命の尊さや未来社会の可能性を来場者に体感させる構成となっています。自然とテクノロジーの融合を建築で表現し、持続可能で希望に満ちた未来像を提示するパビリオンです。

9. 飯田グループ×大阪公立大学共同出展館/高松伸

「飯田グループ×大阪公立大学共同出展館」は、建築家・高松伸が設計を手がけ、「サステナブル・メビウス」をコンセプトに掲げています。メビウスの輪をモチーフとした三次元構造体に、京都の伝統工芸・西陣織を最新技術で加工し、外壁全体に纏わせることで伝統と革新の融合を表現しています。この建築は、「世界最大の西陣織で包まれた建物」と「世界最大の扇子形の屋根」として、ギネス世界記録に認定されました。館内では、飯田グループが提唱する未来都市「ウエルネススマートシティ®」の巨大ジオラマや、大阪公立大学との共同研究による人工光合成技術、未来の住まいを体験できる展示が展開されています。建築そのものが、持続可能な未来社会のビジョンを象徴する空間となっています。

10. 三菱未来館/三菱地所設計

「三菱未来館」は、三菱地所設計による地下1階・地上2階建てのパビリオンで、「いのち輝く地球を未来に繋ぐ」をテーマに設計されました。楕円形(生命)、ひし形(地球)、長方形(人間)という三つの幾何学形状を重ね合わせ、それらが相互に支え合う関係性を建築として表現しています。建物は正面を持たない全方位型デザインで、地下のウェイティングパークから始まり、1階のプレショー、2階のメインショー、そして浮遊感のある「サンカクパーク」へと進む流れが特徴です。資源循環を意識し、仮設資材の再利用や掘削土の敷地内再利用など、建設から解体まで環境負荷を抑える工夫が施されています。照明計画には日本の伝統的な空間美も取り入れられており、持続可能な未来社会を建築を通じて体現するパビリオンとなっています。

建築で未来を語る、大阪・関西万博の挑戦

2025年の大阪・関西万博では、単に展示を観るだけでなく、建築そのものが語り手となり、空間体験として来場者にメッセージを届ける構成が多く見られます。nendo、坂茂、永山祐子、高松伸といった日本を代表する建築家たちが、それぞれの思想と技術を注ぎ込んだパビリオン群は、まさに「いのち輝く未来社会のデザイン」を体現する挑戦です。建築という表現手段を通じて、未来への希望や問いを私たちに投げかけてくれる、唯一無二の空間が広がっています。