「技術や伝統、素材に感謝しながら設計したい」建築家・小嶋綾香が考える心地よい空間のポイントや空間づくりへの想い
前編:「作り手をイメージできるからこそ、空間に愛着が持てる」建築家・小嶋綾香が語る大切なデザインや〈一畳十間〉について
無印良品やPOLAなどの店舗デザインや、宿泊施設、個人宅の住宅設計まで、日本と上海を中心に幅広いプロジェクトを手掛ける小大建築設計事務所。2022年にオープンした古民家を改修した畳敷きの展示空間〈一畳十間〉も話題を集めています。今回は小大建築設計事務所共同代表の小嶋綾香さんに、心地よい空間のポイントと空間づくりへの想いについて伺いました。
心地の良い空間には日本的な要素があることに気づいた
事務所に隣接するギャラリー〈一畳十間〉を始められたきっかけはどういったものでしょうか。
「京都では毎週のように父に寺院に連れて行ってもらっており、その原風景が大きく影響しているのか、自分にとっての心地よい空間には、畳や漆喰などの日本的な要素が重要であることに気がつきました。また、アメリカや中国で暮らしていたこともあり、日本を客観的に見直す機会も多かったんです。外から見ると、改めて文化や風土など美しい資源が日本にはたくさんあることに気づかされて、それらを継承していきたいという想いから一畳十間プロジェクトをスタートしました。」
〈一畳十間〉プロジェクトを通して伝えたいことはありますか。
「日本の住宅、空間には慎ましいけれど美意識があったり、精神性があったりするといったことを、将来の子どもに伝えていけるような設計にしたいと考えています。」
気になる場所には実際に訪れてみる
中国に建つ「大山初里-Origin Villa-」や星野リゾート「界 玉造」などの宿泊施設も数多く手掛けられていますが、ご自身の旅行や宿泊体験が生かされることも多いのでしょうか。
「写真で見るだけでは空気感がわからないので、気になった場所は実際に訪れて散歩したり、近隣に住んでいる方に話を聞いたり、使用されている材の職人さんに会いに行くことも多いです。」
今までで印象に残った宿泊施設はありますか。
「参考として、いわゆる高級旅館に訪れることも多いのですが、個人的にはレストランで言うと高級フレンチより焼き鳥屋さんで店主とも喋りながらわいわいとした雰囲気が楽しめるものが好きで、旅館も家の個性がわかる民泊のようなものに惹かれます。
中でも群馬の水上にある法師温泉が特に気に入っています。スタッフの方の方言が新鮮だったり、空間としても大浴場の自然光の取り方や枕木の設えなどがとても好きで、参考としてよく眺めています。」
中国には制限がなく自由に作れる豊かさがある
国内のみならず中国のプロジェクトにも多数携わっていらっしゃいますが、中国ならではといったエピソードはありますか。
「全体として、日本より生の感じがありますね。日本では予算が限られていることが多いので、カタログから建築材料を選んでパッチワークのように貼っていくような、ある程度の型があるなかで考えていくという流れがスタンダードです。一方中国では、ないものがあれば作ってみよう、といった感じに制限なく豊かに考えられることが多いんです。
中国のとあるホテルのプロジェクトでは、外壁に左官を塗りたかったのですが現地の職人さんがコテの使い方がわからなかったんです。そこでスタッフが雑巾を投げつけて凹凸を出すことを試してみたり、照明器具に現地の泥を金網に縫いつけてマグマのようなデザインにしてみたりと、面白いものをみんなで一緒に作ってみようという風土があるので、そうした感覚を楽しんで設計しています。」
技術や文化の積み上げの中で私たちは生きている
国内外で様々な文化・技術と共に長く愛される建築づくりを目指している小嶋さん。そんな小嶋さんにとってライフイズ〇〇の〇〇に入るものは何でしょうか?
「“100年以上”です。先日屋久島に滞在したときに、長い歴史の中でも私たちが生きているのはたった100年くらいで、自然から生かされているんだな、ということを強く感じました。設計の中でも、それぞれの地域の自然の美しさや昔から継承されてきた職人の技術や伝統と触れることが多いので、それらの積み上げの中で今の自分たちがいると実感しています。現代はネットさえあればでなんでもできるような時代ですが、加工された素材をネット上で眺めていても実感が湧かないんです。
実際に採石場に訪れてみると、大地から素材を頂いて建築物を作っているのだなと実感します。私たちも100年以上生きるような時代で、建物も100年以上しっかりと継承できるように、周りの人たちや歴史に感謝しながら設計したいと思っています。」
伝統や技術、素材に感謝しながら長く愛される建築を作る
京都での原風景から、日本的な要素を取り込んだ心地の良い空間を数多く提案している小嶋さん。職人はもちろん、空間を構成する素材にも敬意を払いながら生み出される建築だからこそ、時代や国を問わず広く愛され、大切にされる場となるようです。