砂漠のバラをモチーフとした、カタールの文化を語り継ぐジャン・ヌーヴェルの建築「カタール国立博物館」

ペルシャ湾に突き出したアラビア半島に位置する国、カタール。世界有数の石油や天然ガス資源に恵まれ、ここ数十年で急成長を遂げた国の一つです。その昔は海で採れる天然真珠が唯一の財源だったという、遊牧民が暮らす砂漠の国であったカタールの発展の歴史・文化を後世へと伝えるべく、首都・ドーハに2019年に開館したのが「カタール国立博物館」。ユニークな形状と規模感で成る建築は、カタールを象徴するスポットとして国内外から注目を集めています。

砂漠のバラから着想を得たドーハの気候に配慮したデザイン

今回建物の設計を手掛けたのは、プリツカー賞受賞の建築家ジャン・ヌーヴェル。

カタールの砂漠で見られる薔薇のような形状をした石「砂漠のバラ」から着想を得たデザインは、無数の円盤状の「花びら」が複雑に組み込まれた屋根が特徴的であり、カタールの文化や風土をオマージュしています。

キャンティレバーで突出した花びらのようなディスク群は、強い日差しを遮り日陰を生み出しており、ドーハの気候を考慮したデザインとなっているのがわかります。

もともとドーハには1975年、ペルシャ湾沿岸のアラブ諸国初の博物館として開館した「旧カタール国立博物館」がありましたが、建築物の老朽化などにより2015年に閉館。その跡地に新たに誕生したのがこの博物館です。

砂漠のようなミニマルな大空間

建物は全長350メートルに及び、砂漠の真ん中にいるような周囲から切り離された感覚は、館内に入っても継続します。

外壁、内壁共にベージュの砂の色で統一され、全体に薄暗い空間は洞窟の中のような雰囲気に。

所々に組み込まれた窓が、現実に世界へと引き戻します。

史前から現代まで、カタールの発展を辿る11の展示室

館内では、11の展示室にわたって常設展示が行われています。

4億年前の植物や動物の化石、考古遺物、数世紀にわたってカタールと世界をつなぐ主要な役割を担った真珠産業にまつわる宝石や衣装、石油や天然ガスが発見されて以来の都市開発に関する資料などが、大規模な映像インスタレーションとともに展示されています。

斜めになった壁はプロジェクションに活用。

海中の様子やベドウィンのテントの貼り方まで、見応えのある映像作品が続きます。

館内の展示物は8000点に及び、まさに先史時代から現代までカタールの発展の軌跡を多角的にたどることができる貴重な空間です。

館内には展示室のほか、史上最年少で3つ星を獲得したシェフ・アラン・デュカスによる「ジワン・レストラン(Jiwan Restaurant)」があり、最上階に位置するテラスから海を眺めながら、カタールの伝統料理をフレンチの技法でアレンジした美しい料理を味わえます。このレストランとともに、館内のショップの設計は、オーストラリアのシドニーを拠点に活動する日本人建築家・高田浩一が担当。ショップは木を主素材に洞窟の中の更なる洞窟のようなデザインに仕立てられており、こちらも注目のスペースです。

カタールの発展を語り継ぐ建築

砂漠のバラをモチーフとした華やかなフォルムが目を引く「カタール国立博物館」。現代の華やかなカタールはもちろん、遊牧民が暮らす静かな砂漠の国としての歴史、さらには何百年前のカタール半島創成期まで、国の発展の様子が一度にわかる、貴重な文化施設です。

カタール国立博物館
所在地 : Museum Pk St, Doha, Qatar
開館時間 : 9:00〜19:00(金曜のみ13:30〜19:00)
入場料 : 50リヤル