戦時中に建てられた海運倉庫が谷尻誠の手で甦る。尾道・しまなみ海道の拠点「ONOMICHI U2」

広島県尾道市に2014年に誕生した新たなスポット「ONOMICHI U2」。ここは、戦時中に建てられた海運倉庫をリノベーションして造られた新しい複合施設だ。手掛けたのはSUPPOSE DESIGN OFFICE代表・建築家 谷尻誠 氏。「サイクル」をテーマにしデザイン・設計し、尾道らしい等身大なニュアンスと洗練したデザインが魅せる姿を早速覗いてみよう。

ONOMICHI U2とは

尾道駅から少し離れた海沿いに佇む「ONOMICHI U2」。ここは戦時中に建てられた海運倉庫「県営上屋(うわや)2号」をホテルを中心とした複合施設へ転換するためのリノベーションプロジェクトとして2014年に改修された。

施設内には、地元の食材や生産品を販売するセレクトショップやレストラン、カフェやカフェ、サイクリングショップや雑貨屋などが軒を連ねる。

「ONOMICHI U2」が位置するのは、広島県尾道市と愛媛県今治市の間に浮かぶ美しい島々を結ぶ全長約60kmの「瀬戸内しまなみ街道」の発着点。この街道はサイクリングロードとして有名なスポットであり、日々多くのサイクリストが訪れることも他の施設にない特徴であろう。

手掛けたのは、建築家・谷尻 誠

広島県によるコンペで当選したのは、設計を担当する「SUPPOSE DESIGN OFFICE」と企画運営の「ディスカバーリンクせとうち」のチーム。このSUPPOSE DESIGN OFFICEの代表を務めるのが、同じ広島県出身の建築家、 谷尻誠だ。

彼は今回、ONOMICHI U2の設計を担当するにあたり「倉庫の中で衣食住が連動する」ことを注力したと後に話す。空間の広がりをできるだけ損なうことなく新しい形へと昇華した彼のデザインは、後に多くのメディアで取り上げられ、今では「ONOMICHI U2」が尾道の新たなランドマークとして機能していることは言うまでもない。

テーマは「サイクル」。倉庫の中で見せる循環する空間とは

サイクリストが集う拠点としての利便性を加味して、テーマに掲げられたのは「サイクル」。そこには「活かすこと・残すこと・循環していくこと」の3つの想いが込められている。

リノベーションをすることは、その場所を新たな空間として機能させることであるが、谷尻氏は「リノベをすることで昔のモノが消えてしまうのは悲しい」と考え、「残すこと」で今までここにあった歴史やストーリーを話すことができるようなデザインにしている。

「外観は変えない」元に戻せることを徹底したリノベーション

海運倉庫「県営上屋(うわや)2号」の頭文字をとって名付けられた「ONOMICHI U2」。ここの設計条件の1つに「倉庫の外観は残すこと」が挙げられていた。

そのため、外観は周辺にある海運倉庫と変わらないが、所々にプリントされた店名や誘導サインのデザインが尾道の空気感を損なうことなく、洗練させているのがわかる。

「元に戻せること」にも注力したプロジェクトなため、扉のあった場所にそのまま窓を嵌め込んでいたり、天井に備えられていた空調は、天窓に変えて、倉庫の弱点であった採光量をコントロールしている。

昔ながらの町並みにあう、等身大な素材選びと洗練されたデザイン展開

「町の中の小さな町」のような存在を目指し、倉庫内には様々な店舗が連なる。それぞれ違う業種であるが、館内は黒のルーバーや木材、モルタル、スチールなど素朴な素材で統一され、空間全体が違和感なく纏まり美しい。

5m間隔の柱に設けられた各店舗は軽量鉄骨で作られていることも、外観を壊さず「サイクル」のテーマに徹した今回のプロジェクトの特徴であろう。

店舗の1つKOG BARは、電灯が漁灯を連想させながらも、インダストリアルな空間によく合うデザインが魅力的だ。

サイクリストのためのホテル「HOTEL CYCLE」

ONOMICHI U2のメインとなるホテル「HOTEL CYCLE」は、この場所に多くやってくるサイクリスト目線で作られた新しいデザイナーズホテルだ。館内はスロープやエレベーター、自転車用スタンドが各所に設置され、客室内で愛車と共に一夜を過ごすことができる。

倉庫内の最も光の入らない場所を有効活用し、間接照明で魅せる空間デザインはエレガントで、倉庫らしいカジュアルなニュアンスと相まった独特な雰囲気が実に現代らしい。

入り口には彫刻家・名和晃平の巨大オブジェが出迎え

HOTEL  CYCLEの入り口付近で我々を出迎えるのは、彫刻家巨匠・名和晃平の作品。ショップやカフェが並ぶエリアが比較的カジュアルな空間であることに対して、この作品が突如として我々の前に現れることでホテル側の空間を良い意味で差別化させ、空気感を凛とさせているようにも感じる。

コンパクトな箱のような形が印象的な各室が凹凸のように並ぶエントランス

ホテルの敷地へ足を踏み入れると、まるで旅客船の内部のような2階建のフロアが広がる。各フロアを入れ子にして建て、客室が凹凸のように並ぶ様が面白い。

当時のまま残る倉庫の剥き出しコンクリートの骨組みや壁面と、重厚感ある黒のクロスやルーバー、温かみある木材のアクセントが美しく相まる。所々に置かれたデザインチェアやソファも魅力的だ。

室内は、海辺をイメージした色合い

黒のクロスと金色のナンバリング・ドアハンドルで統一された客室の外観。その中は、ナチュラルな素材でまとめられたカジュアルでエレガントな空間が広がる。

どこか海辺を連想させるカラーリングと素材使いが心地良く全体をまとめ上げる。

大胆な間取りで仕切られたベッドルームとシャワールーム

ベッドルームとシャワールームは横広なガラスで仕切られる。比較的シンプルで柔らかなテイストのベットルームの空間と、「倉庫」「漁港」らしい素材選びが独特な重厚感あるシャワールームのコントラストがかっこいい。

パジャマもU2オリジナルのもの

水兵さんのような白のラインが可愛い、デニム調なコットン生地のパジャマ。その他にも、アメニティ関連のほとんどがU2と地域とのコラボ商品で並び、徹底的な「尾道ブランド」を贅沢に体験できる。

The Restaurantで食べる、贅沢な朝時間も

朝には、3つのメニューから選べる朝食が嬉しいThe Restaurantのモーニングを。海の幸をふんだんに使った絶品朝食と一緒に、漁港をイメージしたデザイン展開やカラーリングに注目したい。それぞれのファニチャーは素朴な素材で作られたものが多いが、空間全体が洗練されているのが分かる。

尾道という地域に根付きながらもうまく時代とデザインをサイクルさせる

谷尻氏がONOMICHI U2の設計デザインを手がける中で、最も意識したであろうテーマ、「サイクル」の在り方。ただ単純にサイクリングカルチャーと絡むのではなく、この地域に密着理解を深くしているからこその「残すこと」を大切にした設計は、昨今人気の「改築リノベーション」の考え方を改めて訴えかけているようにも思える。

そこにある環境と建物を活かし、新しい価値を見出すよう昇華するONOMICHI U2のデザインとブランディングは今後の動きにも期待したい。

ONOMICHI U2

電話:+81848210550
URL : https://onomichi-u2.com
住所:〒722-0037 広島県尾道市西御所町5−11